、僕と一緒に行こう」

屋上から中へ通じる扉の前でラウルは手を伸ばす。
彼の手を取っていれば、穏やかで満ち足りた、誰もが望むような幸福を手にしていただろう。
昼の光は輝かしく、夜は甘美な安らぎと共に、そして喜びの朝を迎える……。

そんなふうに生きれたらどんなにいいか。
ラウル、わたしは本当に望んでいたのよ。
パパに守られていたときのように、あなたと暮らせたらって……。
だけどわたしは庇護されるだけではなく、一緒に歩いてみたいと思ってしまった。
エリックと……。


わたしにはまだあの人の闇を支えきれる強さなんてない。
それでも、少しずつでも、変わってゆけるはず……。



わたしは目を伏せて首を振った。




「そうか……」
ラウルは打ちのめされた眼差しでわたしを見詰める。
「ラウル……わたし、警官のことをエリックに伝えなくちゃいけないわ……」
ラウルの愛情を退け、オペラ座のパトロンとしての役目すら邪魔をし、台無しにする。
なんて、ひどい女なんだろう。
なんてわがままで、勝手なんだろう。
それでも……エリックが捕まってしまうのは嫌だ。

「構わないよ」
疲れた笑みを浮かべて、ラウルは呟いた。
「これでファントムが大人しくなるならそれでもいい。でも、僕はあいつが警官を恐れて出てこないとは思っていない。何としても君の舞台を観に現れるに決まっている。だったらファントムがこのことを知っていようと知っていなかろうと、同じことだ」
身体がひどく重いものになってしまったかのように、ラウルは足を引きずって歩いた。

、僕のところに戻りたくなったら……いつでもいい、戻ってきてくれ。僕は待っているから」

そういい残してラウルは屋上を後にした。