呆然と立ち尽くすラウルはわたしの腕をつかみ歩かせ、小船に連れてゆく。
櫂を手繰り寄せ、水面に下ろし……そこで手を止める。
「」
名を呼ばれ、わたしはようやく目の前の幼馴染を見ることが出来た。
疲れて、ぼろぼろになった彼はたった一日前よりもひどく老け込んだように見えた。
この数時間に起こったことが、彼を痛めつけなかったはずはないのだ。
消耗は、肉体よりも精神のそれのほうがよほどひどいだろう。
それなのに。
それなのに。
彼はこう言ったのだ。
「彼の最後の言葉が本心から出たものではないということがわからないほど、僕は馬鹿じゃない」
そうしてただわたしを見詰めた。
彼はわたしに選択を委ねたのだ。
ラウルと生きるわ エリックと生きたい 