++ 地獄の炎に焼かれた怪物って…… ++


一昔前の話をします。
私が「オペラ座の怪人」を意識したのが、週間マガジン連載の「金田一少年の事件簿」でした。(説明不要と存じますので、詳細は略します)
最初の事件がオペラ座の怪人に見立てた連続殺人の話だったもので、私はてっきりオペラ座の怪人そのものがそういう話なのだと思い込んでいました。ま、たしかに映画でも原作でも人死んでますけど、金田一の中で語られたファントムはなんか違う…。
それはともかくとして、金田一を読んだ当時の私が、オペラ座の怪人というのは「ファントムというなんでか知らないけどオペラ座の地下に住んでいる男が新人女優に恋をして、彼女のライバルや自分の邪魔者をどんどん殺していき、最後にはクリスもファントムも皆死んで、『そして誰もいなくなった』状態になるのだ」と思いこんでいたのですよ。しかしなんでクリスも死ぬんだと思っていたんだ、当時の私よ。(多分、怪人のセリフを吐いて自殺した女子生徒がクリス役だったからだと…)
そんなわけで、映画を最初に観終わった時、「なんかすごく面白かった」「音楽がすごい!」という感動の余韻と同時に「さとう○みやの嘘つき〜!」というものすごい混乱が巻き起こっていたのでした。でもあの人はマンガを書いただけで、悪いのは原作者の方ですよね^^;
でもカルロッタが死ななかったのがすごく不思議だったなあ…。
原作なら死ぬのかと思ったのですが、別にそんなこともなく。
まだ2005年以前のオペラ座の怪人のビデオ、まだ3つほどしか見てませんけど、その中でもライバル役が死んだのって、「ファントム・オブ・パラダイス」くらい…。しかしこのビデオ、私はあんまり好きではないので、二度と見ないと思います。

話がずれました。

ええと、それで、クリス役をするはずだったのに、硫酸だったかなんかの劇薬が顔にかかってしまい、演劇を続けられなくなった女子生徒が怪人のセリフを残して自殺するわけですが、その時のセリフが地獄の炎に焼かれた怪物はうんぬん…というところでした。
で、この「怪物」という言葉、てっきり「Monster」だと思っていたのですが、映画を見て初めて違ったということに気付かされてヒジョーに驚きましたのです。
この「怪物」って、gargoyleだったんですね。
ちなみにこの辺りの歌詞にある、ファントムが自分の容姿を形容していうもののなかには「monster」「carcass」(それと「beast」)とあるのですが、これらはどちらかというと、抽象的な表現。ガーゴイルとはまたわかりやすいたとえだなあ、と感心したりいたしました。




で、ガーゴイルってなにさ?

という方のために簡単な解説をいたしましょう。
ガーゴイルはRPGに敵として出てくることが結構あります。私もドラクエに馴染みながら育ったもので、私が「ガーゴイル」といわれると思い浮かべるのがこのドラクエ版ガーゴイルです。人間の身体、くちばしのついた顔、頭には角、背中にはこうもりのような翼が生えている。(ちなみに武器は剣。色違いで同じビジュアルのモンスターでホークマンというのもいるけど、ガーゴイルのほうがより強い敵になっています)
管理人手持ちのドラクエXの攻略本を開いてみましょう。解説にこんなことが書いてあります。
『性格:神殿の石像に邪悪な生命が宿った悪魔。ラリホーを唱えたり、身を守ると同種のモンスターが助けに入ったりする』
つまり、石像の悪魔というイメージです。
とはいえドラクエのガーゴイルが一般的なガーゴイルというわけでもないでしょうから、もうちょっと詳しいところを調べてみましょう。
「RPG幻想事典逆引きモンスターガイド」のガーゴイルの項、名称、異称解説に『フランス語で"gargouille"というのは喉や食道を指すが(さらにたどればこれは「ガラゴロ」という擬音語であろう)"gargoyle"も本来は同義で、大きな建築物の屋根から水を落とすための樋口(といくち)のことである。そこにはしばしば悪魔的な怪物が彫り付けられたことから転じて、怪物自体をガーゴイルと呼ぶようになった』
特徴の項には『ゴツゴツの硬い皮膚を持ち(石像だったころの名残だろうか)、背中には悪魔特有の翼、顔には嘴(くちばし)がついており、角が生えている場合もある』
ルーツの項には『もとは単なる樋口とはいえ、そこに強いて悪魔(らしきもの)の像を彫ったのは、けして偶然ではない。これはわかりやすくいえば日本の鬼瓦と同じようなもので、魔除けの一種としての役割を持たされているのである。有名なパリのガーゴイルをはじめ、モチーフはファンタジーで知られるような嘴と翼を持つ悪魔の姿が確かに多い。』
とあります。

