大きな混乱も禍もないまま、マークは十一月を迎えた。
秋の収穫は例年にないほど豊かで、家畜も夏の旺盛な草を食べてよく肥っている。
戦に焼かれた家も徐々に建て直されていた。
特に大きな被害を被った角笛城の城砦はいまだ大きな傷跡を残しているのだが、かの砦が必要になるような戦は当面ないだろうと応急処置だけ施されている。
昨年の同じ時期に比べれば、奇跡のように穏やかだ。
復興は順調。誰の顔にも笑顔が浮かんでいる。
そしてある日の朝、エドラスの城門前には壮麗な騎士の一団がそろう。
とうとうマークの白き花たるエオウィンが、イシリアンの執政の元へ嫁ぎに行くのだ。
エオウィンは粛々と馬に乗り、黄金館から城門まで見送りに出ていた住人たちの祝福を受けた。金色の髪に花を飾り、マーク特有の文様が美しい刺繍を施したドレスを身にまとっている。すでに花嫁の様相を呈しているが、婚礼のドレスはもっと煌びやかだ。
彼女のすぐ前にはエオメルが先導するように先に立ち、後ろには介添え役のようにがついてきている。沿道の人びとに声をかけられるたびに、エオル王家の姫は満面の笑顔を浮かべて手を振った。
角笛が高らかに鳴らされて、一行は出発する。たちは先頭に並び、周囲を屈強な護衛で囲まれていた。
急ぐ旅ではないが、娘たちも含めて熟練した馬乗りばかりだ。身体を動かせばここちよいほどの気温でもあり、自然と歩みは早くなる。
大勢と一緒に進むのはこれでやっと三度目のブレードも、いっぱしの一人前顔をして走っていた。
「それで、先にミナス・ティリスに寄るんでしたっけ?」
エオウィンの隣を進みながらは訊ねた。彼女も姫君ほどではないが、いつもより着飾っていた。まっすぐな髪に細い銀でできた飾りをつけ、襟と袖と裾に薔薇色のリボンを縫いつけたクリーム色のドレスを着ている。さすがにこのような格好で男のように馬に乗るわけにはゆかず、横乗りをしているのだが。
ただし二人とも口には出さなかったが、いつもの乗り方の方が良いと思っていた。身体は横を向いているのに顔は前を見なければならないので、段々身体に堪えてくるのだ。
「ええ。そこでまず国王陛下……アラゴルン殿に祝福をいただくのです。普通、臣下の結婚式は領地で行うものなので王は関わらないのですけれど、ファラミア様はただの貴族ではありませんからね。わたくしのことも、国民にお披露目しなければいけないのだと……。今更のような気もしますけれど」
目を柔らかく細めて、エオウィンは笑んだ。
「そうよね、ミナス・ティリスの人たちも、エオウィンのことならもう知ってるはずですもの」
アングマールの魔王を倒したほどの人だ、知られていないはずがない。怪我を負って入院したものの、回復したのちは式典に次ぐ式典に、ローハンの姫として出席したのだから。
「だけど楽しみだわ。七層になっている白い都と言われても、想像できなくて。ようやく自分の目で見られるのね」
楽しげに言うに、エオウィンもにっこりした。
「きっと驚いてよ。ミナス・ティリスはエドラスよりずっと大きいのですもの。人の数も比べ物にならないわ。わたくしたちがいた頃は、まだ避難をしていた民がいたのですけれど、今頃は戻ってきていて、以前よりもにぎやかになっているのではないかしら」
「それなら、珍しいものも色々ありそうね」
「ええ、きっと」
女性二人の会話に、護衛の騎士たちが微笑ましげな視線を向けた。景色は冬に向かっているため、枯れた茶色が多い単調なものだが、彼らの中に華やぎがあるのだ。まだローハンの国内であるということで、敵が襲ってくるような危険性は低い。のどかな行軍に、緊張の糸を緩めてしまうのも無理なからぬことである。
「その後はイシリアンへ行くの。こちらでの結婚式が本番かしら。ファラミア様のお身内が揃うというから……」
