* マスターは大学生になって一人暮らし(カイトもいるけど)をしている設定です。
* カイトはマスターに外出着を一揃い買ってもらっているので、普通に買い物にでかけたりします。
* できれば十五歳以下のお坊ちゃんお嬢ちゃんには読んでほしくない会話があるのですが、具体的に何があるというわけではないので、判断は各自に任せます。










「ん、おいしい」
「本当ですか。良かった」

 大学生になって一人暮らしを始めて数ヶ月、生活費を抑える意味でも毎日自炊をしている。
 嘘つくなって? いえいえついていませんよ。
 この部屋にいる人間は、間違いなくあたし一人です。
 まあ、実体化したボーカロイドが一体(数え方はこれでいいんだろうか……)と愛犬が一匹いるといるというのが、一般的な一人暮らしの大学生としては変わっているところだろうけれど。
 そのあたしたちはいつもの楽しい夕餉のひと時を過ごしていた。
「でもよく茶碗蒸し作れたね。てっきり出来ているのを買うと思っていたよ」
 あたしは朝、学校に出かける前に今日の夕ご飯には茶碗蒸しがほしいと伝えてあったのだ。そして帰ってきたら、丁度できあがったばかりと思しきそれがテーブルに並んであった。
「なにも買う必要はありませんよ。特別珍しい材料を使うわけじゃないですし、作り方だって難しくありませんでしたし」
 茶碗蒸しなど初めて作ったはずのカイトは、涼しい顔でそう答える。
「いやでも、うち、蒸し器ないじゃない」
 だから出来合いを買うんだと思っていたんだが。
「ああ、それくらい、お鍋に少しお湯を張って、そこに器を入れればいいだけですよ。蒸し時間も、料理パッドさんのところで見つけたレシピ通りやってこのとおり、失敗なしでしたし」
「あんた、好きよね〜。料理パッド」
 一人暮らしを始める前、少しでも多く料理経験を積んだほうがいいという母の命令で、受験が終わってから実際に一人暮らしをするまでの間、夕食の支度をほぼ毎日任されていたのだが、こっそりカイトに手伝わせていたのが見事に花を咲かせたようだ。今ではあたし以上の腕前で、朝昼晩とおいしいものを食べさせてくれる(昼というのはお弁当のことだ)。
「はい、毎日たくさんレシピが掲載されますし、見ているだけで飽きません。ところで、味が濃いとか薄いとか、ありますか? ありましたら、次に作るときに改良しますけど」
「味はいいよ。具に銀杏がほしいなぁ」
「銀杏ですね、覚えておきます」
 そういうとしばしカイトは無言になった。詳しいことはよくわからないのだが、カイトは実体化している最中でもPCと繋がっているらしく、こうして普通に話しているときにも検索をかけたりフォルダの整理をしたりできる、らしい。今はおそらくコピペしたレシピに銀杏追加、とでも書いているのだろう。
 あたしのPCのマイドキュメントの中にはそういういくつかのカイト作成フォルダがある。以前中身を見せてもらったのだが、それはたくさんの料理レシピとえり抜きのアイスレシピで構成されていた。……カイトがボーカロイドであることを考えると、これは問題かもしれない。音楽はどうした、音楽は。
 茶碗蒸しの他には肉じゃがとわかめと豆腐の味噌汁という、いたって家庭的な夕御飯を食べ終わると、いそいそとカイトはデザートの用意を始めた。
「今日は何にするの?」
「そうですね、クラッシュアーモンドインバニラにして、そこに濃い目に作ったコーヒーをかけます。アフォガート風、かな」
「あたしも食べるー」
「はい、じゃあ用意しますね」
 にこにこしながら冷凍庫をあけ、カイトは大きなタッパーを取り出した。最近のボーカロイドは、アイスも自作するのだ。そして自分で好きなようにトッピングして、毎回夕食後にかなりたくさんに食べる。市販のアイスも好きなようだけれど、自分でも満足できるようなものを作れるようになったためか、アイスそのものを買う機会は減っているようだった。ちょっと前までダッツが一番とか言っていたのが嘘のよう。
 ミックスアイス機で自作のバニラアイスと砕いたアーモンドを混ぜ、コーヒーをかける。この機械も週に二回は使われているので、贈った者としては有効活用してもらえて良かったと思っている。
 カイトはガラスの器を二つ持って戻ってきた。アイスディッシャー一個分のをあたしの前に、五個分のを自分の前に置くと、幸せそうな顔でスプーンを持つ。いつも思うんだけど、こんだけ大量のアイス、一体この身体のどこに入るんだろう……。その前にあたしと一緒にご飯食べているんだぞ。





