エリックの手から縄がすり抜けた。
わたしはそっと彼から離れてラウルの側まで行き、彼の首に絡まっているものを外す手伝いをした。
ラウルはわたしを見るのが辛いように目をわずかに細める。
わたしはどんな弁解もしなかった。
自分を助けるためにわたしが犠牲になったのだと思わないで欲しい。
あなたを助けることができて満足なのだから。
それに、エリックも少しは救えたのではないかと、思う。
自己満足かもしれないけど。
ラウル。
ラウル。
どうか、あなたは光の下を歩いていってね。
この出来事があなたを痛めつけたのだとしても、それが出来る人だと思っていい?
わたしたちの道はここで別れるけれど、あなたが幸せな人生を送ることができたのなら、それがわたしの幸せにもなるわ。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
遠くから大勢の人の声が聞こえてくる。
人殺しを引きずり出せと。
ピアンジとブケーの復讐をするのだと。
このままではエリックが捕まってしまう。
どこかに逃げるか、隠れるかしないと……。
それにラウルはどうしたらいいのかしら。
わたしがエリックに声をかけるよりも前に暗闇に低い声が響いた。
「彼女を連れて行け。私のことは忘れろ。ここで起きたことも、なにもかも」
わたしは信じられない思いで振り返った。
「エリック!?」
「一人にしてほしい」
「どうして!わたしは……!」
エリックはオルガンの置いてある壁のほうへ、おぼつかない足取りで歩いていった。
「彼女を連れて逃げろ!船に乗ってゆけ!早く!行くんだ!!」
彼はわたしではなくラウルに向かって怒鳴っているのだ。
ああ、エリック!