「ファラミア様のお身内って、どのような方?」
エオウィンは思い出すように顎に指を当てた。
「ええと、一番近いお身内は、母君フィンドゥイラス様の姉君イヴリニエル様、同じく弟君のイムラヒル様。イムラヒル様はドル・アムロスの大公よ。それから父君……先代の執政様のご兄弟はもうおられないそうですから、少し遠目のご親戚ばかりになるのね」
ふっとエオウィンは表情をかげらせた。
「だけど、きっと父祖の地で、デネソール様もボロミア様も喜んでくださるはずよ」
「エオウィン……?」
は彼女の変化がわからず、首を傾げた。
エオウィンは小さくかぶりを振ると、真っ直ぐに前をみつめた。
「わたくしはファラミア様に愛されて、ファラミア様を愛して、幸せになるの。そのためにイシリアンへ行くのよ」
一行は順調に旅を続け、十日後にミナス・ティリスについた。
巨大な都の全容が見えてくると、は驚嘆の念にかられて沈黙する。造形の妙というのは、こういうことを言うのだろう。
話に聞いたとおり都は七層になっており、各階に堅牢な防壁が作られていた。背後はローハンとの国境でもある白の山脈の端、ミンドルルイン山に守られている。最上層には真白な塔がそびえていた。その頂が日の輝きを受けて光る。
ミナス・ティリスでも戦いの傷跡は完全に拭い去れてはいない。打ち壊された跡や、焼けて黒い煤がついたままになっている石壁は痛々しかった。だが人びとの活気は、目を見張るものだった。往来にも家にも陽気な声が途切れることなくあふれ、子供らは駆け回り、大人は忙しくも熱心に働いていた。ローハンの一行が通りかかると、彼らを通すために道を開け、祝いの言葉をかけてくる。誰もが知っているのだ。同盟国の姫が、彼らの一員になることを。
七層目に至る門の前で、一行は馬から下りた。ここから先は馬に乗ったまま入ることができないのだ。
エオウィンやは風で乱れた髪を軽く整える。
薄暗い門を潜り抜けると、最初に目に入ったのは飛沫をあげる噴水と、その池のそばに立つ若木だ。それは秋も終わりに近いというのに、可憐な花をたくさんつけている。
視線を移すと、地上からも見えていた塔がそびえていた。その下には大きな館。すでに連絡が届いていたのだろう、足早にこちらへ向かって来る一団があった。
先頭には冠を被った国王だ。すぐ後ろには執政が、溢れる喜びを抑えきれない様子でついてきている。それから少し遅れて目を見張るほど美しい王妃が、微笑を絶やさずに歩いてくる。
「ようこそおいでくださった、エオメル殿、エオウィン殿。あなた方の到着を待ちわびておりましたよ」
アラゴルンはエオメルとがっしり握手を交わした。
「お久しゅうございます、アラゴルン殿。再びお会いできることを楽しみにしておりました。ミナス・ティリスも復興相成ってきつつあるご様子。安堵いたしております」
二人が話しているそれぞれの後ろでは、ファラミアとエオウィンが目と目で会話していた。互いに慈しむように見詰め合っている。
真面目な話を一通り済ませると、アラゴルンはにやりと笑った。
「いや、エオウィン姫がいつ来られるかと、我らは本当に待ちわびていたのですよ。特に執政殿がね。珍しいことに、先週から気もそぞろになるあまりにポカミスの連続を……」
「王……!」
ファラミアは顔を赤くして声を張り上げた。できることなら口を塞いでしまいたいのだろう、腕がぶるぶると震えている。
王と執政のやりとりを、王妃はくすくす笑って眺めていた。
ミナス・ティリスでの結婚式とそれにつづく宴は日が暮れてから行うことになった。
王妃はエオウィンの支度の手伝いをしに行き、執政もそれなりに準備をする必要があるため、アラゴルンはいささか時間を持て余していた。片付いていない執務はあるが、このようなめでたい日に机に向かう気など起こらない。
