その1


「なんだかカラフルですねー」
 目の前に出された物体を見てはしばらくかける言葉を思いつきませんでした。
 笑顔のまま固まっていたのですが、ようやく褒めているのかどうか微妙なことを言うとこれをどうしようかと途方にくれました。


 エオウィンがファラミアの元へ嫁ぎ、がレゴラスとイシリアンの森に越してから少し経ちました。
 ミナス・ティリスも徐々に復興してきましたし、ここらで一丁皆で集ろうかということになりました。
 ホビット庄からはサムとメリーとピピンが来ます。フロドとガンダルフはすでに西に発っているため参加することはできません。
 ローハンからエオメルがロシリエルを伴って来ます。ドル・アムロスからもイムラヒル大公が来ることになりました。ギムリも来ます。
 場所はミナス・ティリス、というのが妥当なところなのですが、アラゴルンが書類仕事ばかりが続いているせいで相当ストレスが溜まっているらしく、とにかく外に出たい出たいと騒いだのでイシリアンの執政の館になりました。
 エオウィンは大勢のお客様が来るというのでとても張り切っています。
 レゴラスやもお客様として招かれているのですが、イシリアンの森は執政の館からそう遠くはありませんでしたし、庭を整えるのはレゴラスの仕事になっていました。そういうこともあって二人は一足先に執政の館に行き、お客様を迎える用意のお手伝いをすることになりました。ちなみにファラミアはここのとこずっと帰ってきません。アラゴルンから目を放すと逃亡する恐れがあるといって帰れないようなのです。

 はエオウィンからお客様にお出しする料理の味見をして、率直な意見を聞かせてほしいと頼まれました。
 気軽に承諾したは、そのときの自分を呪いました。
「ねえ、エオウィン。お料理はみんなあなたがするの? 大変……じゃない?」
 とりあえず口にするのが怖い感じなのでは別の方に話を向けようとしました。
「もちろんほとんどのお料理は料理人に作ってもらいます。ですけどせっかくですから、わたくしも何かお作りしたいと思いましたの。さあ、遠慮しないで召し上がってくださいな。わたくし、あまりお料理は得意ではないのであまりおいしくないかもしれませんけど……これは結構上手に出来たと思いますの」
 輝く笑顔で進められて、はテーブルの上の物体に恐々と目を向けます。
 さっきから目をそらしていたそれは、どうやら何かのソースがかかった肉のようでした。
 肉の種類はよくわからないのですが、荒いミンチをごてごてとこねたらしいでこぼこした形になっています。妙に黒っぽいのですが焦げているわけではありません。むしろ見た感じが、むにょっとしているのです。
 の記憶のなかでこれに一番似ているものといえばハンバーグですがどちらかといえばドロ団子の方がもっと近いと思いました。
 それにかかっているソースというのがまた肉以上に正体不明です。
 なにしろ見る加減によって色が違います。
 赤っぽかったり青っぽかったりところによっては緑や紫なのですが、全体的には黒っぽいのです。光を反射しているにしても得体が知れません。一番近いのが水溜りに浮いている油でしょうか。
 二つ合わせて水溜りに浮かぶドロ団子……。
 もはや食べ物ではない気がします。
 しかし勧められてしまいました。
 エオウィンは友人です。正直に「おいしくなさそうだからヤだ」とは言えません。友情にヒビが入ってしまいます。
 意を決して一口食べてみました。
「どうかしら?」とエオウィンが期待に目を輝かせています。
「あのね……」
 はゆっくり味わってから口を開きました。
 口が噛むことも飲むことも拒否してしまったためなかなか飲み下せなかったというのが本当のところですが。
「ソースは、もうちょっとあっさりした方が、いいと思う。(コールタールをそのまま飲んだらこんな味するんじゃないかという気がする)」
「わかったわ。他には?」
「お肉の方もえーと、スパイスが効きすぎ……かな?(甘くて辛くって酸っぱくて苦い……)味付けは、肉をメインにしてソースを控えめにするか、ソースをメインにして肉を控えめにするか、どっちかがいいと思う」
 は頭が真っ白になりながらもこの物体を幾分でもマシな料理にしようと必死になって考えました。
 エオウィンは嬉しそうに礼を言いました。
 は卓上の葡萄酒を飲んで口直しをしながら以前、彼女と世間話をしたときのことを思い出しました。
 確かにエオウィンはこう言ったのです。
 ファラミアがいるときは大抵メインの料理をエオウィンが作っている、と。
 ファラミアはそれをよくおかわりするのだ、と。
(ファラミア…愛だね)
 ミナス・ティリスでアラゴルンに手こずらされているだろう執政を思い出し、彼の鉄の胃袋に驚嘆の念を覚えながら、は心の中ではらはらと涙を流しました。




