モリア。
光の差さない真っ暗な中、ガンダルフの杖の先に灯った明かりを頼りにわたしたちは進んでいく。
階段はあちこち崩れ、想像以上に足場が悪かった。
わたしはレゴラスに手を引かれて歩いていた。
坑道に入って何時間たったのか、もうよくわからない。
とっく真夜中になっていると思うけど、はやくここから抜け出したくて、誰も休もうと言い出さなかった。
入り口の、あのドワーフたちの死体……
後戻りも出来なくなって、先に不吉なことが待っていそうで、だけど確証はなくて。
嫌な感じだ。
とても嫌な感じだ。
老賢人は道を示す
坑道の中の空気は少しひんやりとしていていたけど、歩いている身にはちょうど良いくらいの涼しさで、風がないためかさほど埃っぽくもなかった。
目の見えるのはごつごつした壁とくねくねと曲がる道。
ところどころにある階段。
それから、ここの道の大部分は意外と細くて、おまけに手すりのようなものがなかった。
わたしはけして目は悪くないのだけど、ここまで暗いといつ道を踏み外したりしないかと冷や冷やしてしまう。
ふう、とため息をつくとレゴラスが気遣わしげな目で「疲れた?」と聞いてきた。
わたしは小さく首を振って、唇の動きだけで「まだ平気」と答えると、彼はわたしの頭をよしよし、となでた。
……前から思っていたけど、レゴラスってわたしのことちゃんと人間だと認識しているのかしら。
なんだか扱いが怪我した動物の仔に対するようなもののような気が。
出会い方が悪かったせいかな。
そんなことをつらつらと考えていると、周囲の状況がさっきよりも良く見えるようになっていることに気がついた。
明るくなってきているのだ。
不思議に思っていると、ガンダルフが説明を始めてくれた。
「金や宝石などは取るに足らん。ミスリルがここの冨じゃ」
杖の明かりを崖下に向ける。
つられて皆が覗き込むと、感嘆の表情が浮かんだ。
どこまで続くとも知れない深い谷底がぼんやりと青白い光を放っていた。
「ビルボはミスリルの鎖帷子を持っておった。トーリンの贈り物じゃ」
「おお!王者の贈り物だ!」
さっきまでむっつりと黙りこくっていたギムリさんが驚いた声をあげた。
《脳内メモ・ドワーフの名前に「トーリン」を登録。
ドワーフの階級制度はよく分からないけど、偉いひとらしい。
ミスリル」の名前を追加。
希少鉱物らしい。どういった性質があるのかは現時点では不明。
復習・「ビルボ」→えーと、フロドの義父のホビットで、フロドの前に指輪を持っていた。今は「裂け谷」っていうところにいる。》と。
知らないことを知るのは好きだけど、全く知らない世界のことを覚えようとするのは想像以上に大変だった。
なにしろこの一行の構成は4つの種族からなっていて、文化や種族的な性質とか、みんな違うのだから。
こうして、新しく知ったことをごちゃごちゃにならないように覚え、機会があるたびに復習していかないとすぐに忘れてしまう。
「ビルボは気付いていないが、あれはホビット庄すべてを合わせたよりも価値があるのじゃ」
……鎖帷子1つでって、ミスリルってどうゆう代物なんだろう。
ホビットたちの方をみると、なんだかフロドがぎょっとしたような顔になっていた。
お義父さんがそんなもの持ってるなんて、知らなかったんだね、フロド。
ミスリルの光を後にした私たちはやがて傾斜のきつい階段に差し掛かった。
そこは半分以上崩れていて、かなり危なっかしくなっていた。
片手が使えないには難しいかな、と思って抱き上げると、予想外の抵抗をされてしまった。
自分で歩けるから下ろしてくれ、と声をひそめて懇願してくる彼女に、思わず苦笑してしまった。
は遠慮しすぎる。
彼女は自分が私たちの旅の妨げになっていると思って、かわいそうなくらい気を使っている。
だけどそうじゃない。
いつも前向きに振舞う彼女にどれほど勇気付けられたか。
愛らしい花の笑みにどれほど心を癒されたか。
私たちの旅の目的を理解してくれたのは本当に助かったし。
ましてや指輪に誘惑されて平気でいる人間なんて、私は初めて見たよ。
彼女は理解していないんだ。
私たちと一緒にいることが、どれほど危険なのかを。
危険なのは、指輪だけではないのだということを。
モリア。
この奥に本当にドワーフたちがいるのだろうか。
日も月も星も見えないこの地の底で、何が起こるとも知れないのに。
私は彼女を守りきれるのだろうか……?