そこで彼はふらりとエオメルの部屋に向かった。着替え中だろうが、男同士である。気兼ねをするようなロヒアリムではあるまいと考えたのだが、それは大当たりだった。
エオメルはシャツ一枚でアラゴルンになごやかに応対してきた。本人はそれが失礼に当たるなどとはかけらも思っていない様子である。野伏暮らしが長かったゴンドールの王はそのざっくばらんさに好感を持ちこそすれ、無礼などとは思わなかった。恐縮しているのは、アラゴルンが念のために待機させていた小姓たちの方である。王のお出ましにどうしたらよいのか、心もとなげにしていた。
「ところで、エオメル殿」
アラゴルンは頬をぼりぼりと掻く。聞きたいことがあるのだが、聞いてよいのか確信が持てない。
「何でしょうか」
椅子に座らせられ、くしゃくしゃの金髪にブラシを当てられていたエオメルは振り返った。途端に顔をしかめる。ブラシに髪が引っかかったのだ。
「レオフォスト姫のことなのだがな……。彼女が同行していらっしゃったということは、エオメル殿と将来を約束されたと思ってよいのだろうか?」
「いえ、それは……」
エオメルは苦笑した。
結婚式という慶賀に身内が参列するのは当たり前のことだ。だが嫁ぎ先が遠方となると、女性の参列者は格段に少なくなる。平和になったとはいえ、道中の危険が皆無になったわけではないし、旅の間はなにかと不自由だからだ。
ましてや王家の姫と執政という組み合わせだ。列席者には必然的に格というものを求められる。エオウィンに付き添うことができる女は、王家の出身か、王妃くらいのものだ。
「そうではないのです。ただ妹にぜひにとせがまれたのですよ。本来ならば、がこのような席に参列するには無理があります。現在の彼女は筆頭領主の養女というのが正式な立場ですから……」
「ああ、いや、不服に思っているわけではないのだ。目出度い場だ、大勢で祝った方がよいだろう。しかし、本当になにもないのか? どうも貴殿の随員を見ていると、王妃にするような扱いをしているように思えるのだが」
言われてエオメルは面食らった。
「そうかもしれません。なにしろ、エオウィンが嫁に行ってしまえば、正式に王家の女といえる者はいなくなるのですから。しかし宮廷をまとめるものはいつだって必要なのです。それができる者はいまのところ、先の世継たるセオドレドの婚約者のだけ……。ですから自然にそうなってしまったのでしょう」
「ああ、なるほど。しかし、兄が亡くなった場合、その妻や婚約者は未婚の弟が引き受けるということはよく聞くが、エオメル殿はなさらないのか? むろん、どうあっても気に入らぬ相手というのであれば、その限りではないだろうが」
当然のように言うアラゴルンに、エオメルは静かに頭をふった。
「その気になっている者も、一部にはいるのです。しかし無理でしょう。なにしろ、私はもうふられていますから」
「ふられただって?」
エオメルほどの男が、信じられない……とアラゴルンは目を丸くする。
そんな人間世界の王の驚きには気付かないまま、エオメルは寂しげに笑った。
「従兄とのことがよほど堪えたようです。戦士の帰りを待つのは嫌だと言われました。ですが、できれば一時的な気の迷いであれば良いと思っています」
「それは、まあ、そうだろうな」
同情するようにみつめられて、エオメルはばつが悪そうに視線をそらした。
「結婚の話は、仮定のこととして出したまでのことです。もとより私たちの間に男女の愛はないことはわかっていましたから。ただ、マークにはできるだけ早く王妃を立てる必要があるのです。彼女ならばなにも問題はない。しかし、問題はそういうことではなくて……」
「どういうことなのだ?」
