そっとエリックの手を包み、彼の手を開いて縄を外した。
エリックは抵抗もせず、わたしのしたいようにさせた。
ラウルの傍に行き、首から縄を外してゆく。
作業をしている間もわたしはエリックに話し続けた。
「わたしにはあなたの望む救いを与えることができない。そうしてあげたいのに、できないのよ。わたしにできることはただ一つ。あなたの音楽を地上に届けることだけ」
ラウルの縄を外すと彼は激しく咳き込んだ。
その背をさすり、落ち着かせて立たせる。
「もとに戻りたい」
呟くわたしの肩をつかみ、ラウルは揺さぶる。
「それで君はどうなる!またファントムの言いなりになるだけだ!」
「……巻き込んでしまってごめんなさい。ラウル」
肩からラウルの手を外し、彼の手の平に握ったままだった婚約指輪を乗せた。
ラウルはそれを泣きそうな顔で握りしめた。
「あなたはあなたの世界へ戻って。ラウル、それが一番いいことなのよ」
