悪巧み中@エリック
忙しくなってきた。
を連れてオペラを観に行くからには入念な準備が必要になる。
まさか私が普段使っているボックス席を仕切る柱の中に招待するわけにもいかないだろう。
人びとの前に姿を現すとなれば、絶対に捕まらないような、また一目で人間であると見抜かれないような仕掛けをせねばなるまい。
まずはボックス席の扉だ。
もともと鍵などないので蝶番とノブを固定してやれば事足りるだろう。
そうすれば扉を壊さなければ開けられなくなる。
簡単な事だ。
掃除婦が怪しんでは困るので、この仕掛けは当日に施せばよい。
さて次は、明かりの問題があるな。
けしからぬことに場内は上演中も煌々と明かりが点けられたままなのだ。
天井のシャンデリアは致し方ない。あれは蝋燭を使っているので、容易に点ける事も消す事もできないのだから。
しかし壁に設置されているガス灯は別だ。
あれがないだけでもずいぶんと違うのだろうに、酸欠になる恐れを抱えたままそれが消される事はないのだ。
上流人士たちが多くの者に見られるために明かりを消すのを拒むためだ。
馬鹿馬鹿しい!オペラ座でオペラを観ない事ほど冒涜的なことがあるか!?
ああ、また激昂してしまった。
私はオペラ座のことを考えると興奮しないではいられないのだ。
とにかく、明かりは消さねばなるまい。
点けたままではさすがに「ファントム」が人間だとバレてしまうだろう。
疑われる分には構わない。どうとでもなる。
しかし確証を得られてしまってはいつ警察の介入があるかわかったものではない。
どうするか……。
まあ、ガス灯に関してはできる事は決まっている。
栓を閉めてしまえばいいのだ。
ガスが供給されなければガス灯などなんの役にも立ちはしない。
しかしガス栓があるところは舞台からもボックスからも離れている上に絶えず誰かがいる。
その場での操作は無理だ。
となれば、ガス管自体に仕掛けをするか。
一定の時間が経過すれば供給を止めてしまうような……。
うん、それがいい。
こちらは少々時間がかかりそうだ。
爆発など起こっては困るので間違いのないように慎重に事を進めねばなるまい。
幸いガス管は地下を通っているので前もって仕掛けを取り付けても見つかる心配は無い。
ああ、そうか。蝋燭も同じ事だ。
シャンデリアで使用する蝋燭の形に鋳型を作り、溶かした蝋を流しいれ、通常よりもずっと短い芯を仕込めばよい。
それを本物と摩り替えれるのだ。
シャンデリア用の蝋燭は大きいから芯が短くとも見た目ではわかりはしない。
上演前に消えてはいけない。一幕の途中くらいが最も良い。
上演さえ始まってしまえば、あのルフェーブルのことだ、途中で止めることはまずないだろう。
よし、さっそく鋳型を作らねばな。
ああ、それよりもあの子のドレス!
「ファントム」が同伴する婦人となれば、その者もこの世ならざる者であるはずだ。
どのようにしてそれを表現しようか?
美しく、少しばかり怪しさを秘めたようなものにしたい。
それに顔を隠さねばならないが、仮面をつけてくれといったら承知してくれるだろうか?
それともベールで覆うだけでも充分だろうか?
早く確認してみたいものだ。
そうそう。
支配人殿にだけは、前もって知らせておかなくては。
O.Gが夫人を伴って現れる、とな。
追記:多分この時期のシャンデリアもすでにガス灯になっていたと思います。が、手直しすると話が崩れるのでそのままにしてあります。
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