!」
舞台袖で呆然と動けないでいるわたしの耳に、ラウルの声が飛び込んできた。
力強く、気遣いに溢れた声。
「ラウル……」
、一緒に来るんだ!」
ぐいっと腕をつかんでラウルはわたしを引っ張った。

ああ、そうだ。
エリックはまだ近くにいるのだろう。
彼から離れたい。
少しでも遠く。彼が追ってこれない所へ。

「待ってラウル、屋上に行きましょう」
と、とっさに口から出てきた。
地下に住まうエリックは、外に出るのを嫌っている。
今は夜だけど、屋上におわします太陽の神アポロンがきっと守ってくれる……。





◇   ◇   ◆   ◇   ◇





狭く急な階段や、ごたごたと物が置かれている通路を通り抜けて屋上に上がった。
冷気を含んだ風が火照った身体から熱を奪ってゆくが、恐怖までは拭い去ってはくれなかった。
「どうして屋上に?」
ラウルが息を荒げながら聞いてきた。
「下にはいたくないわ。あそこにはあの人がいるんだもの」
「エンジェル?それともゴースト?どちらにせよあれは事故だろう?」
「いいえ、あの人の仕業よ!あの人の命令を無視したりしたから!」
「落ち着くんだ、
「殺されるわ。次はわたしの番よ!」
「馬鹿な!」
「必要なら何人だって殺すんだわ!」
!」
ラウルはぐいと引っ張って、わたしを腕の中に閉じ込めた。
温かい体温に恐怖がゆっくりと解けてゆき、代わりに安堵が染み込んできた。