わたしは慌てて自分の周りを確認した。
間違って踏んでしまったら大変と動く時にはよくよく足元を確かめる。
それから、ドレスのレースやリボンに引っかかっているのではないかと、ばたばたと身体を叩いた。

「ない……。ないわ……」

ラウルに指輪を見せたのは覚えている。
だから、この屋上のどこかにあるはずだ。
気がつかないうちに落として、どこかに転がってしまったのだろう。
わたしははいつくばり、床を手探りした。

「ああ、どうしよう。もっと明るければすぐに見つけられたのに」
残照はほとんど消えかかり、すでに暗闇が広がっている。
ガス灯の明かりも、屋上の足元を照らすまでには至らない。
かえって闇を深くするばかりだ。


「どこにあるのよぉ」

わたしは泣きじゃくりながら捜索を続ける。
明るくなるまで待つなんてできなかった。
エリックの想いがこもった指輪を一時でも離すなんて……。

「もしかしたら……」
わたしは自分の考えついたことに真っ青になった。

こんなに見つからないのは、指輪が下に落ちてしまったからかもしれない。

どこで落としたのかを覚えていないのだから、可能性はある。

わたしは呆然と座り込んだ。

この下はオペラ座の正面玄関だ。
パリでも有数の大通りでもあるそこに落ちたら、まず見つからない。

そう思った瞬間、涙は止まった。
そして、絶望すると人は泣くことすらできなくなるのだと初めて知った。