「わ、わたし……あなたが好きです!」
 愛らしい容貌の少女が顔を真っ赤に染めて告げる。
 この一生懸命さが伺える様子を見たのであれば、ある者は甘酸っぱい過去を思い出し、またある者は心の中で声援を送りたくなるだろう。
 だが彼――告白を受けている当事者たるハルディアには、そんな余裕は一切なかった。目眩もしてきそうな具合であったが、余人のおらぬ部屋で倒れるわけにもいかない。
 実を言えば、いつかはこんなことが起きるのではないかとは思っていたのだ。が自分を憎からず思っていることには、とうに気がついていたからだ。
 だがなぜ自分が彼女にこうも好かれたのか、その理由はわからない。特別容貌に優れているわけでもなければ子供に好かれやすい性格をしているわけでもないのだ。むしろ子供には少々怖がられる方であろう。身分や財産については、言うまでもない。
 ハルディアはに出会った時のことを思い返した。
 白鳥の乙女そっくりな姿に呆然となり、過去に舞い戻ったのかと思ってしまったほどだ。よく見てみれば髪と目の色が違うのはもちろん、身長も頭半分ほど小さかったが、それはまだ成長しきっていないからだろう。
 そうであっても、恐ろしいほど似ていることには変わりない。
 さらにはどこまで本気か知らないが、の父であるエルロヒアはハルディアに彼女を未来の伴侶にどうかと突っついてくるのだ。内輪の茶会に頻繁に招待されるようになったのはその一環であり、その度に彼はエルロヒアの遠回しなからかいとの恋する瞳にさらされている。
 正直、あまり居心地がいいものではなかった。
 だが主筋の若君に目をかけられているのは事実で、それをハルディア程度の身分の者に撥ねつけられるわけもない。
 また別人だとわかっていても、と向き合えば過去の記憶が刺激されてしまう。
 これほどの愛情を向けてくれるのが、もしも白鳥の乙女であったらと、に罪悪感を覚えながらもそう思ってしまう自分がいた。
 だがであり、白鳥の乙女ではない。重ねて見るなど、二人にとって失礼だろう。それくらいの分別はハルディアにだってある。
 ハルディアは息を飲んで自分の返答を待っている少女を困惑の思いで見つめる。そしてどうしてこんなことになってしまったのかと、その原因を探った。
 エルロヒア一家の住まう館はハルディアの住む場所とは距離があるため、日帰りは無理なのだ。そのため茶会に招待された時には何日か泊まるのが恒例となっている。
 今回もその予定であったが、いささか問題が起きた。
 エルロヒアとその奥方であるロスマリエンの間に生まれた唯一の姫君、が自分のことを特別に慕っているということが発覚してしまったのだ。
 正確にいえば、このことはハルディアもの両親もすでに知っていたことなのだが、にとっては秘密が暴露されてしまったも同然であり、羞恥のあまりかその場で気絶してしまったのだ。
 倒れた少女に付き添うためにロスマリエンが欠席したまま茶会は開催された。だがもともと気心が知れた者たちしか招待されない内輪の集いだったため、女主人の欠席という本来ならば非難を免れないものも特に問題視されることがなかった。
 それどころかのハルディアへの恋が公にされたことが格好の話題となり、大いに盛り上がってしまった。自然と話は参加者が経験した恋愛談義になり、そしてハルディアは様々な訓戒を授けてもらうことになった。しかしハルディアにとってはその時間は拷問にも等しいものだったのだ。
 なぜ誰も、相手がまだ年若すぎるということを指摘しないのだろうか。そしてどうして誰も身分違いを気にしないのかとハルディアは何度も叫びたくなった。優しく見守られすぎて、背筋がむずがゆくなってしまう。
 これがもっと形式ばったものであったら、当然の年やハルディアの身分を問題にしてくるエルフがでてきたはずだろう。良くも悪くもエルロヒアの親しい者にはざっくりとした性格をしている者が多いのが、ハルディアの不幸だった。
