今日はなんて日なんだ。
 楽しいことと呪わしいことと嬉しいことが同時に起こるなんて!

 彼女と外出し――女性と連れ立って出かけること自体、私の人生の中でも初めての経験だった――、その彼女に顔を見られ、もはや以前の通りに生活することなど不可能だと諦めた時、彼女は私に救いの手を差し伸べてくれた。
 この顔を怖くはないと言い、抱きしめてくれたのだ。
 嬉しいと思うよりも、このようなことが起こったのが信じられない。

 キスがお預けになったのは残念だったが、これ以上の幸福が起こったら私の心臓は今を限りに停まってしまうかもしれない。
 それより彼女の怪我の具合のほうが心配だった。
 彼女は階段から落ちた時からもう痛かったのだといったが、その後の私の乱暴な扱いで悪化しただろうことは確実だ。


 ソファに座らせ、ブーツを脱がせる。
 少しの動作でも痛みが生じてしまうのだろう。顔をしかめる彼女にすまない気持ちで一杯になった。
 私が癇癪を起こさなければ、もっと早く手当てをしてやれたのだから。


 彼女の左足首は見事に腫れ上がっていた。
 これは、相当痛いだろう。
 できればこれ以上痛みを与えたくはなかったが、治療をするためには患部を調べなければならなかった。
「靴下を脱いで」
「あ、はい」
 特に下心などなかった。
 が、彼女は無造作にドレスの裾をつかむと、膝頭が見えるあたりまで捲くりあげたではないか!
 眩暈がしてきた。
 いくらなんでもそんな脱ぎ方はないだろう?
 それとも私を誘っているのか?
 まあ、最後のは冗談としても――彼女の言う『好き』がただの好意以上のものではないことにはちゃんと気付いている。残念なことだが――彼女にはもっと淑女らしい所作を教えないといけないという想いが改めて起こった。


 彼女の怪我は捻挫だった。
 まずは十日ばかり安静にさせて、それからは様子を見て歩く練習をさせよう。
 腫れがひどいので炎症を抑える薬を塗った湿布を患部にあて、包帯で固定をするのがいいだろう。
 歩くには不便だろうから、松葉杖も作るか。
 私が抱えても構わないのだが、彼女の寝室の中まで入り込むわけにもいかないからな。


 手早く薬を調合し、彼女の元に戻る。
 足を手に取ると少し冷えてひやりとしていた。
 片手に収まる小ささにどきりする。
 なんて私とは違うのだろう――。

 少しの間見惚れ、だが治療をしないといけないことを思い出して、私は彼女の足に湿布を当て、包帯を巻いた。

 それから。
 白い包帯の上にそっと口付けた。
 きっと彼女は驚いた表情をしていることだろう。


☆  ☆  ★  ☆  ☆



 神よ。

 この数奇なめぐり合いは、あなたの慈悲なのでしょうか……?
 私を愛してくれる女性を使わしてくださった……?
 いいや、違うのだとしても構わない。
 あなたの気まぐれに、感謝します。







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