「は世継の元婚約者としてどうしても注目を集めてしまいます。また、身分もエルケンブランドの養娘ということで、疎かにできるものでもありません。私は王として、またセオドレドの弟として、彼女の行く末を見守る義務があると思っています。ですが、戦士以外の職を持つ男で彼女の身分に釣り合うような者など、マークにはおりません。いてもそれは、戦場に出ることもできなくなった年寄りくらいでしょう。さすがに年寄りやもめの後妻にするわけにも……。となれば、彼女の嫁ぎ先はないも同然になるのです」
「それは……たしかに問題だな」
ゴンドールの王は真面目な顔で頷いた。
マークの王はがりがりと頭をかきむしった。せっかく整えたばかりの髪を乱されて、小姓は残念そうな顔になる。
「本当に、一時的なものであればいいのですが……」
エオメルは深々とため息をついた。
「それで、ローハンとしては、王妃に姫が立つことはなく、いまだ空席のままと……?」
念を押すようにアラゴルンは訊ねた。
「そういうことです」
「そうか……」
若き王の解答に納得しないものも感じたが、アラゴルンはこれ以上根掘り葉掘り訊ねるのはやめにした。下手に勘ぐられてしまうのはまずいのだ。
(しかし、これなら大丈夫だろうか……)
ゴンドールの王は改めて同盟国の王をながめた。
エオメルという男は見てくれには問題ない。背は高く、たくましく、容貌も整っている方だろう。
性格も悪くない。情に厚くて裏表がないのだ。王という立場にいながらざっくばらんで、人好きのする笑顔をしている。女の扱いに不慣れな点はあるが、これから学んでいけば済む事だ。
年は二十八。結婚するには若すぎるということはない。いや、ローハンの現状を考えれば、早ければ早いほど良いはずだ。
(イムラヒル公が娘御を彼に見合わせてみたいと言っていたからな。すでに殿と約束しているようなら、諦めろといわなければならないかと思ったが……)
エオメルはに未練があるようだ。しかし肝心の娘のほうにその気がないようである。ならば、別の娘を紹介されたところで問題はないだろう。最後に決めるのはエオメルなのだから。
ゴンドールでの祝宴は滞りなく終わり、イシリアンへ移ることになった。
ファラミアやその身内と随員が加わり、一行の人数は倍ほどに増える。一昼夜ほどで領主館のあるエミン・アルネンに到着した。
十一月も終わりに近いとなると、ローハンならばすでに木々の葉は枯れ落ちている頃合だ。しかしイシリアンではまだ秋の盛りであり、赤や黄に染まった森が実際の気温以上に暖かな印象を与えている。
風景も赴きもローハンとはずいぶん違う。冥王が滅ぶ以前には暗黒の国に程近いということもあり、住人も少なくなり荒れ果てたと聞いているが、古い町の持つ優雅さは消えていない。
ファラミアの館が近付くと、ここでも大勢の人びとが出迎えに出ていた。そのうちの何人かはゴンドールでは珍しい金髪の持ち主である。おそらくイムラヒルの関係者だろうとは見当をつける。ドル・アムロスの大公自身、金色の髪と海灰色の目の持ち主なのだ。
馬から下りたエオメルは、妹の手を取り粛然とした面持ちで進んだ。隣にはファラミアが、相変わらず緩んだ頬をして歩いている。は少し後ろにいた。彼女は名目上、エルケンブランドの代理として来ているので、彼らと並ぶことはできないのだ。
滞在用の客室に通されたは、中で待ちかねていた侍女たちに荷物を預けた。
これからまた数日に渡って宴会がある。ドレスの補修をするだけでも一苦労するだろう。もっとも、それはがすることではないのだが。
「失礼いたします」
着替えを始めたところで、外から控えめに声をかけられた。侍女が用件をうかがいに行く。すると訪問者はイムラヒルの娘だというのだ。まだ支度が終わっていないのだがと答えさせたが、ぜひにと言われては承諾する。
そっと中へ入ってきた娘は、美しかった。黒髪に青い目をしており、線が細い。エオウィンよりいくつか若いくらいだろうか。背はあまり高くないが、子供というほどではないように感じた。