 その日は茶会から解放された後もには会えなかった。
 そして今朝はハルディアを含む泊まり客は主人一家と朝食を取ったのだが、そのときにも彼女は現れなかった。ロスマリエンが言うのは、恥ずかしがって出ていきたくないということだそうだ。しかしその後エルロヒアが、このまま部屋に閉じこもっているわけにはいかないのだから、様子を見てくるようにハルディアに言ったのだ。
 追いつめてどうする、と思ったのはどうやら自分だけではなかったようで、ロスマリエンがやんわりと夫を窘めたためにその場は救われたが、確かに、どうにかせねばならない状況だと彼は思った。
 とはいえハルディアはから直接愛を告げられたわけではない。彼女を元気づけるとしても、この場合、どんな風に接して、どんな風に言葉をかければよいのか、見当もつかなかった。
 与えられた客室に戻って頭を悩ませていると、ふいに遠慮がちなノックが鳴る。意識もせずに返事をすると、ゆっくりと扉を開けて、が中へ入ってきた。
 しまった、というのがその時とっさに出てきた思いだった。訪問者がだとわかっていたら、居留守を使ったものを、と。
 己を励ますように、両手を胸元にあて、今にも泣き出しそうな顔で彼女は静々と近づいてくる。
 がこれから何をしようとしているのか、予想できないハルディアではない。
 だが心の準備もできていないところへこの不意打ちだ。逃げ場もない。追いつめられてしまったのは自分だ、とハルディアは悟った。
「あの……」
 一言口にしただけで、は指先まで赤くなる。
 彼女は軽く見上げるだけでハルディアと目が合う距離で歩みを止めた。二人は身長差があるため、あまり近づきすぎると互いの顔がよく見えなくなってしまうのだ。
「……姫君。その……お加減はよろしいのですか?」
 なんと声をかけていいのかわからないまま口にしたのは、凡庸な問いかけだった。
「はい、もう平気です」
 しかしそう答えるの声は羞恥で消え入りそうなものだった。目にもうっすら涙が浮かんでいる。
「き、昨日は失礼をいたしました。あの、わたし……まさか気づかれていたなんて思わなくて。不躾な真似を何度もして、あなたを不快にさせていただろうと思うと、恥ずかしくて恥ずかしくて……」
「いえ……そんなことは」
 ほかにどう言えばいいのだ、と誰にともなく助けを求めたいのを隠したまま、ハルディアは答える。
 この展開は、どう考えても、あれだ。
 は緊張が高まりつつあるようで、ふるふると小刻みに震えながらも一生懸命口を動かす。
「で、でも、あんな形で知られるなんて……。わたし、ずっと心に秘めているつもりだったんです。だって、わたし、まだあなたには釣り合わないんですもの。せめて大人になるまではって、思っていたんです」
「……それは」
 頼むからその先を言ってくれるな、とハルディアは天に祈った。だが己のことでいっぱいいっぱいな少女は、ハルディアの祈りに気づかない。いや、これを告げることことがけじめなのだと彼女は思っているのだろう。
 わかっているからこそ止められない。
「ハルディア、あなたがわたしのお祖母さまを愛していたことは知っています。その方に似ているわたしにこんなことを言われても困るだけでしょうけれど、でも、お願いです、聞いてください」
 そして冒頭の台詞になり、部屋には静寂が満ちた。
 庭から聞こえてくる小鳥のさえずりは謀ったかのように止み、心地よく窓から吹き込んでいたそよ風も途絶えた。
 世界にハルディアとしかいなくなったような錯覚。
 目の前にいるのが愛しい相手であったなら、これ以上ないほど幸福な時間だっただろう。だが、実際そこにいるのは、良く似た別人であり、その思いを受け入れるには色々と問題がありすぎた。
 受け入れれば特殊な趣味があるように思われても仕方がなく、断ればを泣かせてしまう。そもそも相手は若年なので、ハルディアにとっては恋愛の対象外なのだ。好きも嫌いもない。先のことはわからないにしてもだ。