 夕飯が済むと、寝るまでは好きなようにして過ごす。
 課題があればそれをして、なければネットをしたり、カイトや小次郎と遊ぶ。
 調教? うん、しようとは思っているんだけど、ね……。
 ……あたしのこういうところが、カイトをしてどんどん主夫ロイド化させていることはわかっている。よーくわかっているとも。
「マスター」
「んー?」
 友達からきたメールに返信していると、片づけが終わったらしいカイトが近くに来て座った。
「ちょっと待って、これ終わってから」
「はい」
 カチ、カチ、カチっと、送信。
「で、何? ……本当に、なんなの?」
 メールに気をとられて気づかなかったが、カイトはやけに神妙な顔をして正座をしていた。
 いつもは体育座りとかなのに。
「大事なお話があります」
「……うん、なんか、そんな感じだね」
「本当はマスターが帰ってきたらすぐ相談したかったんですけど、食事時にする話題ではないだろうと、空気読んでみました」
 ふう、とため息をつき、なぜか遠い目になる。
「……ああ、そう」
 普段とは違いすぎるテンションに、あたしはそうとしか答えられなかった。
「マスターが実家から出られて結構経ちましたよね」
「そうだね。家のことはほとんどカイトにやってもらってるから、特に不自由はないけど。ホームシックもないし」
 なんだ、家事ばっかりさせているのが不満か? そうだと言われても返す言葉などないけどね。
 問うとカイトはふるふると首を振った。
「それはいいんです。マスターのいない時間にもマスターのお役に立てることがあるのが、俺には嬉しいので」
「そう……」
 本心かどうかはわからないが、カイトはそんな殊勝な答えを返した。彼はまた小さく息を吐くと、わずかに俯いて言った。
「俺、最近知ってしまったんです」
「何を?」
 表情はわずかに翳っている。本当に、こんなカイトは珍しい。これは、何かよほどの悩みでもあるんだろうか。ならばマスターとしては力になってやらねばなるまい。
「……」
 だがカイトはそれから口を閉ざして、なかなか続きを言わなかった。
「おーい、どうした?」
「……えっと」
「言わなきゃわかんないよ」
「そ、そうなんですけどぉ」
 目があちこち泳ぎ、そわそわしだす。一体何だっていうんだろう。
「カイトー?」
 ちょいちょいと腕をつつくと、カイトはびくりと身体を強張らせた。
「マ、マスター」
「言えないなら無理して言わなくてもいいんだけど」
「いいえ、聞いてください!」
「じゃあ、言いなよ」
「……は、はい。あの……」
「うん」
「マスターは……」
「うん」
「なんで俺のこと、抱いてくれないんですか?」




















(この間は、あたしが放心していた時間だと察していただけるとありがたい)





















