注意:この話は単品でも読めますが、先に番外編「アダールとナネス」を読んでおくといいかもしれません。
指輪戦争が終わってから二年が過ぎたあたりの頃です。
すでにレゴラスは同胞を引き連れてイシリアンに移住していたので、少し静かになった緑葉の森に、ある時ひょっこりレゴラスが里帰りをしにきました。
夫婦喧嘩でもしたのかと心配になったスランドゥイルは息子の胸倉を引っつかんで問いただしましたが、特別そういったことではなく、ミナス・ティリスの再建のためにゴンドールに留まっていたギムリが一度エレボールに戻ると言ったので、一緒に来たというのです。
ギムリたちドワーフはミナス・ティリスだけではなく、移住した燦光洞のすぐそばにあるヘルム峡谷の修復なども請け負ったので、必然的に人手も道具も材料も足りなくなりがちなのです。
ギムリは今回、必要な道具を取りにエレボールへ帰郷したのです。レゴラスは植樹と庭の手入れをしにミナス・ティリスにいたのでそのまま旅立ち、には先に行ってるから飛んできてねと手紙を送りました。
しかしから今回はいけないという返事がきました。
レゴラスはがっかりしましたが、それ以上に残念に思っているのはスランドゥイルと王妃のほうでした。イシリアンに移住するのが彼らの感覚ではあまりにも早かったので、ほとんど共に過ごすことができなかったのです。
そんな時、からスランドゥイル宛に手紙が届きました。
の作った鳥はそれは早く飛び、休む必要もないのでイシリアンからでも二日あれば充分着くのです。
スランドゥイルはそれを読むや、さっと顔色を変えて玉座から立ち上がりました。秀麗な顔には怒りの表情があります。
スランドゥイルは長衣の裾を翻しながらレゴラスの部屋に着くと、ノックもせずに開け放ちました。
「レゴラース!!」
「……父上?」
自室の寝台で寝そべって書物を繰っていたレゴラスは、父親の剣幕にきょとんとした表情になりながら起き上がりました。
「どうかなさったのですか?」
「どうしたもこうしたもあるか、この馬鹿息子!」
スランドゥイルはこめかみに青筋を浮かべて怒鳴りました。
「なんなんですか、一体」
いきなり怒鳴りつけられてレゴラスは困ったように父親を仰ぎ見ます。
スランドゥイルは軽く呼吸を整えると畳んだ手紙をレゴラスに見せました。
「先ほどより手紙が届いた」
「あ、私宛ですか?」
スランドゥイルは渡してくださいと手を伸ばしたレゴラスからひょいと遠ざけて、届かないようにしました。
「いいや、コレは私宛だ」
「なんでが父上に手紙を書くんです」
「義理であっても娘は娘だ。何かあったら連絡をよこすのは当然だろう」
「そうかもしれませんけど。で、何が書いてあったんです? それがお怒りの原因ですか?」
「そうだ」
スランドゥイルは腕を組んでレゴラスを見下ろします。
と、視線をそらして悲しげにふっと息を吐きました。
「も気の毒になあ。こんなのが夫とは」
「な、なんですか、その言い方は! が私に不満があるとでも言ってきているんですか!?」
「のようにできた娘が告げ口などするものか。不満があったらお前に直接言うておるだろうよ。何、ちょっとした近況報告なのだがな、どうも身体の具合が思わしくないようだ」
「え……」
喚いていたレゴラスは、その一言で静かになりました。
「しばらく前から体調がおかしいのだそうだ。寝込むほどひどくはないそうだがな。しかし元は人間とはいえ、今では病と無縁になったあの娘は病を高ずるはずもない。だがヴァロマ殿から伺っておるが、アルダの物質でできた身体に完全に馴染むにはしばし時間がかかるとのことだった。それはそなたも知っておろう?」
「はい」
レゴラスは震える手を握り締めて青ざめています。
「友情も結構。里帰りも悪いことではない。が、お前はまずのことを第一に考えるべきではないか? 彼女が充分新たな身体と新たな土地に馴染むまで、お前は側を離れるべきではなかった。違うか? お前はそれを怠った。それがこのざまよ。あきれて物も言えぬわ」
そこまでいうと、スランドゥイルは精一杯威厳を保って腕を組みます。
しかし部屋の中には既にレゴラスの姿はありませんでした。
にやり、と笑ったところで開け放たれたままの扉から王妃が顔を出します。
「どうしたのだ。今レゴラスが泣きながら馬を呼んでおったが」
「ああ、イシリアンに戻るそうだ」
噴出すのを堪えながらスランドゥイルは王妃に手紙を渡しました。
