「一体、何があったの…!?」
は誰にともなく呟いた。
ピピンが炎の幻のようなものに包まれている――。
それは彼の両手にある水晶玉のようなものから発していた。
(確かあれはサルマンが落とした…)
が確認するより先にガンダルフがピピンの手からそれをもぎ取り、マントでくるんだ。
同時に、邪悪な気配は消え去る。
ピピンは硬直したように仰向けに横たわったまま、目を見開いていた。
相当な騒ぎだったのだろう、その部屋は客人の他にもマークの人間が数人寝場所として用意されていた部屋なのだが、深酒をして寝込んでいた者も皆起き上がっていた。
ギムリもしっかりと目を開けている。
友人の変調に、メリーは心配げな顔になっていた。
ガンダルフはピピンの顔に手をかざし、「何を見たのか?」「何を答えたのか?」と厳しい口調で問い質す。
はアラゴルンとレゴラスという、背の高い男たちに視線を阻まれながらも、どうにか身体の位置をずらして事の成り行きを見守った。
二人が話しているのは、少女には意味のわからないことの方が多かったが。
しかしやがて、ピピンが自分は「ホビットだ」ということしか答えなかったことがわかると、ガンダルフは厳しい表情の中にも、安堵の混じったものを浮かべた。











あなたは誰?










ガンダルフはピピンの上に毛布をかぶせるとすっくと立ち上がった。
「メリアドク、しばらくピピンの側についていてくれるかね?」
「ええ、ガンダルフ」
メリーは親友の方を気遣わしげに見、そして魔法使いに向かってしっかりと頷いた。
「さて、わしはこれから忙しくなる。アラゴルン、レゴラス、ギムリ、一緒に来てくれ。それから、お前さんもだ」
「は、はい」
ガンダルフは四人を引き連れて部屋を出、ずんずんと歩いてすっかり静まり返った薄暗い大広間へ向かった。
よ、急ぎの頼みがある」
「は、はい。わたしにできることでしたら」
ガンダルフが話しかけたのが彼と共にきた旅人の誰でもなかったことに驚きながらも、はかしこまって答えた。
「食料の準備をしてほしい。二人分じゃ。これからわしはセオデン殿にお暇を告げてくる。そうしたらピピンと共にすぐに出発をする」
「今からですか!?」
これにはアラゴルンたちも驚いたらしい。
人間とエルフとドワーフともう一人のホビットも同時に声をあげた。
ガンダルフは力強く頷き、
「さよう。わしらは急がねばならぬ。ピピンがオルサンクの石を覗いてしまった。敵は、あれがまだアイゼンガルドにあると思い込んでいるじゃろう。なれば、一刻も早く離れなければならぬ。エドラスでさえ、まだ充分遠く隔たっているとは言えぬのじゃから」
「そんな……」
ガンダルフの深刻な口ぶりに、の顔から血の気が引いた。
「その敵というのが、アイゼンガルドにピピンがいないと知ったらどうなるのです?マークが狙われるのですか?また戦いになるの!?」
最後の方は叫ぶようであった。
取り乱した少女に、ガンダルフは肩を抑えて落ち着くよう促した。
「おそらく戦いにはなるまい。大軍勢がこの地にたどり着く前にゴンドールを通らねばならぬからの。しかし…モルドールの使者が来るだろう」
「モルドール…」
は今度こそ顔色をなくした。
モルドールの使者といえば、半年ほど前に各地を恐怖で混乱に陥れた者たちではないか。
大人数ではないという話だったが、それでも騎士が十数人殺されたのだ。
「並みの者では戦いにならぬ。見かけても決して剣を抜いてはならん。陛下にもよく言っておこう。それから、アラゴルンよ」
ガンダルフはマントに包んだ例の水晶玉をアラゴルンに差し出した。
「このオルサンクの石を管理してくれまいか。危険な預かりものになるじゃろうが」
アラゴルンはわずかに目を見開いた後、静かな口調で答えた。
「確かに危険ですが、誰にとってもということはありません。なぜならこれは古のゴンドールの王たちの手によってオルサンクに置かれたものなのですから。今や我が時は近づきました。それをいただきましょう」
は男の言葉に、先ほどまで襲われていた恐怖をすっかり忘れてぽかんとした。
(古のゴンドールの王が置いたものをいただきましょうって、そんな当たり前のように…。アラゴルンさんって、アラゴルンさんって…もしかしてすっごく偉い人だったりするのかしら…?)
