『お前の幼馴染はずいぶんと無礼な若造だな。お前の成功に預かろうとするとは!』

エンジェルがいる!
それも、ひどく怒っている。
声音は静かだけれど背筋が凍りつきそうなほど冷ややかだ。

「エンジェル……エンジェル……」
わたしは声が震えてしかたがなかったけれど、どうにかして許しを請おうとした。
「心の弱いわたしをどうかお許しください」
祈るように手を合わせ、あちらこちらと目を走らせる。
姿が見えるはずもないのに。
『私の言いつけに背くつもりか、
エンジェルは容赦なかった。わたしは鞭打たれたようにエンジェルの声に打たれ、縮こまった。
だけど震えてばかりはいられない。
これでエンジェルがいなくなってしまうようなことになったら、わたしは一生悔やむことになるだろう。
「そんなつもりはありません。わたしはあなたの生徒です。わたしを導いてくれる方、輝く恩寵を持つエンジェル!」
『口がうまいな、、だが私はあまり寛大ではないのだ』

エンジェルの怒りは深かった。
絶望したわたしは嗚咽をこらえることができなくなり、次第に自分でも何を言っているのかわからないほどだった。

許してもらえるのなら何だってする。ラウルだけじゃない、他の人間とも一生口を利くなと言われても喜んで従うだろう。
だけどわたしにはそれを言葉にするだけの余裕もはなく、小さな子供みたいにただ泣きじゃくるしかできなかった。



しばらく経ってからエンジェルがわたしを呼んだ。
その声からは怒りが遠ざかり、代わりに慈しむような響きがある。
『私の音楽に身を捧げると、お前は誓ったね。その気持ちに変わりはないか?』
「ありません、エンジェル。こ、今夜のことはわたしが軽はずみでした。お許しください」
優しい声。わたしはそれにすがりつくように涙にぬれた顔を上げた。

『私の音楽にはお前が必要だ』
ああ……。
陶然とした想いが湧き上がってくる。

『こちらへおいで』
命じられたわたしはふらりと歩き出した。
何もかもを声に委ねるかのように、わたしは自分でも意識しないまま大きな姿見に向かっていた。


『さらなる調べの高みをお前に教えよう』