「あんた、今なんて言った?」
「どうして俺のこと抱いてくれないのかと聞きました」
 聞き間違えじゃなかった……。自分の顔がひきつっているのが感じられる。だが待て、カイトのことだ、意味もわからず聞いている可能性はある。そこであたしは恐る恐る確認をした。
「抱くって……ハグのこと?」
「いいえ、セックスです」
 カイトの答えは簡潔明瞭だった。
 開き直ったのか、さっきまでのおずおずしたところは微塵もなくなっている。
「いきなり何を言い出すか! つか、なんであたしがあんたを抱かなきゃなんないの!?」
 時々突拍子もないことを言ったり聞いたりしてくるけれど、これはまた最大級におかしなことを言い出したものだ。
「す、すみません、やっぱり俺がリードするべきでしたか?」
「リードって、いやいやいや、あんたねぇ」
 頭が痛い。
 あーもう、何言ってんだ、こいつ。それよりも落ち着けあたし、カイトの思考回路が時々ぶっ飛ぶことくらい、何度も経験しているじゃないか。今度のことだって、きっとテレビか雑誌かネットあたりで中途半端に知識を仕入れてきたんだろう。
「俺は男ですけど、マスターのお嫁さんのようなものですから、マスターの方から行動してくれるのを待った方がいいのかなとも思ったんですけど、普通はこういうのは男の方から動くものらしいですから、なら俺からやらなくちゃいけないのかなとも思いまして。どっちなのか判断できなかったのでこうして聞いてみました。それで、どっちなんでしょうか」
 どっちでもないよ。
 即答して話を切り上げたかったが、『なぜ?』『どうして?』としつこく聞かれることは必至だ。ここは順番に説明をして穏便に収めなくては。
 ……しかしまさか、ボカロに性教育もどきをしなくちゃいけなくなるとは、考えてもみなかったぞ。
「ええと、なんか色々誤解しているようだけど、まず、あたしとカイトはセ……セックスをしなくてはいけない関係にはない。OK?」
 するとカイトは渋面になる。
「それはおかしいです。だって俺とマスターは好きあっています。それでセックスというのは、好きあった二人が愛情確認のためにするものでしょう? あ、本来は子孫を残すための生殖行為だということは知っています。でも人間に限っては、それ以外で行うことが多いんですよね。俺は人間じゃありませんが、人の形をしています。だから人間と同じことはできますよ。……さすがに、子供は無理だと思いますけど」
 なぜだか最後にはしょんぼりして、彼は言った。
 こいつ……可能ならあたしを孕ませるつもりなのか……?
 胸倉をひっつかんで問いただしてやりたい衝動にかられたが、なんだか答えを聞くのが怖かったのでやめておいた。
「おかしくはない。確かに、カイトのことはバカだしウザいし、時々本気でイラッとさせられるけど(あ、泣きそうになってる)、基本、いい子だしまあ、好きだといえる(だからって赤くなるな)。け、ど!」
 ビシっとあたしは指をさした。
「恋愛感情は、ない。まったく。ゼロ。でもって、セックスというのは少なくともあたしにとってはそういう恋愛感情のない相手とはしないものなの。理解できた?」
 それでも納得できないというように、カイトは唇を尖らせる。
「それじゃあ、なんでマスターはいつも俺がモニタの外にでてくるのを許してくれるんですか? 俺のこと、ただのボカロじゃなくて、特別に好きだからじゃないんですか?」
「あんたが何度も何度もあたしに引っ付いていたいっていうから、仕方なくそうさせているんじゃない」
 自分から言い出しておいて、何を言っているんだか。こいつの頑固さのせいで、どれだけあたしが苦労したか。出てきて良いときは呼ぶからと言ったのに、再三の構って攻撃をしてきたくせに。おかげで両親に誤魔化すのが大変だったんだから。
「そ、そうですけど、そういうことじゃなくて」
「なんだっていうの?」
「だから、確かにマスターに側にいたいと言ったのは、俺です。でもマスターはそれを許してくれましたし、今ではいつ俺がモニタから出てきてもなにも言わないじゃないですか」
「別に、もう慣れたし」
 一人暮らしをしている以上、見られて困る相手もいない。小次郎はすでにカイトに懐いているし、あとは昼間、あたしのいない時間に騒音とか出してご近所トラブルにさえならなければ、好きなようにこの部屋で過ごせばいいと思う。
「マスターは厳しいけど俺のことをちゃんと考えてくれています。人間の世界での常識とかいうのも教えてくれたし、外へ出ることも許してくれました。そのための服も買ってくれました。そんな必要だってないのに、カイトの誕生日と俺がマスターのところへ来た日のお祝いもしてくれたし……。それってマスターの特別な人になれたからじゃないんですか?」
「特別というかなんというか……。あんまり、深く考えたことなかったなぁ」
 なにしろソフトウェアが実体化したなど前代未聞だ。あたしとしてはできればこれを世間に公表したくはなかったし、自分でもどうしたらよいのかわかんないらしいカイトを見捨てられなかっただけだ。好きとか嫌いとかは、はっきり言って、最初の時点から超越しているのだ。
「マスター、とぼけるのもいい加減にしてください。俺は本気で話しているんですよ」
「あたしだって、別に茶化しているつもりはないよ」
 むっとしたように、カイトは言う。
「じゃあ、もしかして、カイトはカイトでも、俺じゃない別のカイトが好きなんですか?」
「あんた以外のカイトがどこにいるっていうの」
 他にもいるのか、実体化したカイトが。
「いるじゃないですか、いっぱい。動画サイトに」
「あれはそういう風に作っているだけで、実体化しているわけじゃないでしょう」
 カイトは膝の上に乗せていた手をぐっと握る。
「……怒られると思ったので、言わないで済まそうと思っていたんですが」
「てことは怒られるとわかっていることをしたわけね」
 あたしは腕を組んで睨みつける。
「できれば、怒るのは話を聞いた後にしてください」
 そっと視線を逸らし、カイトは冷や汗を流した。が、どうやら本当に話をやめたくないらしく、挙動不審のままながらも言葉を続けた。
「……時期的には俺がマスターのところへ来る前のことなんですけど、マスター、○○Pの動画に、『液晶どけ』ってコメしましたよね」
「……」
「それに、××さんの動画には『兄さんこっちおいで』って。後、☆☆Pのには『これ見てたらカイトをお迎えしたくなった』って」
 こ、こいつは……。
「結果的にですけど、俺はマスターの望みを叶えているんですよね? 俺が好きなんですよね? なのに、俺が特別じゃないって言うんですか? 矛盾していますよ」
「まずは歯を食いしばれ!」
「いやあの、マスター」
 我慢ができず、あたしはぐっとカイトの胸倉を掴む。
「人の日記を盗み見るような真似をして! あたしはそういうことはするなって、最初の最初に言ったはずだよね!?」
「ごめんなさい、ごめんなさい! マスターはどういうサイトを見るのが好きなのかなって思ったものだから〜。マスターのことはなんでも知っておきたかったんです。それに、あの頃はマスターがなかなか構ってくれなかったから退屈だったし〜」
「言い訳にならん!」
「ごめんなさい〜〜!!」