「皆、この品物のことは秘密にしておいてくれ。特にペレグリンにはこの珠の行方を知られてはならん。よいな?」
ガンダルフは言うだけ言うと踵を返して王家の人間のための部屋がある棟へ向かった。
気圧されていたも、自分に振り当てられた役目をこなすべく、慌てて台所へ小走りで駆けて行った。





袋の中にパンの塊とチーズ、干し果物と干し肉を詰めたものを抱えて広間に戻ると、そこにはセオデンほか数名が集まっていた。
外へと通じる扉は開け放たれ、夜風が吹き込んでいる。
この時間は一日の中で最も気温が低くなる。春が近いとはいえ、相当に冷え込んでいた。
ガンダルフの急な出立に戸惑いながらも急いできたのだろう、エオメルの着ているものは昨夜と同じで、皺が寄っていた。おそらく酔っ払ったまま寝てしまったのだろう。
他の騎士たちも似たり寄ったりだった。
だがさすがにエオウィンは簡素ながらも身支度を整えており、夜明け前の薄暗い闇の中にあってその顔は輝くばかりの白さだった。
魔法使いの周囲には、王の他にガンダルフと同行してきた男たちが複雑な表情で集っている。
特にガンダルフの隣にしょんぼりと立っていたピピンは、これからどうなるのだろうかと不安に押しつぶされそうな顔になっていた。
ふと先を見やると、すでに飛蔭が心得顔で外に控えていた。いささか興奮しているようで、荒い鼻息が蒸気のように勢いよく噴出している。
「お待たせいたしました、ガンダルフ殿。これで足りるでしょうか?」
駆け寄ったが袋を手渡す。
「おお、すまん。世話になったな、
「いえ、ガンダルフ殿もお気をつけて。…ピピン、大丈夫?」
は屈みこんでピピンに視線を合わせた。
「…どうだろう。気分は悪くはないけど。ああ、馬鹿なことをしたと思ってるよ。これから僕、どうなるのかなあ」
ピピンは唸るような声をあげると、顔を覆ってそう答えた。
「ペレグリンよ、さあ行くぞ!」
ガンダルフはすでに馬上の人となり、杖を振り上げる。
「…どこに行くかも教えられてないんだ。やっぱり魔法使いは怒らせるものじゃないね」
力なく笑みを浮かべるとピピンは、「それじゃ、さよなら」と言って外へと出て行った。
アラゴルンがピピンを抱え挙げて飛蔭に乗せ、魔法使いは落ちないように腕を回す。
食料の入った袋は、ピピンが抱えることになった。
「では、皆の衆、さらばじゃ」
ガンダルフが言うが早いか、飛蔭が走り出し、あっというまに門を超えて出て行ってしまった。
と、それまで黙っていたメリーが駆け出した。
アラゴルンがそれを追う。
も思わず外へ出たが、メリーが物見櫓に登ったと知るとそっとしておこうとその場で待機することにした。
朝の光がほんのりと空を染め始め、メリーの姿が照らされる。
陽気なホビットは背丈に反して、その存在感は小さくはない。
だが今のメリーはいつもよりずっと小さく、力ないように見えた。





(…眠い)
午後になって、は猛烈な睡魔に襲われて自室に戻った。
ガンダルフが出立した時刻が時刻だったため、そのまま起きてることにし、一日の仕事を始めたのだ。
昨夜の片付けはざっとしただけなのでそれを始末し、また遠方から駆けつけてきた軍の世話をする。
彼らは自前のテントや食料を持ってきてはいるが、それは行軍をするために使用するのでエドラスに集合している間は彼らの分も用意する必要があるのだ。
だが昼食をとって人心地がつくと、立っている事もできないほどフラフラしてきた。
そこでようやく昨夜は一睡もしていなかったことに思い当たる。
疲労も睡眠不足も限界に来ていたのだろう。
だが倒れるように寝台にもぐりこみ、次に目が開いたときには当たりは真っ暗になっていたので、は半ば呆然としたまま寝台に身を起こした。
(…さっき目を閉じたばっかりだと思ったのに)
今は何時頃だろうか。時間の感覚がすっかりおかしくなっている。
遠くからは人声がするので真夜中ではないとは思うが。
おかしな時間に眠ってしまったので頭がかすかに痛むが、それでも気分はだいぶすっきりとした。
身支度を整えて部屋を出る。