「イシリアンへようこそおいでくださいました。わたくしはドル・アムロスの大公イムラヒルの娘でロシリエルと申します。従兄の執政ファラミアより、ご婦人方のお世話をおおせつかっております。なにか、ご不自由はないでしょうか」
ロシリエルは緊張しているらしく、白い肌が薔薇色に染まっている。ファラミアから任命されたのであれば、おそらく先にエオウィンに挨拶をしにいったのだろう。一生懸命な様子に、は微笑ましい気持ちになった。
「はじめましてロシリエル姫。わたくしはローハンは西の谷の領主エルケンブランドの養女でと申します。不自由は何一つございません。充分に歓待していただいておりますわ」
にっこりと笑って見せると、ロシリエルはほっとしたようにはにかむ。深窓の令嬢という言葉がぴったりな少女だとは思った。なにしろ自分の知っている姫といえば、戦場に行って魔王を倒したエオウィンや、すでに何千年もの年月を過ごし、少々のことには動じそうもないアルウェンしかいないのである。保護欲を掻き立てられるような姫の出現に、新鮮なものを感じた。
「それはようございました。なにぶん、このようなことには不慣れなもので、粗相があっては大変と気を揉んでおりましたものですから……。今後も、なにかございましたら、すぐに申し付けてくださいませ」
「ありがとうございます、姫君」
それから二言三言、世間話をすると、ロシリエルは退室した。
「ロシリエル姫って、どんな方?」
絶対に戻ってこないと確信できるほど間を置いて、侍女たちに尋ねる。彼女たちは互いに顔を見合わせると、我先に話し出す。
「イムラヒル大公の一番下のお子様です。上に兄君が三人いらっしゃいます。お三方ともペレンノール野や黒門前での合戦で武功をあげておりますの」
「姫様は外見そのもののお可愛らしく優しい心根の持ち主ですわ。エルフの血を引いているということで、歌が大層お上手ですの」
「エルフの血ですって?」
意外な単語が飛び出たことで、は目をまたたかせる。
「はい。ドル・アムロスの大公家には、エルフの血が流れていらっしゃるのだそうです。本当のところはどうなのか、わたくしなどにはわかりませぬが、姫君のお姿を拝見していると、それも頷けるように思えます」
「確かに」
は頷いた。
アルウェンとは系統が違うが、ロシリエルも水際立った美人なのだ。
「これは確認なのだけど、ゴンドールではエルフの血が入っているというのは、それだけ尊いと思われるのかしら?」
侍女は少し考え込んだ。
「そうですわね。エルフというものは、わたくしたち人間よりも優れている種族ですから。必ずしも人の子の味方というわけではありませんが、それだけにエレスサール王のご親友であるレゴラス様や、王妃のアルウェン様のように人とエルフが結びつくという類稀な出来事に対して、尊崇の念を抱くものだと思います」
「そう。では本当に名門中の名門のお姫様ということになるのね。ところで、ロシリエル姫には、将来を約束している方がいるのかしら?」
彼女たちはこの館に仕えている娘たちだろうが、使用人同士の横のつながりというものはなかなか侮れないものがある。知っていたとしてもおかしくはない。
「いらっしゃらないと思います。ご結婚なさるにはまだお若いですから。ですがあの美貌とご性質に加えて由緒正しいお家柄でいらっしゃいますので、水面下でお話が進んでいてもおかしくはありませんわ」
「そうなの? 姫はおいくつ?」
「御年二十歳でございます」
「それならわたしと同じだわ」
「え……?」
何の気なしにが呟くと、侍女たちは絶句した。
さらに続けて、
「これといって難点は見当たらないし、わたしはいいと思うんだけど、陛下はどうかしらね」
