そしてマスカレード当日になった。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
夜になって、続々とオペラ座に踊りに来る人の列が続く。
次々と打ち上げられる花火が夜空に大輪の光の花を咲かせる。
趣向を凝らした衣装で着飾って笑いさざめく人々。
顔には皆、仮面をつけている。
ラウルと落ち合ったわたしは、彼の腕に手をかけて玄関ホールに入る。
そこはすでに大勢の人でいっぱいだった。
ラウルが用意してくれた衣装はピンクを基調にした妖精のものだった。
お砂糖菓子のように繊細なそれは、微風でもスカートが揺れるほどふわふわしている。
銀色のビーズで飾られた仮面をつけ、胸元には婚約指輪を鎖に通してかけていた。
ラウルは軍服を洒脱に着こなし、仮面は手に持つ形のものを持っている。
「素敵だわ、ラウル」
テール・コートやフロック・コートでないラウルを見たのは初めてだった。
黒地に金モールで飾られた身体にぴったりとした軍服は、ラウルの若々しい美しさを引き立てていた。
「君も。とても綺麗だよ」
ラウルは身をかがめ、軽く口付けしてきた。
「仮面をつけているのにそう思うの?」
わたしがいたずらっぽく微笑みかけるとラウルは、
「仮面なんかじゃ君の美しさは隠せないさ」
と片目をつぶった。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
軽快な音楽に合わせて踊る人々の間を縫って、わたしたちも踊り始めた。
微笑みあい、見詰めあい、リズムに合わせて身体を揺らす。
くるくる回りながらあちこちに動き回り、勢い余って転びそうになると大声で笑った。
「良かった……」
「え?」
ふいにラウルは子供を見守る人のような眼差しでわたしに囁いた。
「楽しそうで。君はずっとふさぎこんでいたからね」
そういえばわたし、今はエリックのことを考えていなかった。
あんなに頭から離れなかったのに……。
「そうね。こんなに楽しいと思ったのは久しぶりだわ」
「今夜は楽しもう」
ラウルはぐっとわたしの手を握る手に力をこめた。
「ええ」