誰も起こしに来なかったことを考えるとこのまま朝まで寝ていても良かったのかもしれないが、一応何か起きていないか確認だけはしようとは思った。
すっかりと王家の嫁としての役割が身についてしまったが、相手がいなくなってしまった以上いつまでもこうしているはさすがにおかしいだろうとも思ったが。
とはいえ、まだマークは安寧には程遠く、すぐにでも次の戦いが起こるかもしれないという状況であり、少女の身の振り方までを真剣に考慮するものはいないのが現状だ。
(エオメル様も、わたしをどうしたいのかよくわからないし…)
どうやらセオドレドの変わりに自分を守ろうとしているらしいことはわかるが、かといってエオメルがセオドレドになれるわけでもない。
まさか、彼の代わりにエオメルと結婚をしろということでもないだろう。
ならば早いうちに西の谷に戻ったほうがいい。
セオドレドとは違い、エオル王家の男子はもうエオメルしかいない。
となれば、ことの是非はともかくとして、エオメルはできるだけ早く結婚しなければいけないだろう。
なのにエオメルがにばかり構っていたらいつまで経っても結婚しないのではないか?
そのような気がする。
(二人とも、頑固なところはそっくりだもの)
深いため息をつくと、は広間に入った。
「ん?」
は思わずぱちくりと瞬きをした。
広間にはロヒアリムではない一団が集っていたのだ。
ほとんどが黒髪で、旅塵に塗れた格好だった。ちょうどこの地へついた時のアラゴルンたちのように。
「…あの方たちはどなた?」
壁際にいたエオウィンをみつけると、はこっそり囁く。
振り返った彼女は弾んだ声で答えた。
「北の国の野伏なのですって。アラゴルン殿のお身内の方々なのだそうよ。先ほど到着されたばかりなの。それからあの双子の方々は裂け谷から参られたエルフのご兄弟なのですって。レゴラス殿とはまた感じが違っていらっしゃると思わない?」
たしかによく見ると、黒髪の男たちの中には、一際背が高く美しい一対がいた。
「アラゴルンさんを探していらしたの?」
話ながらももエオウィンも視線は広間の中央に注がれていた。
旅姿の男たちはアラゴルンを囲んでなにやら熱心に話している。
しかしレゴラスやギムリ、それにメリーは彼らのやりとりを遠巻きにしているだけだった。
あまり面識はないのかもしれないと、は思った。
「ええ、そのようです。あのように力ある殿方が来てくださるなんて、なんと心強いことでしょう。彼らと並んでは、わが国の男たちも子供のように見えてしまいますわね」
これは内緒ですわよ、とエオウィンが唇に指を当てる。
は噴出すのを堪えようとして肩が震えた。
昨夜とは違う意味で館は喜びに満ちているようだった。
「アラゴルンさんたちは、しばらくマークにいてくださるの?」
「え?ええ、そうだと思ってましたけど…?」
の疑問にエオウィンの表情が不安に曇る。
「あの方たち、旅をしていらしたのだし、目的地があるのではと思って…。もちろん、残ってくださるならとても心強いけれど…」
「そう、そういえば、そうね…」
エオウィンは心細げにアラゴルンを見つめる。
彼らが来て以来、マークを覆っていた暗雲は覆された。彼らはこの国の希望なのだ。
角笛城においてのアラゴルンの活躍は、騎士たちに多大なる感銘と敬愛をもたらしたと言う。
ならば彼らが去ってしまえば、士気はずいぶんと落ちることになるだろう。
(それだけではないわ。わたくしも、あの方には去ってほしくはない…)
エオウィンはアラゴルンがロヒアリムでないことを心の底から悔やみ、切ないため息を漏らした。





新たな客人のための食卓が用意され、一同が席に着く。
もっとも、セオデンたちが席に着いたのは歓迎の意を込めてのことであって、館の夕餉の時間はとっくに終わっていたのだが。
しかしだけは寝過ごしたため、客人たちとともに軽く夕食を取ることにした。
それからメリーはといえば、ホビットは一日六食食べるとのことで、夜食として野伏らと同じだけ食べられると主張した。
喋る者はほとんどいないが、それなりに和やかなひと時。