その2


「もしよろしかったら、もなにか作りませんこと?」
「わたしもですか?」
 ようやく謎の物体の衝撃から立ち直ったはエオウィンの提案にふむと考え込みました。
「ええ。レゴラス殿がこちらにいらっしゃるといつも自慢していかれますもの。とてもお上手なのですってね」
「ん〜、でもわたしが作るのって、お菓子がほとんどなんですよ」
 結婚してから初めて知った事実。
 レゴラスはかなりの甘党だったのです。
 エルフというのは人間のように三度の食事を取ることはほとんどありません。
 日に一度だけでも多いと感じるらしいのです。二、三日に一度というのもざらだったりします。
 指輪破棄の旅の最中、レゴラスは皆と一緒に食事を取っていたのですが、それは皆に合わせていただけのようでした。
 それは置いといて、そのたまの食事にレゴラスはの作ったものを頻繁に望むのです。それも甘いものばかり。
 は人並みに料理をこなせますし、お菓子作りは得意でしたから作るのは苦になりません。ですが初めの頃は栄養が偏ると思い三回に一度くらいしか作らなかったのですが、よくよく考えたらレゴラスはエルフです。エルフというのは病気にはならないのです。だから甘いものばっかり食べていても虫歯にもならないし肥満にもならないのでしょう。偏食が祟っての貧血や、その他疾病も無縁です。食べたものがすべてエネルギーになっているようなのです。の故郷にはネコ型ロボットというものが登場する有名なお話がありましたが、それと似たような造りになっているのかもしれないなあと思ったことがありました。
「あら、それならぜひに。何か珍しいお菓子でも作ってくださいな」
 エオウィンは両手を合わせて喜びました。
「そうですね。なんか作りましょうか」
 も乗り気になりました。


 当日。
 執政の館の料理人が腕を振るったおいしい料理と、のアドバイスによってやや改善されたエオウィンの作った肉料理が並びました。
 出席者の中で後者のそれをおいしく平らげたのはファラミアだけでした。
 最後にデザートとしての作ったものが出されましたが、それをおいしく平らげたのはレゴラスだけでした。
 なぜといって、それはすっかりレゴラスの味覚に慣れたがいつものように作ったせいで激甘になってしまったからです。



あとがきは反転で↓
オチてないので30点。

マナシさまからのリクエストその1で「エオウィンと料理」でした。
SEEの追加映像でエオウィンの料理の下手っぷりが判明したわけですが、きっと彼女はお姫様だから料理したことなかったんですよ!んでもって初恋の人(アラゴルン)になんか手料理を食べさせたいという乙女心できっと初めて料理したんですよ!とか私は思っているんですけど…。しかしあの白いのは…

あとは…レゴラス(笑)
甘党にしてしまいました。こんな設定はトールキン教授は作ってないです。
でもエルフってどのくらいの頻度でご飯食べるんだかよくわかんないです。
さすがに食わなきゃ死ぬらしいですが(シルマリルの物語にいるんですよ、餓死させられた子が・涙)毎日必ず食わなきゃならないというほどでもないような気がする。
肥満は病気の元ですけど肥満自体は病気じゃないはずですし、そうなるとエルフも太るのかなあ。想像するのがヤなので、エルフに肥満なしってことにしましたけど(羨ましい…)



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