「やあ、」
「いらっしゃい、ラウル……」
迎え入れると彼は小粋にトップ・ハットをとった。
「なんだか顔色が良くないようだけど?」
挨拶のキスをすると、頬に触れてくる。
「ええ、そうなの。ちょっと気分が優れなくて……。だから外へのお誘いなら申し訳ないのだけど行けそうにないの」
「そうか……」
ラウルはがっかりして肩を落とした。
「残念だけど、仕方がないね。薬は飲んだ?まだなら買ってこようか?」
「大丈夫よ。ゆっくり休めばすぐに治ると思うわ」
彼は椅子にかけてあったショールを取ると、わたしの肩に巻きつけ、椅子に座らせた。
「ええと、それじゃあ、本当はどこかロマンティックな場所で渡したかったんだけど……」
はにかみながら方膝をついて、ラウルはコートのポケットから小さな箱を取り出した。
「受け取ってくれるかい?」
わたしは箱とラウルを交互に見やり、震える手でリボンをほどいて箱を開けた。
「ラウル……」
中には指輪がヴェルヴェットの台に収まっていた。
中央にあるのは天使の涙が結晶になったような清らかなダイヤモンド。
その周りはサファイアの花びらで囲まれている。
リングには蔦の模様が施されていた。

これを受け取ってしまっていいのかしら……?
ラウルの求婚を受け入れた以上、いつかこんな日がくるのは当然だった。
なのにわたしは今になって不安を感じている……。
「?」
ラウルは心もとなさそうに見上げてきた。
受け取る 受け取れない 