というと、完全に目を剥いた。
「あのう、姫君……」
ようやく落ち着きを取り戻した侍女がおずおずと尋ねる。
「なあに?」
「失礼ですが、もしやロシリエル姫様をローハンへお嫁入りさせようとなさっているのでしょうか?」
「エオメル王のお妃がまだいないことは知っているでしょう? わたしだけではなく、ローハン家臣団はこれという姫がいたら候補にいれるつもりで来ているのよ。最終的に決めるのは陛下だから、こちらに決定権があるわけではないのだけど。あ、だから姫や大公方にこの事を話すのは無しにしてね」
唇に指を当てて、は片目をつぶった。
「ですが、その……姫様がエオメル王の妃君になられるのでは?」
困惑している侍女たちに、ここでも勘違いが浸透してしまっているとは肩を落とした。
「違うわ。わたしはエオメル様の前の世継の君の婚約者だったの。エオメル王ではないわ」
「まあ、わたくしたちてっきり……」
侍女たちは目と目で会話する。まだ半信半疑といった様子だが、当の本人にきっぱり否定されたため、それ以上重ねて問う勇気はないようだった。
(誤解を解くのって、難しいのね)
はそっとため息をついた。
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あとがきは反転で↓
さーて、エオメルの方にも女の影がちらついてきましたね(笑)
や、ロシリエルは本来ならエオメルのお妃になっていた姫君なので、邪魔をしているのはヒロインの方なのですが…。
さて、この後ドル・アムロス大公家の人びとがどの程度活躍するかわかりませんが、追補編にも載っていない人が出てくる予定ですので、ご紹介をしておきます。
出典はTHE
HISTORY OF
MIDDLE-EARTH の12巻221ページです。家系図が載っています。
イムラヒルのお父さんはアドラヒルです。3010年にお亡くなりになっています。
そのアドラヒルには1男2女がいます。( )は生年
長女 イヴリニエル (2947)
次女 フィンドゥイラス(2950)
長男 イムラヒル (2955)
大公は末っ子だったのですね。
で、その三人のお子さんたちのさらにお子さんたちはといいますと、
イヴリニエル→記載なしのため、不明。誰に嫁したのかも不明。ちなみに3019年時点で生きているのかも不明。ただし、ドル・アムロス大公家は怪我とか病気などで不慮の死を遂げない限り、だいたい百歳程度の寿命があるため、生存している可能性は高い。でも、女性だと産褥とかあるからな〜、どうなんだろう。
フィンドゥイラス→言わずと知れた、ボロミア、ファラミアの母。執政デネソール2世の奥様でした。
イムラヒル↓【 】は3019年時点での年齢
長男 エルフィア (2987) 【32】
次男 エルヒリオン(2990) 【29】
三男 アムロソス (2994) 【25】
長女 ロシリエル (2999) 【20】
えーと、実は、次男のエルヒリオンの読み方には自信が持てません。
なぜなら家系図のとこと索引でスペルが違うという困ったことになっているからです…。
家系図ではErchirion
索引ではErchinion
ま、多分家系図のとこも文字が手書きだったので、rをnと読み間違えたのだと思いますが。
にしても、実際なんて読むのが正しいのかなー。
エルヒリオンでいいのか、エルシリオンなのか。エルキリオンかもしれないし。
とりあえず春日はエルヒリオンにしておきます。
あ、あと長男エルフィアにはすでに子供がいます。ので奥さんもいるでしょう。
それと、デネソールは兄弟がいるようなのですが、名前がわかりません。三人兄弟(男女の内訳もわからないので兄妹かも)の長男のようです。
ので、作中ではすでにファラミアの父方の親戚はいないということで、ひとつ。