しかしそれはアラゴルンの放った決意によって凍りついた、
「死者の道とな?」
「ええ、そうです」
セオデンの表情が強張った。
アラゴルンは、この後、夜が明けたら死者の道をとってゴンドールに進むと言い出したのだ。
食卓は一気に静まり返る。
もスプーンを持つ手を止めた。
(死者の道って、以前セオドレドが話していた…?生きてる者は誰も通り抜けられないいいていう…)
それも、セオドレドをして異様な雰囲気のあまり近づく事もできなかった場所のはずだ。
「なぜその道のことを口にされるのだ?その道への入り口は馬鍬砦にある。しかし生ある者は誰もそこを通る事はできぬのだぞ」
セオデンは強い調子でアラゴルンを諌める。
「そうです、アラゴルン殿。わたくしは共に轡を並べて戦いに赴く事を望んでいました。しかしあなたが死者の道を探されるとあらば、これで我らの道は別たれ、再び天が下で相会うことはできますまい」
エオメルも席から立ち上がり哀願するようにして彼を止めようとした。
しかしアラゴルンは断固とした口調で言い切った。
「それでも私はその道を通ります」
は思わずこれまでアラゴルンと共に旅をしてきた者たちの顔を探した。
レゴラスは驚いた様子もなく杯を傾けている。
ギムリは眉間に皺を寄せて唇を強く引き結んでいる。
の隣に座っているメリーは、先ほどまでの旺盛な食欲が影を潜め、身を硬くしていた。
だが、誰も止める様子はない。
「ですが、それは狂気の沙汰というものでしょう」
エオウィンは自分でも意外なほど強い口調でアラゴルンを責めていることに戸惑いを拭えなかった。
しかし口は止まらない。
「ここにおられる方々を暗がりの中にお連れするのではなく、戦いに率いておいでになるべきです。お願いでございます。どうぞここに御留まりになって、兄と共にご出陣くださいませ。そうすればわたくしどもの心は喜び、またわたくしどもの望みはより明るいものとなりましょうから」
「姫君、これは狂気の沙汰ではありません」
アラゴルンはエオウィンの目をしっかと見据えた。
「なぜなら私は定められた道を行くのですから。しかし私に従う者たちは、それぞれの自由な意思からそうするのです。ですからもし彼らがここに留まって、ロヒアリムと出陣することを望むのなら、そうしても構わないのです。しかし私は死者の道をとります。やむを得なければ一人ででも」
頑なな男の言葉に、エオウィンは蒼白になった。
情に訴えても撥ね付けられ、理性に語りかけても動じない。
なんてやっかいな男だとはやや憤慨しながら立ち上がった。
ガタリ、という音に一声にに視線が集まる。
「それならばせめて、なぜそうまでして死者の道をとりたいのか、理由をお聞かせ願いますか?どれほど急ぎの用があるにしても、通れない道を通る事ほど時間を無駄にすることはないと思います。わたしの故郷には急がば回れ、という諺があるのですよ?」
アラゴルンはわずかに目を見開いたかと思うと、苦笑した。
彼にすればの腹立ちなど子猫が背中の毛を逆立てたようなものでしかない。
真剣なのはわかっているが、どうにも愛らしさの方が勝るのだ。
しかし笑われた事で少女がますます睨みつけてくるのでアラゴルンは自身も立ち上がって礼をした。
「いや、失礼。あなたを愚弄したわけではないのです。理由はと言われますか。それは、伝承にもっとも通じてられる裂け谷の父君からの伝言がもたらされたからです。『アラゴルンに伝えよ。予見者の言葉と死者の道を忘れる事なかれ』と」
「予見者の言葉というのは?」
は怪訝そうに眉を潜める。
アラゴルンは一瞬躊躇したが、軽く頭を振ると朗々とした声で答えた。
「フォルノストの最後の王、アルヴェドゥイの時代に存在した予見者、マルベスのことです。彼はこのような予見を残しました。

長き影、地を多いて、
暗黒の翼、西の方にとどく。
塔は揺れ動く。王たちの奥津城に
滅びの日、近づく。死者は目醒まさる。
そは、誓言破りし者らに時いたればなり。
エレヒの石に、ふたたびかれら立ちて、
丘に角笛の高鳴る音を聞かん。
角笛は誰のものぞ?かれらを呼ぶは誰ぞ?
