リンク前から数時間後@支配人室
ルフェーブルは昼食を済ませて戻ってきた支配人室の大きな机の上に、いつもの見慣れた白黒の封筒が乗っている事に気がついて扉を開けた体勢のまましばし凍りついた。
(……まただ。今月の給料は払ったばかりなのに、まだなにか文句があるのか?)
そっと扉を閉じると、まだその辺に誰かいるのではないかと疑うように部屋中を見渡す。
しかし室内は静まり返り、何の物音も気配もしないのだった。
ルフェーブルは封筒を取り上げ、表に自分の名前が、裏には髑髏の型押しがされた赤い蝋で封がされてあることを確認すると、重々しい顔つきでペーパーナイフを取り上げて封を切った。
「……は?」
文面を読んだルフェーブルは思わず間の抜けた声を出す。
そこには余程急いだと思しき崩れた字で用件が簡潔に記されていたのだった。
親愛なる支配人殿 次の公演は「イル・ムート」を行うべし O.G |
「イル・ムートだって? なんでまた……」
ルフェーブルは一人ごちる。
ムッシュウO.Gが歌手や踊り子、楽団員に対して文句を付けてきたことは一度や二度ではないが、演目を何にするかということに関しては今まで口を出した事が無かったのだ。
(急にイル・ムートが観たくなったのだろうか……)
しばらく眉間に皺を寄せて考え込んでいたルフェーブルだったが、おもむろに咳払いを一つして、
「まあ、いいでしょう。最近シリアスな作品が続いておりましたからな」
と、誰がいるというわけでもないのにしかつめらしい顔つきで答えるのだった。
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