「結婚間もないくせに妻を放っておくような馬鹿者には説教の一つも必要だろう?」
「おや、子ができたのか。まったく、あれがほけほけと帰ってきおるからすることもしておらぬかと思っておったよ」
王妃はあきれたように眉を寄せ、腰に手を当てました。
エルフの習慣では妊娠期間中から子供が生後間もない間、夫婦が離れ離れになりそうな場合には子供を作らないのです。逆に言えば子供を作るための行為をした場合、妊娠をしていないとはっきりするまではレゴラスはの側を離れてはいけなかったのです。
ミナス・ティリスならばともかく、緑葉の森は遠すぎます。
「まあ、幸い、といってはなんだが、ガイアでは特にわれらのような習慣はないようだからな、今回は勘弁してもらおう。の要望にも応えられたことだしな」
「この、レゴラスには自分で言いたいからできれば子供ができたことを知らせずに早く戻ってくるように伝えてくれませんか、というところのことか? スランドゥイル、そなた、何と言ったのだ」
「何、の具合が悪い、とな。嘘は言っておらぬ。レゴラスのあの様子ではイシリアンに着くのに一月とかからんのではないかな」
しれっとしてスランドゥイルは答えました。
「確かにの。つわりはエルフであっても起こること。あれは確かに体調がおかしくなるわなあ。病ではないが」
王妃はすっかり騙されているであろう息子をやや不憫に思いながらもやはりエルフでしたので、夫の務めをないがしろにしたレゴラスはそうされても仕方がないなあと思いました。
「生まれるのは夏の初めだそうだ。頃合を見てわれらもイシリアンへ行くぞ」
スランドゥイルは機嫌よく笑います。が、
「そうじゃの。わたくしはあと半月くらいしたら出発できるだろう。子が生まれたら知らせるゆえ、そなたは後から来い」
王妃はそっけない風です。
「一緒に行かぬのか?」
スランドゥイルは不満そうに唇を曲げました。
「王と王妃がそろって長いこと国を空けるものではないよ。イシリアンにはわたくしの信頼する女官を何人も送ったが、やはり出産ともなれば母親が付いていたほうがよかろう。だからわたくしが先に行く。そなたは孫の名前を考えて待っておれ」
王妃はむくれる王の頬に口付けると満面の笑みを浮かべます。
この笑顔に弱いスランドゥイルはやれやれと肩をすくめて、「わかった」と言いました。
(まあ、子が出来たのはめでたいことだな。それはいいのだが……)
馬を進めながらエルロンドは釈然としない思いでいました。
「なぜ、私までイシリアンに行かねばならんのだ?」
「なんだ、エルロンド。そなた、私の孫が生まれたというのに祝いもせんつもりか」
「そんなつもりはない。私とて祝いの品は用意している。だが私のみならず、裂け谷の民のほとんどは西へ渡るのだ。その準備に忙しいのだぞ。ロリアンやそちらの森ならいざ知らず、イシリアンは遠いではないか」
しかしエルロンドの言いにスランドゥイルは鼻を鳴らしました。
「それは来年の話だろう。だいたいそなた、わが友ビルボも連れてゆくくせに、私の頼みの一つも聞けんというのか? ああ、そうか。そなた、アルウェンより先にうちの可愛い娘が孫を生んだので口惜しいのであろう?」
「スランドゥイルッ!!」
呵呵と笑うスランドゥイルに思わずエルロンドは拳を握り締めました。
が、寸でのところで思いとどまり、この変わり者の友人を横目でじとりと眺めてため息をつきました。
(まあ、彼には借りがあるからな)
先の指輪戦争で、裂け谷はまったく被害を蒙ることはありませんでした。
それは裂け谷が隠された場所にあった上に、エルフの指輪で護られていたということもあるのですが、一番の要因は東と南にエルフの国があったことでした。
南はロスロリアン。
東は闇の森です。
ロリアンには上古のエルフの中でも力の強いガラドリエルがおり、また彼女もエルフの指輪の一つを持っていました。三度攻撃を受けましたが三度とも退け、ロリアンの隣にあるドル・グルドゥアを破壊したのです。ロリアンは森に多少の被害を受けたに留まりましたが、闇の森はもっとひどかったのです。
闇の森にはエルフの指輪はなく、(渡したところで受け取らないだろうとエルロンドは思っていましたが)人数はいましたが、装備はロリアンほど整ってもいませんでした。彼らは森が闇に覆われてからずっと戦い続けていたので各人の技量は相当なものでしたが、それでも被害は大きなものになったのです。
