悩んで悩んで、ありきたりだけど、手作りのお菓子にした。
人間の食べ物をエンジェルが食べられるものなのか、よくわからなかったけれど、他に思いつかなかったのだ。

貝の形をしたマドレーヌ。

調理場の片隅を借りて、何度も練習したの。
あんまり器用じゃないからずいぶん失敗したわ。
ダマができたうえに生焼けだったり、逆に黒焦げになったり。
やっと綺麗な黄金色に焼けた時は嬉しくって思わず踊りだしそうになった。





◇   ◇   ◆   ◇   ◇





贈り物の箱をテーブルの上に置くようにいうと、エンジェルはすぐにレッスンを始めた。
すぐに感想を言ってもらえるのだと期待していたけど、それは無理みたいだった。

そういえば、エンジェルはどうやってこの箱を持ってゆくのだろう。
ふわふわと浮かび上がったりするのだろうか。
そうしたら、そこにエンジェルがいるとわかるのに……。




エンジェルが目の前に現れてくれたら、抱きついて、キスをしたいのに。









◇   ◇   ◆   ◇   ◇






『では、今日のレッスンはこれで終わりだ』
「ありがとうございました」
『今日はこの後にも楽しみがあると思うと、嬉しいものだ。このマドレーヌはありがたく頂くことにしよう』
「喜んでいただければ、わたしも嬉しいです……!?」

テーブルに目をやったわたしは、驚いてあんぐりと口を開けた。

『おや、どうしたのかね、?』

笑いを含んだエンジェルの声。

「だって、だって、箱が……」

ないのだ。
エンジェルに言われて、テーブルにおいて置いた贈り物が。

『これは私にくれたのだろう?』

「そ、そうですけど、でも、いつの間に……」

『ふふ……』




エンジェルは笑うばかりで答えてくれなかったけれど、喜んでいただけたようなので良かったわ。
でも本当に、いつなくなったのかしら……。





(1):elda