階段を上りきると、道が三方に分かれていた。
「この場所は記憶にない」
ガンダルフは困惑したように呟いた。
先に進むことが出来なくなった一行はここで休憩することになった。
ガンダルフは三方の道が見える、大きな岩の上に腰掛け、パイプをくゆらせていた。
その下にあるやや広い平らな場所に焚き火を起こし、他の者はそこにじっとしてガンダルフの邪魔をしないように努めていた。
「僕たち、迷ったのかな」
モリアの門で学習したことを覚えていたピピンは、小さな声でメリーに囁いた。
「どうなんだろう」
メリーにはそんなことはわからなかった。
「迷ったんだと思うよ」
「し―――――っ」
ピピンの言葉にメリーは慌ててピピンの口を塞いだ。
こんなことがガンダルフに聞かれたら、また叱られると思ったからだ。
「メリー」
「なんだよ」
「腹減った」
「…………・」
うとうとしていたはカクリ、と頭が動いた弾みで目を覚ました。
それから目を瞬かせ、ああ、眠りそうになっていたのかと思い当たり、ぼやけた頭をすっきりさせようと立ち上がった。
「ここにいてもいい?ガンダルフ」
上に上がって、ガンダルフの座っている岩に寄りかかる。
「かまわんよ。じゃが、無理をすることはない。眠いのなら今のうちに、眠ってしまうことじゃ」
「ううん、いいの」
が小さく頭を振ると、ガンダルフはそれ以上何も言わず、の頭をなでた。
立ち上がったフロドが何気なく下に目をやると、何か動くものがいたように見えた。
よく目を凝らしてみると、岩から岩へ飛び移ってゆく何者かの影をはっきり見たのだった。
「誰か下にいます」
フロドは焦ってガンダルフの横に駆け寄った。
ははっとしたように顔を上げる。
「敵なの?」
「ゴラムじゃよ」
ガンダルフは落ち着いて煙を吐き出しながら答えた。
「ゴラム?」
「ゴラム?」
はその名が誰のことか思い出せず、困惑した。
方やフロドはすぐにその名が誰のことか思い当たり、戸惑った。
「三日前から後をつけてきている」
ガンダルフは動じない。
「あいつは、バラド=ドゥアの地下牢から逃げ出したんですか?」
「あるいは、放たれたか」
フロドの表情が曇った。
「指輪に誘われて来たんじゃろう。奴はけして指輪を諦めることはない。なぜならその指輪を愛し、また憎んでもいるからじゃ。奴のたどった道はまこと哀れなものじゃった。元はスメアゴルという青年じゃったが、指輪の魔力に蝕まれたのじゃ」
「ビルボがあの折に、あいつを殺しておけば良かったのに、なんて情けない」
「情けないじゃと?その情けがビルボの手を止めたのじゃよ。多くの死に値するものが生きており、幾人かの生きるに値する者が死んでしまっている。お前さんは命を彼らに与えることが出来るのかね?死の判決を下すことに熱心になってはいかん。賢者にしても全ての結末を見通すことは出来んものじゃ。わしの心は、ゴラムが全てが終る前に善かれ悪しかれ、果たす役割があると告げている。そしてその時が至れば、おそらくビルボの情けが指輪の運命を決するじゃろう、とな」
重々しくいい諭すガンダルフの言葉をじっと聞き入っていたフロドは、胸元にあるものを服越しに握り締めた。
