「あの……エンジェルのお名前を聞かせていただけますか?」
わたしは思い切って訪ねた。
『私の名前?』
なぜそんなことを知りたがるのかといいたげなエンジェルの声に、わたしは思わずうつむいた。
きっと、耳まで赤くなっているだろう。
「ごめんなさいエンジェル。知りたがりの女なんて、やっぱりお嫌いですよね。だけどわたし、エンジェルのことを知りたいんです。ほんの少しだけでもいいから……。わたしはお祈りをするときはいつもエンジェルへ祈りを捧げているんです。その時にエンジェルのお名前を唱えることができたらどんなにいいかって……。大天使のミカエルやガブリエルにするように……」
わたしの声はだんだん小さくなってゆき、最後にはほとんど聞き取れないほどになったと思う。
小さな子供みたいなわがままが恥ずかしくて、両手を祈るようにぎゅうと握り、ぶるぶる震えるほど肩が強張っていた。
『それはまだ言えない』
少し陰りを帯びた声。
やはり、聞いてはいけなかったのだ。
予想していたとはいえエンジェルからの拒絶はわたしを落胆させるのには充分だった。
『だが、。エリッサを上手く歌い上げることができたのなら……このまま上達すれば確実にそうなると私は思っているが……その時は私の弟子への褒美に教えてもいいだろう』
自分の耳が信じられなくて、わたしはぱっと顔を上げた。
目の前にあるのは大きな鏡。
口の開け方や自分の演技を確認できるよういつもこの前で歌っている鏡に向かってわたしは喜びの声をあげた。
「本当ですか、エンジェル!」
『本当だとも』
エンジェルの声はいつもよりずっと優しかった。
「ありがとうございますエンジェル!わたし、頑張ります!!」