また指輪戦争の八十年ほど前に起った五軍の合戦でも闇の森は被害を出しています。そのときの合戦からスランドゥイルは谷間の国とエレボールと密かに協定を結んでいたようでした。人間とドワーフ、森のエルフが踏みとどまったおかげで裂け谷は守られたようなものです。
恩着せがましくいうようなスランドゥイルではありませんでしたが、エルロンドは彼には心の底から感謝をしていました。これでいきなり裂け谷へ現れて、訳もわからないうちに引っ捕まえられて旅立つことにならなければ西に行く前に直接礼を言いに行こうと思っていたのですが……彼のせいで準備が少し遅れることになってしまったのでそれはなしにしようと決めました。
「おお、着いたのだね。スランドゥイル。と、おや?」
迎えに出た王妃はぱちくりと瞬きました。
「そなた、エルロンドかの?」
「これは……エレナカレン様でいらっしゃいますね。お初にお目にかかります。エアレンディルの息子エルロンドでございます」
「そなたの息子らはわが森に何度も遊びに来たものじゃが、そなたが来ることはついぞなかったのう。お互い長い年月を生きておるが、第三紀も終わってようやく相見えることになったな」
「左様でございますね。御前は白の会議に出席することもございませんでしたから」
「ああ、勘弁してくれ。わたくしはノルドが大勢いる場所にはいたくはなかったのだもの。特にそなたの姑が嫌いでの」
はっきりという王妃にエルロンドは苦笑します。
王妃のノルド、特にガラドリエル嫌いは有名なものでした。とはいえノルドであればすべて嫌いかというとそういうわけでもなく、西から直接戻ってきたノルドだけが当てはまるのです。ノルドが戻ってこなければ中つ国に起こった災いの多くは起こらなかったのだろうから、というのが彼女の言い分なのです。
「まあ、ともかくこちらへ。今日は大勢客がみえておるでの」
「ほう?」
エルロンドとスランドゥイルは王妃の先導でイシリアンの森を歩きます。
森はまだ闇の傷があちらこちらに残っていましたが、それらをものともせずに旺盛に育った植物の茂みが、若い木があるのです。スランドゥイルは古い木に絡まる蔦に咲くオレンジ色の花を手折り、自分の冠(夏の花で作っています)に加えました。
「アダール。それにエルロンド様、ようこそいらっしゃいませ」
赤子のいる部屋へ行くとが青い花の刺繍のある白いドレス姿で出迎えました。
「久しいな、。もう起きて大丈夫なのかね」
「はい。お産もずいぶん軽かったのでもう平気です」
「森に新たな喜びが生まれてことに祝福を。以前よりも輝いていらっしゃるな、アルフィエル殿」
「ありがとうございます、エルロンド様」
「私が知らぬ者が何人かおるようだな。ほれ、レゴラス、さっさと紹介せぬか!」
スランドゥイルは部屋をぐるりと見渡すと、小さな揺りかごの横に膝をついたままこちらにこようともしない息子を呼びました。
「レゴラスはああしてちい姫から離れんでのう。まったく親馬鹿な子じゃ」
王妃はしかしまんざらでもないように微笑みました。
スランドゥイルとエルロンドが赤子の寝ている揺りかごに近づきます。
「そなたたち、帰ってこないと思っていたら、ここにいたのか」
揺りかごの周りにはエルロンドの双子の息子たち、エルラダンとエルロヒアもいました。
「お久しぶりでーす、父上」
「レゴラスの子供、可愛いですよ」
ほらほらと双子たちはエルロンドの袖を引っ張ります。
「エステル、息災のようだな。アルウェンは連れてこなかったのか?」
エルロンドの義理の息子でゴンドールとアルノールの王であるアラゴルンが軽く礼をしました。
「彼女は二日後に到着する予定です。私はハロンドールの視察の帰りにそのまま寄ったものですから」
「そうか」
一方スランドゥイルは初めて会うファラミアとその妃であるエオウィン、ローハンの王エオメルと挨拶を交わしていました。
迫力のある美人であるエレナカレン王妃に会った時もやっぱり驚いていましたが、三人とも派手な顔立ちと派手な装いのスランドゥイルに思わず息を飲みました。
エオメルは宝石の一つも付けていないのに妙にきらきらしいスランドゥイルを眺め、
(レゴラス殿はご両親のどちらにもあまり似ていないなあ)
と思っていました。すると、
「ああ、あれはわが父オロフェアに似たからな。だから私やエレナよりもずいぶんと顔立ちが地味でなあ」
スランドゥイルがさもありなんといった風にいうのでエオメルはびっくりして叫びました。
