練習が終わったあとや眠る前に、わたしは礼拝堂へ行き、祈りを捧げる。
天国にいるパパに。
大好きな先生のエンジェルに。
エンジェルがわたしのもとへ行くことをお許しくださった神様に。
だけど、それも少し、物足りなくなってきてしまった。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
「どうしたの、。浮かない顔ね」
「メグ」
今日の公演が終わって、まだ大勢の人が出入りしている大部屋で化粧も落とさずぼんやりしていると、メグが心配そうにわたしの顔を覗き込んできた。
「何か失敗でもしちゃった?でも全然平気よ、気づかなかったもの」
「ううん、そんなんじゃないの」
おどけるように肩をすくめたメグがおかしくて、わたしは小さく噴出してしまった。
メグはわたしと同い年だけど、ずっとしっかりしていて、こうやってよく気遣ってくれるのだ。
「あのね、実はプレゼントを差し上げたい方がいるのだけど、何にすればいいのか、わからなくて……」
そう、祈るだけでは足りないのだ。
自己満足であっても、わたしの感謝の気持ちを、エンジェルに伝えたい。
だけどあの方に贈るにふさわしいものがまったく浮かばない。
「プレゼント?」
メグは目を大きく見開いた。
「恋人が出来たの?」
「ち、違うわ。その、父の知り合いの方で、とてもお世話になっている方なの!」
ふうん?とメグは首をかしげた。
エンジェルに自分のことを人には言っていけないと言われているので、親友のメグにもこうして本当のことを言えない。
それは後ろめたいことだったけど、いつかちゃんと話すことができると信じて、今は沈黙を守るわ。
「どういうものが好きな人なの?」
「それが、わからないの。とても厳しい方だからプライベートな話は全然したことがなくて……」
「そっかあ。そうなるとちょっと難しいわね。お父様のお知り合いってことは、ずいぶん年上なのよね?」
「ええ」
エンジェルが人間のように年を取るとは思えない。
メグが誤解していることをいいことに、わたしはそのまま頷いた。
「そうなると、あんまり子供っぽいものはねー。といっても、わたしたちのお給料じゃ、あんまり高価な贈り物もできないもんね。よく言うことだけど、あなたの気持ちのこもったものなら、何でもいいんじゃない?」
気持ち……。
「それが難しいのよ」
「まあね〜」
わたしががっくりとうなだれると、あははっと笑ってメグは手をひらひらさせた。
「ま、買い物に行くんだったら付き合うから、いつでも言ってよ」
「ええ」