 どうにかを傷つけずに今の発言をなかったことにできないかと、ハルディアは頭をひねる。しかしそんな都合の良い方法はまったく浮かばなかった。
 そうしている間にもは話を続ける。
「すぐにお返事をくださいとは言いません。わたし、いつまでも待っています。でも……でも、これだけは……」
 はくるぶし丈のスカートをきゅっと握る。傍目にも必死なのがよくわかり、また倒れてしまうのではないかと心配になった。
「わたしはお祖母さまの代わりでなく、わたし自身を愛してほしいんです。それにわたしはまだ子供だけど、いつかは大人になります。だから年齢のことも理由にしてほしくないんです」
「姫君」
 は目を伏せる。まつげが柔らかな丸みを帯びた頬に陰をつけた。
「注文ばかりつけて、ごめんなさい。でも、何も言わないままでいたら、もうあなたはこちらに来てくださらなくなると思って……。お願いです、ハルディア。わたしに時間をください」
 ぽつりと一粒、水滴が落ちた。
 どう回避しようか、どう言い繕おうかと思い悩んでいたハルディアは、それを見て腹をくくる。
 過去が、年齢が、と理由をつけていたが、それを盾にして少女の真剣な想いを軽んじていいことにはならない。なぜ自分がにこれほど好かれてしまったのか、理由はやはりわからないが、好かれているのは揺るがしようのない事実なのだ。
 そして気持ちに応えることができないのであれば、せめて正直に答えるのが、年長者としての自分の義務だと考える。
 ハルディアはの近くに歩み寄ると片膝をついて少女に視線を合わせた。それから胸に手を当てて頭を下げる。
 急な動きにははっとし、何が起きるのだろうかと肩に力を込めた。
姫。それほどまでにわたくしを好いてくださること、ありがたく存じます。そしてこのことで姫君のお心を痛めさせてしまったことを申し訳ないと」
「そんな、謝らないでください」
 ふるふると頭を振るを、ハルディアは顔をあげて見据える。少女は魅入られたように動きを止めた。
「私の過去をご存じのようですから、説明は不要でしょう。確かに私にはあなたの気持ちにすぐに応えられない理由があります。年齢のことが気になるということも、やはり大きい。ですが私も過去の光を手にしたいなどという、叶わぬ望みを抱いているわけではないのです。姫君は姫君。彼女は彼女。違う人物だということはわかっています。ただ――あまりにも似すぎている。だから私も時折わからなくなるのです。私はあなたを見ているのか、それとも……あなたを通して過去を見ているのかが」
「ハルディア……。やっぱり、そうなんですね」
 は力なく呟いた。望みが絶たれたと思ったのかもしれない。
 ハルディアは少女の片手を取った。はびくりと身体を振るわせる。
「時間が必要なのは、私も同じです。その間、姫君をひどく失望させてしまうこともあるかもしれない。それでも、よろしいでしょうか。このようなことを言えた義理ではないのですが、私が自分の気持ちに決着をつけるまで、待っていてくださいますか?」
 はハルディアに片手を預けたまま、小首を傾げた。
「それは、わたしはあなたを好きでいていいということでしょうか?」
「はい」
「また父様や母様がお茶会に招待した時には、来てくださる?」
「ええ」
「わたしともお話してくださる?」
「もちろんです」
 は泣き笑いのような顔になる。だがその目は幸せそうに光に満ちていた。
「待っています。それに、わたし、あなたにふさわしい素敵な女性になるように努力します。ハルディア、待っていてくださいね」
 希望を得て鮮やかに輝く少女の笑みに、ハルディアは胸を打ち抜かれた。だがこれは自分でなくともそうなっただろうと言い聞かせる。
 は恋の相手には早すぎる年齢だ。白鳥の乙女は見た目こそ幼げではあったが、出会った時にはすでにほぼ成人年齢に達していた。この差は大きい。