淡き薄明の中に、忘れられし民を呼ぶは。
その民の誓言せし者の世継なり。
その者、北より来たらん、危急に駆られて。
彼、死者の道への戸をくぐらん」

アラゴルンが語り終わると、一同の視線は彼に集まった。
はゆっくりと唇を開く。
濃い茶色の目が困惑に揺れ動いていた。
「死者が目を覚ますというのですか?」
「言葉通りであれば、そうなのでしょう。しかし実際はどのようなことが起きるかはわからない」
アラゴルンは誠実に答えた。
はじっと男を見つめる。
「アラゴルンさん…。あなた、何者なんですか?」
アラゴルンの話は、どうにも納得できないことがある。
彼はそう、『裂け谷の父』からの伝言と言ったか。
しかし裂け谷はエルフの国のはずだ。
となればその父というのはエルフということになる。
だがアラゴルンはどう見ても人間だ。少なくとも目の前にいる三人のエルフたちとは少しも似ていない。
それに、『その民の誓言せし者の世継』とは…。
確かに彼は北の野伏の族長であるというから、『世継』であったことはあるのだろうが、しかし、世継というのはもっと規模が大きいものではないか?
彼が言っている世継とは、野伏の族長の息子程度の意味ではないように思える。
それに、例の水晶玉の件もある。
少女の指摘に、セオデンやエオメルも興味深そうにアラゴルンを見やった。
もちろんエオウィンも。
「私の素性を正確にお答えすればこうなります。アラソルンの息子アラゴルン。エレスサール、即ちエルフの石と呼ばれる者。ドゥナダンと呼ばれて、ゴンドールのエレンディルの息子イシルドゥアの世継です」
はそれでもわからないというように瞬きを繰り返した。
しかしセオデンはさすがにアラゴルンの言う事を理解し、立ち上がって彼に向き直る。
「なるほど…。なれば、ゴンドールに王が戻られるのか」
感慨深げに呟く。
「間に合うかどうかの瀬戸際というところですが。それというのも、言伝が他にもあり、ゴンドールに南からの危機が迫っているというのです。それを速やかに撃退しなければかの都は十日も経たないうちに陥落することになるでしょう」
「なっ…!?」
エオメルが驚愕の表情を浮かべて立ち上がる。
セオデンもエオウィンも、も衝撃に貫かれたように竦んでいた。
「…十日か」
セオデンは呟く。
「我らは死者の道は通れぬ。召集を急がせよう」
ゴンドールが墜ちれば、マークも遠からず攻められる。
そのことだけはにも理解しえた。
この国の外では、こちらが思っていたよりずっと状況が悪くなっていたのだ。
「セオデン王、もしもお願いできますれば、たとえ全ての軍が集まらずとも、明日中には出発していただきたい」
セオデンは一拍置くと、力強く頷いた。
「そうしよう」






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