「指輪なんか、僕のところに来なければ良かったのに。こんなこと、みんな、みんな、起こらなければ良かったのに」
その声は悲痛に満ちている。
「こんな時代に行き当たった者は誰しもそう思う。しかしどのような時代に生まれるかは決められないことじゃ。わしらがせねばならんのはこれだけよ。この与えられた時代にどう対処するかを決めること。フロド、。この世界にはな、邪悪な意思の他にも働いている力がある。ビルボはこの指輪を見出すように定められた。ただし、その造りによってではない。そしてフロド、お前さんの場合もまた、それを持つことを定められたのじゃ。付け加えるならば、わしもまたそれらを導くように定められておる。それは勇気付けられる考えじゃないかね」
2人のやり取りをじっと聞いていたは、ふ、と瞳を伏せた。
そのままコテンとガンダルフの膝に頭を伏せる。
「?」
眠いの?とフロドが声をかける。
頭を振るだけの否定の返事をフロドに返し、伏せた体勢のまま、異世界の少女は切なげに魔法使の名を呼んだ。
「ガンダルフ。ガンダルフ」
密やかな声はわずかに震えていた。
老賢人は黙って少女の華奢な肩に優しく触れる。
が泣きだしたのだと思ったフロドは、慰めようととっさに腰を浮かせたのだが、いったい何を言えばよいやらさっぱり思い浮かばず、またゆっくりと腰を下ろした。
そもそも彼女が泣き出す理由がわからない。
ガンダルフの話は確かに考えさせられるものだったが、が悲しく思うようなことはなかったはずだ。
ガンダルフを見ると、彼は何もかも得心したように、哀れみを込めた眼差しで、声を押し殺して泣く少女を宥め続けた。
二人の入り込めない雰囲気に気まずくなったフロドは、下にいる仲間たちに目を移し、そこでやはり自分と同じように少女を慰めようとして機を失したエルフと視線が合ってしまった。
しばらく気まずい静けさが支配していたが、やがて魔法使いが己の膝を叩き、
「おお、あの道じゃ」
晴れ晴れと告げると、旅は再開された。
ここでフロドは少々の冒険を試みてみた。
いつも少女の側にいるエルフの先手を打って、と手を繋いでみたのだ。
案の定後方からレゴラスの刺すような視線を感じたが、フロドはわざと気付かないふりをした。
は少し驚いたように自分を見たが、振りほどかれることはなかった。
繋いだ手の平は温かく、そして柔らかかった。
「…」
「ん?」
「え…と、あの…」
「うん、なあに?」
見上げるとはもう泣いてはいなかった。
口元に柔らかな笑みを浮かべ、フロドの言葉の続きを待っている。
涙の名残か、瞳はいつもよりも潤んでいて、先を歩くガンダルフの杖の明かりを受けて、不思議な輝きを放っていた。
「その…大丈夫?」
フロドは言ってから自分の言葉の陳腐ぶりを口惜しく思った。
もっと気の利いたことを言えればいいのにと。
「ガンダルフは、厳しいね」
は少しだけ目を細めて笑う。
「は…?ああ、うん。そうだね」
話の飛躍についてゆけなかったが、とりあえず相槌を返した。
「でもすごく優しいね」
「……うん」
それは否定しないが、いったいは何が言いたいのだろうかとフロドは思った。
自分に聞こえなかっただけで、ガンダルフが彼女に何かを言ったのだろうか?
