「は〜い!
「あら、メグね?」
「うふふん。そおよ〜」
真っ白な膝丈のドレスに羽飾りで髪を飾っている女の子が手を振って駆け寄ってきた。
明るい声ですぐにわかる。
後ろからは東洋の柄を刺繍したショールをまとった黒衣の女性……、きっとマダム・ジリーね。
「これ、子爵さまのお見立て?可愛いわ」
メグはちょい、とわたしのドレスをつつく。
「そうだよ。ミス・メグ・ジリー」
「あら、あたしの名前をご存知だなんて光栄ですわ。もっとも、といつも一緒にいるせいでしょうけどね」
うふふっとメグはからかうように笑う。
「おや、そんなことはないよ。君は才能のあるバレリーナだからね。あと何年かしたらプリマ・バレリーナになれると僕は思っているよ。これでも芸術を見極める目は持っているつもりなんだから」
「嬉しいことを仰っていただけたわね、メグ」
マダムはいつもよりは柔らかい表情で微笑み、ラウルに挨拶をした。

「あーあ。あたしも早くちゃんとしたパートナーが欲しいな〜」
メグは大げさに肩を落としたような身振りをする。
彼女は同伴の男性がいないようだ。
それでも申し込みが殺到していたことをわたしは知っているので、おそらくマダムがすべて断ったのだろう。
金髪で大きな青い目をした可愛い顔立ちなのに、零れ落ちんばかりの大きな胸にしなやかな細い腰を持つ彼女は、オペラ座に集まる男性のかなりの注目を集めているのだ。
「もう少し落ち着きが備わってくれれば、私もうるさいことは言わないつもりよ?」
「もう、ママったら」
同年代の女の子たちの中ではしっかりものと言われているメグもマダムにかかっては形無しだった。
わたしたちは顔を合わせてくすくすと笑った。





◇   ◇   ◆   ◇   ◇





「いや、なんとも素晴らしいパーティーだな」
「まったくだ。輝かしい一年の幕開けに乾杯!」
羊の角を頭につけたムッシュウ・フィルマンと雄鶏形の帽子をかぶっているムッシュウ・アンドレが上機嫌で通りかかった。
「こうなってくるとファントムがここにいないのも残念に思えてくるよ」
「来るわけがないわ。あのおかしな手紙がこなくなって、もう半年経つのよ?」
支配人たちの後ろにはピアンジとカルロッタがいた。
二人ともインド風にターバンを巻いている。
「来た所でこの賑わいと明るさの前には霞んで消えてしまうよ」





◇   ◇   ◆   ◇   ◇





彼らが笑いさざめいていると、耳を劈くような大音響が鳴った。
思わず音の出所に目をやると、真っ赤な衣装に唇から上を髑髏の仮面で覆った男が大階段の上に立っていた。
今日は仮面舞踏会。
誰がどんな格好でやってこようが、構わない日。
なのに、その髑髏の男は圧倒的な威圧感でその場にいた者を凍りつかせた。
動けば殺される。
そう、皆思っているに違いない。

……エリック。
あなたなのね。