世間では、今日はバレンタインデーというらしい。
女の人が好きな人やお世話になった人にチョコレートを配りまくる日、なのだそうだ。
でもそれとは関係なく、個人的には今日は俺の一度目の誕生日であるらしい。
らしい、というのは俺の誕生日がヤ○ハ暦とクリ○トン暦とで違っているため、二回あるといえなくもないからで……ややこしいなぁ。
まあ、いいや。
マスターは俺の誕生日を祝ってくれるかな?
チョコアイスケーキなんて贅沢は言わないから。
なんでもいいんです。今日はちょっと特別な日だって、あなたに言ってほしいだけ。
♪・♪・♪
「マスター、遅いねぇ、小次郎さん」
「くぅん?」
俺はいつもマスターが帰ってくる時間を見計らって、モニタから出てくる。本当なら授業はもうほとんど出なくていいらしいんだけど、マスターは受験が終わった途端に卒業旅行の資金を貯めるんだとかいって、短期のアルバイトというのを始めてしまったのだ。
それで、帰りが遅くなることがある。
俺の存在はマスターのご両親には内緒なので、お二人が帰ってくる前にはモニタの中に戻らなくちゃならない。だから、マスターの帰りが遅いと、少しもしゃべれなかったりすることもあって……。
少し、寂しい。
マスター、まだ一度もちゃんと調教してくれたことないし。
誰もいない家で会話をする相手は茶色くて小さい小次郎さん。マスター以外に俺のことを知っているのは彼だけ。小次郎さんは告げ口とかしないからね。
俺は暇のあまり、小次郎さんを抱っこして、玄関のあたりをうろついていました。
マスター、マスター、早く返ってきてくださいよ~。
俺の願いが通じたのか、それからすぐに玄関の鍵を開ける音がしました。
「マスター、お帰りなさい!」
「飛びつくなって言ってるでしょ!」
がん、と顔に当たった堅いもの。
痛い。
顔を抑えてしゃがみこむと、追い討ちをかけるようなマスターの声。
「ああ、小次郎! ちょっとカイト、小次郎抱いたままにしないでよ。つぶれたらどうするの」
「そんなことしませんよ。……というよりもマスター、マスターは俺の顔が殴打されたことより小次郎さんの方が大事なんですか?」
「あんたは頑丈だからいいの」
「ひどい!」
マスターはいっつもこう。俺が大好きだって言っても、行動で示してもつれないんだ!
二次元の俺とかちっちゃい三次元の動かない俺とかは大好きな癖に!!
俺だってカイトなのに。差別だ~!
「まあいいや、はい」
「あうぅ……?」
マスターはコンビニ袋を俺に差し出しました。さっき俺の顔を思いっきり強打した忌々しいビニール袋ですね。
「なんですか」
「誕生日でしょ。だからプレゼント」
「え!?」
まさか、まさかまさか。
本当にもらえるなんて!
コンビニで買ったものというのがちょっと引っかかるけど、でもいいんです。
だってほら、コンビニにはダッツが売ってますから。
小次郎さんを放しながら立ち上がり、わくわくしながら受け取ると、意外とずっしりとした重み。うわぁ、何個入ってるんだろう。
ぱっと中を見てみると、そこには……。
「スーパー☆カップですね……」
下まで探ってみるけれど、ダッツの気配は一つもなし。
「ほら、バレンタインデーでもあるし、ついでに一緒にお祝いということで」
「はい……チョコクッキー味ですね」
それが六個。それだけが六個。
いえ嬉しいですよ、マスター。俺の誕生日もバレンタインも祝ってくれるのは。
でも、どうせならダッツ……。スーパー☆カップも好きですけど、そればかりを六個も買うくらいならダッツを二個買ってくれた方が……。カップ三個とダッツ一個とかでもいいのに……。
第一、チョコ味ばかりじゃ飽きちゃいますよ。
「気に入らない? これでも一生懸命考えたけど。カイト、アイス好きだし」
マスターは腕組みをして俺を見上げました。きらんと光る眼鏡が怖い……。
俺はぶんぶんと首を振りました。
ここではいと答えたら、どうなるか目に見えていますからね。
つまり「ハウス(モニタの中に戻れ的な意味で)」ってことです。
それはいやだ。
俺はマスターとおしゃべりがしたい。
「嬉しいです。ありがとうございます」
「そ、良かった」
俺がへらっと笑うとマスターも満足そうに笑いました。
うん、いいんだ。これで……。
マスターが笑ってくれるんなら……。
ああ、でも、ダッツ……。
こうなったら心の空しさを質より量で埋めるしかないなぁ。
今日は自棄アイスだ。
とひっそり決意したのも束の間。
「あ、カイト。いくら六個あるからって、一度に全部食べちゃだめよ! あんたが食べたアイスはあたしが食べてることになってるんだから!」
うええぇん!
ヤ・マハ暦の兄さんハピバ。
サイト始めて久しいですが、誕生日のわかっているキャラがカイトが初めてだったので、かなり浮かれ調子で書きました、誕生日ss。
記念日があるというのもいいものですね。
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