「…困っちゃうなあ…」
「…何が?」
は本当に困っているようで、弓月形の眉はひそめられていた。
だが、その下の表情は穏やかに微笑んでいるといってもよいもので、フロドはますます困惑した。
「あのね、フロド。わたし、フロドが好きよ」
少女の唐突な告白に後ろの空気が一気に固まった気配がし、フロドは真っ赤になった。
「あ…え…その…ありがとう…」
はもごもごと礼を言うフロドに、ふふ、と微笑み、繋ぐ手に力を込める。
「みんな好きよ。ガンダルフもレゴラスもギムリさんも。サムもメリーもピピンも。アラゴルンもボロミアさんも」
の言葉にフロドと後ろの7人は一気に脱力した。
「あ…そう。そういう意味」
フロドはあはは、と乾いた笑いを浮かべ、は何やら1人で納得したように頷いていた。
「つまり、そういうことなのよ」
「……?」
真っ暗なモリアの中では、今が昼なのか夜なのかまるで見当もつかなかったが、導き手のガンダルフによってその後順調に進み、1日が過ぎた。
2日が過ぎ、3日が経った。
そして4日目の朝。
狭く、曲がりくねった道が不意に途切れ、空気の感じで広い場所に出たことがわかった。
「選んだ道に間違いはなかった」
ガンダルフはほっとしたように言うと杖を高く掲げた。
「見よ、ドワーフの王国、ドワローデルフの都じゃ」
ガンダルフの声と共に杖の先の光が強まり、一行の影が大きく伸び上がった。
光は広大な広間を浮かび上がらせた。
巨大な柱が幾本も立ち並び、光が届かないほど高い天井を支えていた。
「こんなすげえものが地下に……」
サムの呟きにが同意した。
「ドワーフってすごいもの造るのねぇ。ねえ、ギムリさん。…………ギムリさん?」
後ろを振り返ると、ギムリは感極まったように立ち尽くしていた。
再び明かりを元の光量に戻し、先へと進む。
磨かれた床はこれまでの旅路の中でもっとも歩きやすかった。
俄然元気になったギムリは、ガンダルフのすぐ後ろを進みながらモリアのドワーフの技を心に刻みつけていた。
彼は古のドワーフの技量に驚嘆しながらも、一方ではバーリンや一族の者たちがいる様子が感じられないことを不安に思っていた。
先のほうにかすかに光が見えた。
何気なくそちらに目をやったギムリは、不吉なものを見たような気がして息を呑んだ。
「まさか……!」
「ギムリッ!」
駆け出したギムリにはガンダルフの声は耳に入らなかった。
目指す部屋へ駆け込むと、壁の高い位置についている明かり取りから差し込む、一条の光に照らされた長方形の台が彼の目に入ってきた。
台の上のほうには文字が彫られている。
「なんてことだ」
それが何か悟ったギムリは呆然と立ち尽くした。
「なんてことだ」
ガンダルフが近付き、その文字を読み上げた。
「『モリアの領主 フンディンの息子 バーリンここに眠る』」
棺を前にしたギムリは、力が抜けたように膝をつき、従兄弟の不幸を思って涙した。
その部屋にはバーリンの棺以外にも多くのドワーフの亡骸があった。
散乱した武器、叩き割られた盾や兜、干からびた躯に戦いの痕がないもの1つとしてなく。
それらの上に積もった埃だけが、静かに時の経過を告げているだけだった。
ガンダルフは棺に寄りかかった姿の躯が本を抱えているのに気がつくと、ピピンに杖と帽子を預け、慎重な手つきで取り上げた。
頑丈なつくりの表紙にはいくつかの切られた跡があり、開くとページとページの間の埃が舞った。
ページは血やそれ以外のもので汚れている。
ガンダルフはその書物を淡々と読んで聞かせた。
「『奴らは橋と第二の広間を陥落せしめた。我らは門を閉ざしたが長きに渡ってそれらを保つことはあたわず。大地は揺れている。太鼓。深きより太鼓の音が。我らは外に逃れ得ず。闇の中に影が蠢く。我らは外に逃れること叶わず、奴らが来る』」
その時、ガンダルフの声を掻き消すような大きな音が響いた。
一同の視線が、はっとしたように魔法使からその音のほうに移ると、井戸の前にいたピピンが驚いた様子で立ちすくんでいた。
