練習の間にも色々なことがあった。
支配人たちもラウルも他の出演者には何も言わなかったが、次の公演、《ドン・ファンの勝利》はファントムを罠にかけるためのものだということを、皆感付いているようだった。
それでもお客様を入れることには変わらないし、通常の新作公演前と同じく事前準備には余念はなかったのだが、ここでも一騒動が起きた。
あまりにも難しく、変わった曲調のせいでヒステリーを起こしたカルロッタがファントムのことを馬鹿にしたような言動をしたのだ。
すると、ピアノがひとりでに曲を奏で始めたではないか!
その場にいた者は蒼白になり、途端にピアノに合わせて熱心に練習をし始めた。
見えなくても、見張られている。
ファントムの恐怖を人事のように言っていた人たちも、ようやくこの事態を理解したようだった。
それで、わたしの何かが救われるものではないけれど……。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
時はわたしの願いも空しく、容赦なく過ぎていった。
もう《ドン・ファンの勝利》の初日になってしまった。
天国のパパ……。
どうか、わたしを守って……。
