エリックの手から縄がすり抜けた。

わたしはそっと彼から離れてラウルの側まで行き、彼の首に絡まっているものを外す手伝いをした。
ラウルはわたしを見るのが辛いように目をわずかに細める。
わたしはどんな弁解もしなかった。
ただ、巻き込んですまないとだけ思った。


格子の外から大勢の人の声が聞こえてくる。
人殺しを引きずり出せと。
ピアンジとブケーの復讐をするのだと。



このままではエリックが捕まってしまう。
どこかに逃げるか、隠れるかしないと……。
わたしがエリックに声をかけるよりも前に暗闇に低い声が響いた。

「彼女を連れて行け。私のことは忘れろ。ここで起きたことも、なにもかも」
わたしは信じられない思いで振り返った。
「エリック!?」
わたしの想いは通じていなかったの?

「一人にしてほしい」
「どうして!わたしは……!」
エリックはオルガンの置いてある壁のほうへ、おぼつかない足取りで歩いていった。
「彼女を連れて逃げろ!船に乗ってゆけ!早く!行くんだ!!」
彼はわたしではなくラウルに向かって怒鳴っているのだ。

わたし……また間違えたの?
わたしのしたことはさらに彼を傷つけただけだったの?