井戸の上の朽ちかけた死骸がゆっくりと落下し、それに絡まっていた鎖がじゃらじゃらとにぎやかな音をさせて続いた。そしてとどめとばかりに鎖の先の桶があった。
それらがぶつかりながら落ちてゆく音が何度も何度も反響していった。
ピピンはばつが悪そうに嵐が過ぎるのを待っていた。
またガンダルフに叱られるのは確実だった。
音が静まり、何事もなさそうだと判断したガンダルフは腹を立てた。
「ばか者トゥック!」
ガンダルフはばたんと本を閉じてピピンに近付き、杖と帽子をひったくった。
「これはホビットの遠足ではないぞ。次にやったらお前自身を投げ込んで、その間抜けさ加減をわしらの中から取り除いてやるわ!」
そして元いた場所に戻ろうとし、ピタリと歩を止めた。
遠くから、落下音ともその反響音とも違うものが聞こえたような気がしたのだ。
いや、気のせいではなかった。
音よりもその振動が直接伝わってくるような、低い響きが井戸を伝って聞こえてくる。
それは最初に間隔を置いて、そしてすぐに連続したものになっていった。
「太鼓の……音……」
呆然としたの呟きに、フロドは腰の小剣を抜いた。
つらぬき丸の刀身は青白い光を放っていた。
これから起こることが何なのか、言わずとも全員が理解した。
「オークだ!」
レゴラスの声に戦闘の心得のあるもの達が動き出す。
ボロミアは入り口に近付き、外の様子を伺った。
とたん、続け様に飛んできた2本の矢が扉に突き刺さった。
「下がれ!ガンダルフの側にいろ!」
アラゴルンは戦いに不慣れな者たちを促し、扉を閉ざしたボロミアの元に駆け寄る。
「トロルも一緒だ」
レゴラスはその言葉を聞いて歯噛みした。
これから来るのは、モリアのドワーフたちを全滅させたオークの集団だ。
そのうえやたらとしぶといトロルも混じっている!
まともな戦力になりそうなのは10人中5人。
今から逃げても間に合うものでなし、さして広くもないこんなところでは隠れる場所もない。
彼女は、は怪我をしているのに。
レゴラスは舌打ちしながらも、少しでも攻撃されるまでの時間を稼ごうと扉の近くに立てかけてあった槍や大斧をボロミアに投げ渡した。
人間の男たちはそれらを閂のかわりにし、容易に扉が開かないようにする。
「!」
アラゴルンはガンダルフの後ろでカバンの中を漁っている少女に駆け寄り、予備の小剣を差し出した。
「持っていろ」
は顔を上げた。
「無理よ。わたし、片手じゃ剣は扱えないもの」
彼女青ざめてはいるものの、落ち着いた様子でアラゴルンに返す。
「しかし、丸腰では……」
「こっちのほうが慣れてる」
そういうと彼女は金色に輝く圏を取り出した。
それからナイフを2本、ベルトに挟み、動かないよう身体に固定していた包帯を外していった。
左手を何度か振って、ぎこちない動きに顔をしかめると、痛みを振り払うようにして、両手に圏を握り締めた。
「だけどそれは舞踏用の……」
困惑したレゴラスに、は苦笑する。
「ええ、でもこれ軽くて鋼の7倍固いのよ」
「何?」
ギムリが驚いて振り向いた。
アラゴルンも目を丸くしている。
「暗器(隠し武器)なのよ、ようするに」
「戦えるのか?」
扉と少女を交互に見交わし、ボロミアが叫ぶ。
「淑女のたしなみとしての、護身程度ですが」
「十分だ。無茶だけはするなよ」
扉がきしむ。
破られるのは時間の問題だった。
「さあ、来るがいい。モリアのドワーフはまだ全滅してはおらんぞ!」
ギムリは雄叫びを上げる。
前方にはレゴラスを真ん中にして左右に人間の男たちが並ぶ。
ギムリはバーリンの墓の上に上がり、後方にはガンダルフがホビットとを庇うように立ちはだかっていた。
ベキリ、と扉の一部が破られた。
そのわずかな隙間を、レゴラスの矢が射抜いた―――
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