 泣いて謝るカイトをほっぺた引き伸ばしの刑に処し、しばらく奴が反省するままに任せていた。
 あたしとしても、こんな精神状態のままカイトと向き合いたくない。
 くそう、不覚だった。
 履歴を消さなかったあたしもうかつだったけど、まさかカイトがIPアドレスの分析までできたなんて……!
 あたしはカイトに背を向けて、クッションを抱いた。ああ、顔、赤くなってるなぁ。
(カイトが来てからは、アホなコメをしないようにしていたけど、この分じゃ他のも読まれてるだろう、な……)
 ああ、奴のそこのところのメモリーを全部消去してしまいたい!


「あの、マスター、まだ、怒ってます?」
「怒ってる」
 どれくらい時間が経ったのか、カイトの方からおずおずと切り出してきた。
「う……ごめんなさい。あの、どうしたら許してもらえますか」
「とりあえず、今日はハウス」
 モニタに戻れ、顔を見たくない。
「で、でも、まだ話が終わってないんですけど!」
「はぁ、何? まだ本題に入ってなかったの?」
 思わず振り返る。顔には涙の跡が残っていたが、カイトはてこでも動かないつもりでいるのがわかった。
「いいよ、さっさと言いなさい。で、言いたいこと言ったらすぐにモニタに戻って。あたしは疲れたのよ」
「はい、あの……。俺が特別だって、認めてください」
「まあ、特別といえば特別だよね、はいはい、認める認める」
 真面目に相手する気力が尽きたので、あたしは手をひらひらさせてカイトの満足するであろう答えを口にした。ま、別に違うわけじゃないし。
 するとカイトはぱあぁっ……とでもいうべき擬音が似合いそうなほどの笑みを浮かべにじり寄ってくる。
「よかった。やっと素直になってくれたんですね。……じゃあ、セックスしましょう!」
「なんでそうなる!」
「今、特別だって言ったじゃないですかぁ」
「恋愛感情はないって言ったじゃない!」
「照れなくってもいいんですよ。大丈夫、やり方はちゃんと調べましたから」
「アダルトサイトには行くなとあれほど!」
「アダルトサイトじゃなくて、恋人や夫婦間のいろんな問題を解決するためのサイトを廻っていて見つけました」
「なにをどういう経緯でそんなところへ行ったの!」
「え? 『教えてヤッホー!!』を暇つぶしに読んでいたら、いつのまにかそういうところに出ちゃったんです。でも読んで良かったですよ。このままだと大変なことになるってわかりましたから」
「はぁ? 大変なことって?」
「このままだと、俺たち離婚の危機です。あ、俺の場合はアから始まる怖い言葉の危機です。なにしろ同棲して以来、一度もセックスしていないんですから。セックスレスというやつですよ。こういうのは夫婦だけじゃなくて、同棲カップルにも最近は多いんですってね」
「同棲じゃないよ……」
 訂正するのもいい加減疲れてきたが、テンションのあがってきたらしいカイトは聞く耳を持たない。
「一ヶ月以上、特別な理由なしに性交がないのがセックスレスだそうです。で、俺たちの場合は一ヶ月どころじゃないので、早急に手を打つ必要があります。こういうのは普段、なくても必要ないよねとか思っていても、ふいに齟齬がおきて深刻な事態に発展してしまうそうですよ」
 多分、カイトが言っていることに嘘や誇張はないのだろう。世間一般の恋人同士や夫婦間にとっては、だが。だけどそもそもの前提条件が違うのだから、これをあたしたちに当てはめろというのが無理な話だ。
「カイト」
 あたしは萎えかけた気力をかき集め、カイトの両肩を掴んだ。
「マ、マスター」
 カイトは頬を染め、そっと目を閉じ、……て、おい。
 べし!
「あいたっ!」
 腹が立ったので頭を引っぱたいてやった。
「キスしてくれるんじゃなかったんですかぁ?」