「し、失礼を! 口に出したつもりはなかったのですが」
「いや、そなたの顔に出ておった。エオメル殿、そなたずいぶんわかりやすいな」
ふっと笑いかけるとエオメルは真っ赤になりました。
「兄上……」
エオウィンもばつが悪そうに頬に手を当てます。
「まあ、そういう者は嫌いではないぞ」
「は……。あ、ありがとう存じます」
スランドゥイルはひらひらと手を振ってその場を離れます。
そして赤子の顔を覗き込みました。
赤子は清潔な産着を着てベッドに仰向けになっていました。人が大勢いるのが珍しいのか大きな緑の目をぱちぱちとしています。短い髪は金色ですが、レゴラスのものよりも濃いのでスランドゥイルの色に似ています。顔立ちは将来の美人を窺わせるものでした。
「エレナに似とるなあ」
スランドゥイルが呟くと、レゴラスが頷きました。
「そうなんですよ。なんかこの子、私との娘というよりも、父上と母上の娘みたいだなーって思いました」
「うむ」
「名前は考えてくださいましたか?」
「そうだな。いくつか候補があるが、金髪で女の子だからな、ロスマリエンにしよう」
「あー、可愛いですねー」
そのとき赤子がだーとかあーとか言いました。
「しゃべるにはまだ早いから違うってわかってるんですけど、なんかパパって呼ばれてるようで、なんか照れるんですよ」
レゴラスはとろけそうな笑顔で赤子の頬をなでます。
エルフの言葉で父親のことをアダールと言います。舌足らずな言い方になりますが「あだー」でも一応通じます。
「本当に親ばか全開だな、お前」
「そなたもこんな感じであったろうに」
何を他人事のようにと王妃が言いました。
「のう?」
さらに王妃はそなたも同じであろう? というようにエルロンドに振りました。双子の息子たちがにやにやしながら見ているので、エルロンドは咳払いをしてごまかします。
「ふーむ」
スランドゥイルは考え込むようにあごに手を当てます。
「レゴラス」
「はい?」
レゴラスは緩んだ頬のままスランドゥイルを振り仰ぎました。
「この子、うちの森で育たせぬか?」
「はあ?」
レゴラスは一瞬言われたことがわからないようでしたが、すぐに立ち直りました。
「何を言われるのです」
「いや、私はずっと妃似の娘が欲しいと思っていたのだよ。しかし悲しいかな、エレナはそなた一人生むのが限界であったからな。この際孫でも構わん。私にくれ」
「なにが「くれ」ですか! いやですよそんなの! 私の娘なんですよ!!」
しゃあしゃあと言うスランドゥイルに、レゴラスは顔を赤くして噛み付きます。
「ちゃんと父はそなただと教えるわ。そんなに怒ることもないではないか。どうせそなたあちこち放浪するつもりなのであろう? 途中で寄ればよいではないか」
「いーやーでーす!」
「娘ならばがまた産んでくれるあろう。一応人間なのだから、一人きりで終わりということはないのではないか? のう、」
「え? えーと、それはわたしには決められないんですけど……」
は急に振り返られて言葉に詰まりましたが、スランドゥイルの冗談だと思っていたので正直に答えました。
しかしレゴラスは父がかなり本気で言っていると気付いていましたので躍起になって拒否し続けます。
「娘に、大きくなったらお父様のお嫁さんになるのー(はあと)とか言われたいなあという父の心がわからんか!」
「なにをさりげなく自分の娘扱いにしてるんです! 私の娘だって言ってるじゃないですか!! それにそれに、私だって言われたいんですからね!」
「ふん。薄情な息子め」
「父上こそ爺馬鹿全開です」
ぜーぜーと息を切らせる二人でしたが、スランドゥイルは舌打ちをするとの肩をがっしとつかみ、やや血走った目で迫りました。
「、早く次の女の子を生んでくれ」
この際エレナ似でなくてもいいから! と力説します。
「に迫らないでください。ほら、離れて!」
レゴラスは父親の腕を妻から引っぺがそうと力を込めます。しかしスランドゥイルはびくともしません。
「レゴラス、そなたも喚いとらんと、さっさと仕込まんか!」
「無茶言わないでください! まだは本調子じゃないんですから。だいたい私だってずっと我慢しているんですよ!」
王妃は喚く夫と息子から背を向けるとアラゴルンのそばに歩み寄りました。
「エステル、その腰のものを貸しておくれ」
「どうぞ、エレナカレン様」
王妃はアラゴルンから鞘ごとアンドゥリルを受け取ると、肩を怒らせて振り返りました。
がつん。
げしっ!
