公演が終わり、人気が途絶えるのを待ってファサードに出ると立派なクーペが止まっていた。
あたりはガス灯の青白い明かりでほんのりと明るいだけで、中に乗っている人の姿は見えない。
これがエリックの馬車なのかと躊躇しているとドアが開き、暗闇にも目立つ白い仮面が浮かび上がってみえた。
「エリック」
近づくわたしに彼は少し唇を持ち上げるようにして笑みを刻み、手を取って馬車に乗るのを助けてくれた。
「驚いたわ。あなた、馬車を持っていたのね」
内装はシンプルだが素晴らしくセンスが良かった。
「辻馬車では御者に当たり外れがあるものでね」
エリックがステッキで天井を叩くと、馬車はゆっくりと進みだした。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
コンコルド広場を通り抜けてシャンゼリゼを通り、ブローニュの森へ。
夜中ともなれば人通りもなく、月明かりも木々に遮られている。昼間であれば多くの人で賑わうこの森も、今は闇の中に沈黙していた。
わたしたちは馬車を降りると散策した。
あまり話しをしなかったがそれは気まずさからではなく、何も話さなくてもよいと思える心地良さがあったからだ。
梢の揺れる音、少し離れたところにある湖のさざなみの音も聞こえる。
夜の森にはあらゆる気配に満ちていて、人間のいないことを喜んでいるようだ。
暗闇に輪郭を溶け込ませたエリックは立ち姿の美しさも相まって黄泉の王のように森に君臨している。
あらゆるざわめきはすべて彼の意のままであるとでもいうようで、エリックが僅かな身振りをするたびに美しい調べがー楽器など何一つないというのにー起こった。
わたしはハデスに連れ去られ、だがやがて彼を愛するようになったペルセフォネーのことに想いを馳せる。
光溢れる花園から連れ出された大地の女神の娘も、わたしのように闇に魅入られたのだろうか……と。