パリっぽさを出すためにガーゴイルなのか、ファントムの顔がゴツゴツしているということを言いたいのか。ALWがファントムに自身のことを「ガーゴイル」と言わせた理由は、なんなのだろうなぁ。




08/2/24追記

「バーティ、目からウロコが落ちるってのがどういうものか君にはわかるか?」
「もちろんわかるさ。ウロコはしょっちゅう僕の目から落っこちている」
「そいつは僕の目からも落ちたんだ」ガッシーが言った。


急になんだと思われたでしょうが、上は英国のユーモア小説「バーティ&ジーヴス」シリーズの一つ、「ジーヴスと恋の季節」の一節です。
これを読んでで、私はまさにガッシーのように目からウロコが落ちた!
この本の中で、おおよそ、悪口、と言って良いと思われるのだが、つまり「ガーゴイル」がそういう使われ方をしていた箇所があったのだ(ウースター風に書いてみた。あ、ウースターってのは、バーティのファミリーネームね)。
それも、二箇所あった。

キングズ・デブリルの小さな世界の人々が、バートラム・ウースターとはニューヨークの新聞のコミック欄にでてくるレスター・ド・ペスラーみたいに見えるチンケなガーゴイル野郎だと信じつつ墓所に向かうのだと思うとき、僕の魂には鉄が入り込んだ。

というのがまず第一のガーゴイル登場シーン。
レスター・ド・ペスラーってのは、何のことかわからないですけど(訳注も特になし)。
この「チンケなガーゴイル野郎」といわれたのは、ガッシーことオーガスタス・フィンク=ノトルのこと。バーティがこんなにも滅入っている、と言って正しければ滅入っているのは、色々事情があって、キングズ・デブリルというところに、バーティがガッシーとなり、ガッシーがバーティとなってしばらく滞在しなければならなくなったからです。
ここまでクソミソに言われているガッシーというのは、バーティが描写するところではこんな感じの人。

とんでもなくとんまですっとんとんで、顔はさかな似で角ブチのメガネをかけ、オレンジジュースを飲み、イモリを収集し、イギリス最大の毛玉娘、マデライン・バセットと婚約している

やっぱりクソミソだな…。

で、まあもう一方のガーゴイル野郎の描写もやっぱりクソミソだったんですが、これらの箇所を読んで、「もしかして、『ガーゴイル』って英語圏では普通に使われてる悪口の一つなのか?」と思いまして。
慌てて手持ちの辞書を調べたものの、特にそんなことは書いてなく。
ならスラング辞書とか当たってみるかーと、図書館へ赴きました。
…田舎の小規模図書館のため、スラング辞典自体がありませんでした。
仕方がないので、その場にあった、英和大事典を手に取ってみたら…普通に載ってました。

gargoyle
1 ガーゴイル、樋嘴(ひくち)
2 奇怪な形の彫像;奇怪な容貌の人
(ジーニアス英和大事典より)

1の意味はすでにここのページで書いたもののことです。そして、手持ちの辞書にも1と同様の意味しか載っていませんでした。しかし、2が…。
これを見つけた時のガッカリ感ときたら…!
本当にただの悪口だったなんて…!
悪口には性格や性質に対するものと、容貌に対するものに大別できると思いますが、「ガーゴイル」は容貌に対する悪口の部類に入るものなんだろう。ジーヴス風に言えば、「拝見いたしました際に、肯定的感情を喚起せしめえぬご容貌のお方」ってところでしょうか。
まあ、ファントムの場合、自分で言ってたわけだから自虐的使用なわけですが。

とりあえず「ALWがファントムに自身のことを「ガーゴイル」と言わせた理由は、なんなのだろう」という答えに対しては「それが容貌に対する否定的見解を示す語だから」で、いいんじゃないかと思います。



尚、ここでジーヴスものを取り上げたのも何かの縁と思いますので付け加えますと、ALWはこのジーヴスものを題材にしたミュージカルも作製しています。が、初演は38回で終わったということで、大コケしたのだろう。(その後、96年に再演した時には大ヒットしたそうではあるが…)
歌って踊るジーヴスはちょっとみてみたいなー。
(歌って踊れるウースター氏は割とすぐ想像できるので別にどうでも…)




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