無我夢中だった。

とにかく目の前の《顔》から遠ざかりたくて、わたしは気がつくと自分が寝かされていた寝室にいた。

肩で息を切らし、後ろ手で鍵を掛け……扉に寄りかかるように崩れ落ちていた。


「う・・うう、ううう……」

ぼろぼろと涙が零れた。


彼が恐ろしいからなのか、秘密を暴いてしまったことにたいしての罪悪感からか、エンジェルだと信じていたことが否定された―それも最悪の結果を持って―失望からか……。
子供のときのように、わたしは泣きじゃくった――。







◇   ◇   ◆   ◇   ◇






どれくらいそうしていたのだろうか。

突如としてオルガンの音が鳴り響いた。


知らない曲だった。

だけど、最初の一音から、これは《エンジェル》なのだとわかった。

絶望の嘆き、癒えることのない苦痛、自分を呪い、世界を呪い、それでも……

美しいものに憧れる、哀れな魂の叫びがそこにはあった。





◇   ◇   ◆   ◇   ◇





「《エンジェル》」

彼は言ったのだ。余計な好奇心は持つなと。
守らなかったのはわたし。

「《エンジェル》」

そして、一度は自分に言い聞かせたはず。
彼の持つ音楽は素晴らしいと。
恐れるのは間違っていると。


「ごめんなさい……」

だけど、わたしは、そんなエンジェルを傷つけてしまったのだ。