小気味のよい音と共にスランドゥイルとレゴラスは頭を抱えてうずくまりました。
「そこな馬鹿男ども、出てゆけ」
額に青筋を立てて恐ろしくも美しい笑顔で王妃が仁王立ちになっています。
「わ、悪かった」
「すみません」
ぴたぴたとアンドゥリルを左手に打ちつける王妃に二人は涙混じりで謝りました。力一杯アンドゥリルで殴られたのです。
「だ、大丈夫……?」
がレゴラスに近づこうとすると、王妃が止めました。
「自業自得だ、放っておけ」
「あのなあ、エレナ……」
「母上、ひどい」
スランドゥイルとレゴラスは王妃に睨まれて渋々部屋から出て行きました。
「失礼した」
すっかり醜態を見せてしまったので、王妃は居並ぶ客人たちに頭を下げました。
が、緑葉の森の親子漫談に慣れている双子たちは「楽しかったですよ〜」とのんきに笑い、アラゴルンもいつものことなので力なく笑っただけでした。
エルロンドは主に息子たちから話には聞いていましたが、見たのは初めてです。少し驚きましたが、スランドゥイルという友人のことは知っていますのであの二人が並ぶとこんな感じなのか。王妃は大変だなあ、と同情しました。
ファラミアとエオウィンとエオメルは、伝え聞いているようにエルフというのは美しく賢く強くて上品な種族なのだと思っていました。彼らにとってレゴラスが一番知っているエルフでしたので話とずいぶん違うなあとは思っていましたが、それでもエルフは美しくて賢くて(略)だと思っていたのです。
が、スランドゥイルとレゴラスの会話から、ああこういうエルフもいるんだなあ、と半ば納得しました。また、取っ付きにくいという印象の強かったエルフに対して親近感も湧きました。
「あ、ところでな、」
「はい、ナネス」
「孫の養育のことじゃが、スランドゥイルの戯言はともかくとして、うちで預かるのは構わぬからの。何かあったら遠慮なく頼れ。よいな」
「はい」
「わたくしも女の子を育ててみたいと思っていたのだよ」
「……はい」
にっこり笑う姑に、は笑ったまま冷や汗をかきました。
第四紀元年・夏。
ロスマリエン0歳。
彼女が今後どっちの森で育つことになるのか、未だ不明である。
あとがきは反転で↓
あこさまからのリクエストで、「スラパパがイシリアンにやってきて皆を振り回す話」でした。リクにはもうちょっと具体的に、王様やファラミアやエルロンド卿も巻き込まれるよいうことが書いてあったのですが…すみません。ファラミア、顔出させるので精一杯でした…!
補足
その1 エルフの習慣では妊娠期間中から子供が生後間もない間〜(略)
これは私の捏造ではないです。終わらざりし物語の注に書いてありました。ヌメノール人はエルフのこの習慣に習っているそうです。…てことはアラゴルンも?
その2 王妃様の名前
スランドゥイル夢を書くときまで伏せておきたかったんですが、どうも不自然になるので出さざるを得なくなりました。
一応エルフ語で意味の通るように作りましたが、名前に複数形の語を使っていいのか、とか、語を省略するときのルールのようなものはあるのか、とか、やっぱ音変化させたほうがいいのかなあ…でも音が濁るとこの場合、美しくないわっ!とか悩んだのですが、すべての悩みを消してしまう魔法の言葉「ま、いっか」で推し進めました。
「緑の星々」「星々の輝き」って感じです。
講釈はスランドゥイル夢書いたときにしますがシルマリルの巻末に載ってる語ですので、お暇な方は探してみてください。
その3 娘の名前
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ロスマリエンは「金の花姫」です。
loth → 花
mal → 金
ian → 女子の接尾語
接尾語をielにしてマリエルってのも可愛いかも。普通の名前としても通用するし。
あんまりエルフっぽくないですけどね。
ああ、あと、私のイメージするレゴラスは別に地味な顔立ちというわけではありません。(まあ、スランドゥイルに比べれば地味とはいえるかもしれませんが)どっちかというと品のいい顔立ち、というイメージです。品がいいので派手顔の王様王妃様からは地味に見えるのです。
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