ふわり、とエリックはわたしを抱きしめた。

大切な宝物を抱えるように、傷つけたりしないように、力を込めず、だがしっかりと―。

慈しまれていることを全身で感じる。

わたしはエリックの首に腕を絡めた。

応えるように彼はわたしの髪に指を滑らせ、背中を愛撫し、体温を交わすように抱きしめる。

頬に手を添えられたので顔を上げると、おずおずと彼は顔を近付けてきた。

わたしはただ目を閉じて彼からの口付けを待った――。









「行こう。ここから離れなければ」
ゆっくりと身体を離すと、彼はわたしを促すように背に手を当てた。
何もない壁に連れてこられる。
エリックが丹念に壁を探ってゆくと、軽い音がして目の前に大きな口を開いた。

どこまで続いているのか、真っ暗で先が見えない。


水路を掻き分けてくる群集のざわめきはますます大きなものになり、今にも姿が見えるのではないかと思えた。
わたしは最後にそちらに目をやり、そして。

闇の中に一歩、踏み出した。