、マスカレードには出るんだろう?」
長い抱擁が終わり、名残惜しく思いながらも身体を離した。
悲痛なやり取りがあったと感じさせない朗らかな調子でラウルは言った。
彼の気遣いをありがたく思いながら、わたしも努めて明るく振舞う。
「ええ、もちろんよ」

新年を祝って行われるマスカレードは、毎年盛大に行われる。
普段は整然と並んでいる平土間席を取り外して、様々に衣装を凝らした人々が朝まで踊るのだ。
陰鬱な冬のパリでこの楽しみを退けられる者はそうはいない。

「衣装の準備は終わった?」
「わたしは毎年舞台衣装を借りているのよ。お店に頼むと高くなるし、不器用だから自分では作れないし」
こういうときにはオペラ座で働いているのも便利でいいわ、と笑うと。
「じゃあ、僕に贈らせてくれる?」
ラウルは陽気な物言いで片目を瞑った。
「そんな、前にもドレスをいただいたのに」
「前は前だよ。あのドレスじゃ、マスカレードには出られないもの」
「でも……」

ラウルはわたしの唇に指を当てた。
「僕にすまないと思うのなら、これ以上拒まないでくれ」