『ところでね、』
今日はレッスンが終わってからも珍しくエンジェルはお話をしてくれた。
いつもなら明日の予定を言って、すぐいなくなってしまうのに。
エンジェルの声は心なしか楽しそうで、わたしはドキドキした。
こんなエンジェルは……初めて。
『近々、君に大きな出番が回ってくるだろう。エリッサの役がね。その日に備えてより一層練習に励みなさい。いつも言っていることだが、食べ過ぎや飲みすぎはいけない。夜遊びなどもっての外だ。いいね?』
「エリッサですって!?それはカルロッタの役じゃないですか。エンジェル!」
エリッサはもうじき公演になる『ハンニバル』に出てくるカルタゴの女王だ。プリマドンナが演じる役を、以前よりは上達したとはいえ、わたしがやれるはずはない。
そりゃあ、いつかはエンジェルのご指導のもとでプリマドンナになれるといいなとは思っているけれど……。まだ先の話だわ。
第一、カルロッタがいるんですもの。
『君は私の言うとおりにすれば良いのだ。心配は無要だ。すべては私の望むがままになるのだから!』
ええ、エンジェル。天使であるあなたなら、どんなことだって出来るのでしょう。
でも、何をなさるおつもりなの?
カルロッタに、何か……?
「でも、怖いわ、エンジェル。わたしにはまだプリマドンナは早すぎます」
『怖がる必要などないよ、。君には私の音楽がついている。パリ中の人間をあっと言わせることができるのだ」
《私の音楽がついている》そう言われて、ぐっと不安が薄れていった。
自信に満ちたエンジェル。
力に満ちたエンジェル。
パパが送ってくれた、わたし音楽の天使。
天上の声を持つエンジェル。
あなたのことをもっと知りたいわ……!
