ラウルの真剣さはわたしの心を打ち、わたしは彼と外出することに同意をしてしまった。
贈られたドレスを着ると外見だけはいっぱしの貴婦人のよう。
慣れないシルクのドレスに気後れしながら彼の待つ馬車へ向かうと、ラウルは満面の笑みを浮かべて手を差し出した。
「よく似合うよ。とても綺麗だ」
「あ、ありがとう」
ラウルの馬車は屋根のない二人乗りのキャブリオレだ。
従僕がすまし顔で後部の立ち台に立っている。

中に乗り込むと、手綱を握ったラウルが掛け声をかけ、軽快な音を立てて馬車は出発した。

「どこへ連れて行ってくださるの?」
「チェイルリ公園に行こうと思うんだけど、いいかい?」
「ええ」

馬車はリヴォリ通りで止まった。
ラウルは当然のように降りるわたしに手を貸し、また歩く時には腕を差し出した。
一瞬躊躇して―こうやって腕を組んで歩くのは子供の頃にパパとして以来なのだ―おずおずと彼の腕を取ると、ラウルはにこっと笑った。
きれいな笑顔だった。





◇   ◇   ◆   ◇   ◇





チェイルリ公園は歩いても二十分ほどしかかからないのでわたしもメグと一緒に何度か来たことがある。
フォーブール・サン=ジェルマンやショセ=ダンタンの裕福な上流階級の人々がよく散歩をしているようなところなので、午後にもなると緑の並木道に様々な色合いのドレスの女性たちが蝶のように行き交うのだ。
それを感嘆の思いで眺めたことはあるけれど、わたし自身がこんな格好をすることがあるとは、思いもしなかった。



歩いている間、わたしたちはあまり多くを話さなかった。
昔の思い出話を少しと、オペラとはなんの関係もない話と。
オペラの話をし始めると、エリックの影がどこからか追ってきそうで……話す気にはなれなかったのだ。

そのことさえなければラウルはとても陽気で、何の心配事もないという風だった。
それに話も面白くて、わたしは久々に心から笑えたのだ。

笑うなんて久しぶりだった。
演技の一つとして笑ってはいたけれど―エリックの指導で―楽しいと思えたことはなかったのだ。




 
◇   ◇   ◆   ◇   ◇





わたしはふっと空を仰いだ。

眩しい太陽。
青く澄んだ空。
清らかに白い雲。

自然の持つ輝きは圧倒的で、他の追随を許さない。

だけど同じくらいわたしの心を引き寄せるものが、作り物の美の殿堂、オペラ座の中にいるということを忘れることはできない。
あの暗い地下にいる人は、こんな風に光に溢れる公園を歩いたことがあるのだろうか……。