「違うわ。つか、本当、いい加減疲れてきたから真面目に聞いて」
「俺はいつでも真面目ですよ」
 そうだね、真面目だけど、それが予想の斜め上に向かっちゃうんだよね。
「いいから聞いて。カイトは家族みたいなもんだから、そもそもHしたいとはまったく思わないの」
「俺はしたいです。マスターがほしくて、破裂しそうなんですから」
 直球の告白を受けて、あたしは思わず掴んでいた手を放した。
 ずざざっと後ずさりをすると、カイトは小さく笑う。
「無理やり押し倒したりしませんから、そんなに怖がらないでください」
「いや、だって、あんた……」
「でも、家族みたいだって、思っていたんですね。ちょっと、そうじゃないかなぁとは思っていたんですけど」
 うな垂れるカイトに、あたしはほっとしたものを感じて、さっきの位置まで戻る。
「わかっているんなら……」
「その場合についても、調べておきました。イメージトレーニングがいいそうです」
「……はい?」
 にっこり笑うカイトにあたしは寒いものを感じる。
「イメージトレーニング。仲のいい恋人同士や夫婦でも、近くにいすぎて相手に欲情しなくなることがあるみたいで、そういう時には芸能人でもなんでもいいから、セックスしてみたい相手を想像してその気になってから始めるといいって書いてありました。最初の最初からそういう手を使うのは本当はヤなんですけどぉ、仕方がないですよね。で、マスター、今ハマってるキャラって、××××でしたっけ?」
「なんでいきなり二次元キャラが出てくる」
 カイトが口にしたのは、最近買ったゲームの主人公だった。
「だって、マスター、二次元スキーじゃないですか。そもそもオタクですし。……それとも、大学にでも好きな男ができましたか?」
 いきなり声を低くして、ずいっと顔を近づけてくる。その目は完全に据わっていた。
「浮気はいけませんよ?」
「つきあってもいない相手に浮気するなって言われても、ねぇ」
 目を逸らしつつ、あたしは反論を試みる。
「マスターは素直じゃないですね」
「いえいえ、素直ですよ。とっても。うん」
 ふぅ、とカイトは困ったような表情を浮かべ、小さく息を吐いた。
「マスター、現実を見てください。俺がいる限り、マスターには人間の彼氏はできません。俺が邪魔しますからね」
「……あ、あんた」
「デートしに行くときには俺もついて行きますし、家に連れてきたときにはマスターは俺と一緒に住んでいるんだから帰れと言ってやります。あ、念のために言っておきますが、このときにはハウスの命令は聞きませんから。そもそも、マスターのわがままや八つ当たりに付き合える男なんて、俺しかいないんですから、これを機会にちゃんと付き合っちゃいましょうよ」
「勝手なことばかり言うなぁ!」
「そういうことで、もっと仲良くなるべく、早速セックスしましょう。ゴム、ないですけど、妊娠は恐らくしないでしょうからなくてもいいですよね」
「人の話を聞けって……!」
「あ、小次郎さんごめんねぇ、今晩はキッチンでお休みしてくれる? 俺は見られても別に恥ずかしくないけど、こういうのはほら、秘め事っていうくらいだから、ね♪」
 カイトはすがすがしいくらいさわやかな笑顔を浮かべると、さっさと小次郎のベッドを持って行き、きょとんとする小次郎も連れ出すと後ろ手でドアを閉めた。
「マスター、大好きです。俺のすべてを受け取ってください」
 そして、マフラーをしゅるりと外した。







グダグダのまま終了……。
リク内容と微妙にかみ合ってないように思いますが、とにかく攻めで、とのご要望には応えられたかしら、どうかしら……。






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