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用を済ませて店内から出ると、人通りの少ない路地でじっと怒りが覚めるのを待った。
出来うる限り紳士的に目的を伝えるようにしてはいるが、大抵の相手は私の姿に初めはぎょっとしたように息を飲み、次いで気味悪そうな顔になる。
次なる態度には二通りに分かれる。
さっさと私に出て行ってほしいような素振りを見せるか、私の機嫌を損ねないよう無闇にへりくだるか、だ。
こちらは怯えさせる気などないし、喧嘩を売るつもりもない。
ただ他の人間を相手にするときと同じように仕事をしてほしいだけだ。
だがすんなりと私の望みが叶ったことなどなかった。
それは、今日も変わらない。
冷静さを呼び戻そうと努めていると、ふいに甘い香りが漂ってきた。
ふんわりとした優しい匂い。
菓子などのものではない。これは、花の……。
ついと顔を上げて匂いの元を探す。
すると頭上には探すまでも無く満開の花をつけた木が枝を広げていた。
ハート形の葉と枝先に密集した紫の花の間から木漏れ日が落ちて、地上にモザイク模様を作り出す。
風は甘く香り付けられ、辺り一帯に春を運んでいた。
ああ、この花は……。
「ベルナール」
「はい、先生」
馬車に戻ると御者席で待機していたベルナールは畏まって答えた。
「途中で花屋に寄ってくれ」
「花屋……ですか? 承知いたしました」
怪訝そうにしながらも、さっきまで私が見ていたものが何か察すると、小さな声で「ああ……」と呟いた。
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後書き長いです……。
今までヒロインの名前を出さないできましたが、さすがに限界です。
すみません、ギブです。
前回の日常その7エリック視点話はかーなーりー強引なやり方で乗り切りましたが、もうこれ以上は無理だと判断しました。
理由その1としては、リクエストのもので、どうしても名前を呼ぶ必要があるというものがある、ということ。ま、これはリクなのだし、リクエストしてくれた方のお名前を使う、という手もあるにはあったのですが、理由その2として、今後書く日常話で、もうこれは名前を出さないわけにはいかないなーというやりとりがあるからです。
となれば、やっぱ名前は統一した方がよいかな、と。
ちなみにもう1つの案として、名前ではない呼び名を使う、ということも考えていました。どういうものかってゆーと「シィ」というのを便宜的に名前にしようかというものです。
「シィ」っていうのは、[彼女=She]だから(笑)。
…フランス語としてはどういう意味に聞こえるんだろうな、コレ。
今回は予定変更&ご紹介も兼ねて変換なしでやりましたが(変換すると意味がわからなくなる、ということもありますが)次回以降は名前変換をするようにしますので、ご了承願います。
ちなみに彼女、リラさんは漢字では李良と書きます。
指輪夢読んでくださってる方はすでにおわかりでしょうが、私にはムダに名前に拘る性質があるのですが、今回のこの日本人名だけどフランス語でも意味が通る、というコレは、単なる偶然でございます。
李良さんは私がオペラ座を知るずっと以前、10年以上前から李良さんでした。
まだ私が国語辞典と漢字辞典を使ってキャラの名前をつけていた頃、「李」という漢字を使いたいがためにひねり出したものです。
花の方の「リラ」は気にしてなかった……。
まさか10年以上経ってからフランスが舞台の二次創作を書くことになって、そこのヒロインとして動かすことになろうたー、思ってもみなかったですよ。
さらにオマケ。
リラは英語ではライラック、日本語ではムラサキハシドイ。
フランスのシャンソン、(と一般に思われているらしいけど元はドイツの曲)で「白いリラの花がまた咲く頃」というものがあるのですが、日本ではリラではなくスミレになってます。
「スミレの花咲く頃」は宝塚歌劇団のテーマとして知られている……というのを今回調べて知りました。でもこの曲聞いたことあるわ。
こちらのページで聞けます。(でもこのページ、バックできないからどこのサイトなのかわからない~)
紫のリラの花言葉は「愛の芽生え」
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