エルフとドワーフが不仲なわけ :歴史 (シルマリルの物語)
さて、どこから話したらいいことやら。
エルフの別名に、「最初に生まれた者たち」「長上族」などがあります。その名が示すように、エルフはイルーヴァタールの最初の子らとして生まれた存在です。2番目は人間。では、ドワーフは3番目かというとそういうわけではなく、ドワーフはヴァラールのひとりであるアウレが作りました。エルフと人間が生まれるのが待ちきれなかったんだそうです。
ですがそれがイルーヴァラールにばれてしまい、ドワーフの父祖たちはエルフが目覚めるまで石の下で眠らされることになります。このようにエルフとドワーフは生みの親がそもそも違うのです。ちなみにドワーフの立場はイルーヴァタールの養子ということになっています。
時間を飛ばします。エルフとドワーフは出会った頃のこと。
その頃は、特に2つの種族は仲が悪いということはありませんでした。最初にドワーフを歓迎したのはシンゴルで、彼はドワーフの助力を受けてネメグロスという地下宮殿を造りました。しかしドワーフに最も好かれていたのは、おそらくフィンロドでしょう。彼はガラドリエルの一番上の兄で、ネメグロスを見て自分もこのような宮殿が欲しいと思い、やはりドワーフの助力を受けてナルゴスロンドを建造しました。この時の待遇がよっぽどよかったのか、彼はドワーフからフェラグンドというドワーフの言葉での名前と、ナウグラミアという素晴らしい首飾りをもらいます。
さらに時間を飛びます。
「シルマリルの物語」のタイトルにあるシルマリルという宝石が、巡り巡ってシンゴルの元に転がり込んできます。それからナウグラミアもまた彼の元に渡りました。シンゴルはこのナウグラミアを作り直してシルマリルをはめ込んでほしいという依頼をドワーフたちにします。この時ドワーフたちはこれらを我が物にしたいという欲求に襲われますが、何食わぬ顔をして仕事を完成させました。長い時間がかかって一つになったナウグラミアとシルマリルの美しさは比類がないものでした。この後のやりとりは公平を期すためにもそれぞれのセリフを抜粋しましょう。
ドワーフ側の言い分はこうです。
「いかなる権利があってエルフ王はナウグラミアを御自分のものと主張されるのか。今は亡きフィンロド・フェラグンドのためにわれらの父祖が作ったものであるものを。これを王が入手されたのは、ドル=ローミンの人フーリンが持ち来たったからにほかならない。かれは盗人のようにナルゴスロンドの暗闇からこれを取ってきたのだ。」
これを受けてシンゴルの言った言葉はこうです。
「お前たち如き野卑な種族がよくもベレリアンドの支配者たる、エル・シンゴルに要求がましきことを申したな。予の生涯は、発育不全の種族たるお前たちの先祖が目覚めるより数えられぬ年数を遡る昔、クウィヴィエーネンの水のほとりに始まったのであるぞ。」
どっちもどっちですが、売り言葉に買い言葉でシンゴルはその場でドワーフたちに殺されてしまいます。ナウグラミアを奪ったドワーフたちは逃げ出しましたがたった2人をのぞいて殺されてしまい、ナウグラミアも取り返されてしまいました。生き残ったドワーフは、事の顛末をすべては語らず、仲間たちは報酬を惜しんだエルフ王の命令でドリアスで殺されたと告げました。怒ったドワーフはドリアスに進軍します。
一方、ドリアスではシンゴルの死によって王妃メリアンの魔法が解けてしまいます。メリアンはマイアールの一人ですが、シンゴルへの愛ゆえにエルフの姿をとり、それゆえアルダへの物質に力を及ぼすことができたのです。ドリアスはメリアンの魔法によって今まで守られていましたが、まったくの無防備状態になり、結果ドワーフたちは何にも妨げられることなくドリアスに侵入。合戦が起こり、双方に多くの犠牲が出ました。
合戦はドワーフ側の勝利に終わりましたが、彼らはその帰途、オスシリアンドの緑のエルフを率いたシンゴルの娘婿ベレンによって襲撃されました。ここでまた多くのドワーフが死に、逃げ出せたものもエントにやられました。
そしてシルマリルのはまったナウグラミアはベレンからルシアンへ渡ります。
シルマリルの話はまだ続きますが、これがエルフとドワーフが不仲になった最大の理由です。
ただ、補足しますと、この時のいさかいはドワーフとシンダールエルフの間に起こったものですので、たとえばノルドールエルフはその後もドワーフと親しく付き合いがありました。ロスロリアンのケレボルンはシンゴルの血縁のシンダール、レゴラスの父のスランドゥイルもドリアス育ちのシンダールで、ギムリとレゴラスが仲が悪かったのも、ロスロリアンでの謁見の時にケレボルンがギムリにいい顔をしなかったのも原因はここにあります。ガラドリエルは母親はテレリですが、父親はノルドールで、ノルドール族の間で育ちましたのでノルドールと数えていいでしょう。そんな彼女はギムリをドワーフの言葉で歓迎しました。それもやっぱりノルドールなせいといえるでしょう。
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