緑葉の森のとある一日〜





赤き薔薇 白き薔薇 盛れる薔薇は
よろこびの花

すいかずら 花の輪を 高くかざすは
愛の花とや

ほのかにも 甘き香(かおり)の ヘリオトロープ
望みの花よ

光なす 白百合の 高く直(なお)きは
姫御前(ひめごぜ)の花…





大きな樫の木に背を預け、レゴラスが歌います。
膝には彼の奥さんが座っています。
旦那さんの肩に頭をのせて、うとうと、とろとろ…


それがつまらない旦那さん、奥さんの長いまつげにキスをして、
柔らかなほっぺたをつつきます。

奥さんぱちりと目を開けると、
そこには満面と笑う旦那さん。

まったくあなたはいたずらばかり!
奥さん、ぷうとむくれます。

レゴラス、クスクス笑っては、
だってあなたが目を閉じているんだもの!
悪びれもせず答えます。


ねえねえ、。私の奥さん。
なにかしら、レゴラス。わたしの旦那様。


愛していますよ
と、レゴラスが言えば、
愛しています
と、返します。


レゴラスぱっと明るくなって、
ぎゅっと奥さん抱きしめます。


額にキス、
頬にキス、
首にキス、
肩にキス、
手を取ってキス、
キス、キス、キス、
そして最後は唇に。


ああ、なんて素敵!
レゴラス、胸打ち震えて叫びます。

よろこび溢れる緑葉の、
澄んだ歌声響きます。





我が恋人は紅き薔薇
六月新たに裂き出でし
我が恋人は佳き(よき)調べ
調子に合せ妙に奏でし

(か)くも美わし、我が乙女
斯くも深くぞ我は愛する
(しか)して我は変らず愛せん
海悉(ことごと)く涸れるまで

海悉く涸れるまで
又岩陽(ひ)にて溶くるまで
而して我は変らず愛せん
我に生命(いのち)のある限り





歌い終わらばレゴラスは、
奥さん、あなたも歌ってと、
邪気無くおねだりいたします。


奥さん、こっくと頷くと、
可憐な声を響かせる。





わが心、瑞枝(みづえ)に高く巣ごもれる
小鳥の啼くにさも似たり。
わが心、枝もたわわに熟(みの)りせる
林檎の木にさも似たり。
わが心、和(な)ぎたる海に匐(は)ひあそぶ
虹色貝にさも似たり。
わが心、さらにもましてよろこぶは
恋てふ(ちょう)ものを知りそめしゆえ。


わがために絹と和毛(にこげ)の座をつくり
緋染めの絹と皮を敷け、
彫りきざめ 鳩の姿と 柘榴の実
蛇の目ちらしの孔雀鳥、
ちりばめよ 黄金白銀(こがねしろがね) 葡萄実(ぶどうみ)
葉をあしらいし銀の百合、
一生の わが生れ日の来しゆえに、
恋てふものを知りそめしゆえ。





緑の森に影ふたつ
よりそうエルフと乙女子の
斯くも幸せな物語。

緑葉の森のとある一日。





あとがきは反転で↓
イシリアンに引越し前、ということで一つ…
めろこさまのリクエストで「まったりラブラブなヒロイン。歌ったりとか」でした。
つか、短いです。ごめんなさい。
しかも文章の半分以上は人のもの使ってるし…
レゴラスの歌っていた「赤き薔薇 白き薔薇 〜」はクリスティナ・ロセッティの「花言葉」という詩です。同じくレゴラスの歌っていた「我が恋人は紅き薔薇〜」はロバート・バーンズの詩「我が恋人は紅き薔薇」です。
ヒロインが歌っていた「わが心、瑞枝に高く巣ごもれる〜」もクリスティナ・ロセッティの詩で「誕生日」です。
借り物ばっか…
でもロセッティの「誕生日」はとても好きな詩なので、一度使ってみたかったのです。
ロセッティ詩を初めて読んだのはリンボウ先生の訳詩集で、そのときにずかーんと落ちたんです。入江訳の方もいい感じだなあとは思いますが、ストレートに伝わってく林訳の方がやっぱりいいなあ、と。
今回はリズムを考えると入江訳のほうがしっくりいったので、そっちを使わせていただきましたが。


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