 自分には特殊な性癖はない。だからこの気持ちは、少女のいじらしさに感銘を受けただけだと言い聞かせる。
 そんなハルディアの葛藤に気づかず、ほんのりと頬を染めて、は目の前の男を見つめた。
「あの、さっそくですけど、お聞きしてもよろしいですか?」
「ええ、私に答えられることでしたら」
 ハルディアは何とか平静を装って頷く。
「好きな食べ物はなんですか?」
「……好きな食べ物、ですか?」
 何を聞かれるのかと思っていただけに、ハルディアは拍子抜けする。
「はい。あとは好きな色やお花や宝石や、あとは動物とか。よく行くお気に入りの場所ですとか……」
「……どうしてそのようなことを知りたいのでしょうか」
 他愛無いものばかりだが矢継ぎ早に繰り出された質問に、ハルディアは困惑する。質問の意味がわからなくてその真意を問うと、はもじもじしながら目を伏せた。
「どうしてって、好きな人のことを知りたいと思うのは当たり前じゃありませんか」
「そ、そうなのですか……」
 単純すぎるがゆえに思い浮かばなかったため、ハルディアはあっけに取られてしまった。
 は顔をあげると気を悪くしたように小さく頬を膨らませる。
「馬鹿馬鹿しいってお思いになっているの? ハルディアはお祖母様に恋した時に、お祖母様のことを知りたいって思わなかったのですか?」
 責めるように言われてハルディアは降参する。確かに自分にもそういう時があったのだ。に謝ると、彼女はすぐに許してくれた。
 そして歌では何が好きか、どの星が一番美しいと思うかなどという、ハルディアに関するちょっとした質問を幾つも受けるはめになったのである。
 それから聞きたいことがすべて聞けたと満足げなを部屋に送り、朝食も食べずに消えてしまった姫君を案じていた侍女に預けた。
 そして客室に戻って再び一人になると、ハルディアはこの先の苦難を思ってため息をついた。




 それからしばらくして、ハルディアはエルロヒアの部屋を訪ねた。彼は他の宿泊客数人と談笑していたので、ハルディアもそこに加わり、しばし過ごす。
 そして彼以外の客が退出したのを期に、ハルディアは仕事をするときのような真面目な顔つきに戻る。にこやかにしているのとそのうち頬の筋肉が痛くなるので、彼は長時間そうしているのが苦手なのだった。
「どうしたんだ。何か話がありそうだな」
 何もかもお見通しだという目でエルロヒアはハルディアを見やる。ハルディアは目を伏せたい気分になりながらも、ぐっと堪えた。
「ご報告の必要があるかと思いまして、参上いたしました。実は……姫に告白をされました」
 エルロヒアはぷっと吹き出すと、前かがみになって肩を揺らした。
「エルロヒア様……」
 いくらなんでもその態度はないだろうと、ハルディアは非難の目を向ける。身を起こしたエルロヒアは、まだ笑いながらも謝罪した。
「いや、済まない。あまりにも真面目な顔で言うものだから、つい……。だけども思い切ったものだな。てっきりあのまま恥ずかしがっているのかと心配していたんだよ。甘やかしているつもりはないけど、あの子はうちの家系にしては珍しい感じの内気さだからね。はにかみやでもあるし」
 そう言われたハルディアの脳裏には知る限りのの父方と母方の血縁者の顔が次々と浮かんだ。なるほど、確かにどれも意志がはっきりしており、誰かの後ろに立つよりは、率先して前に出るような面々ばかりだった。良くも悪くもアクが強いとも言える。
「でも行動力があるところは、やっぱりうちの子だな。そういうことか。これはお父様としては、協力してやらないとね」
「エルロヒア様……?」
 何かを企んでいるような含み笑いを浮かべたエルロヒアに、ハルディアは警戒をしだす。子供の頃から何度も彼ら兄弟が起こすいたずらに巻き込まれた経験があるので、こんな顔をしだした時には要注意だということは骨身に染みていた。
 エルロヒアはにっこりと笑う。
「実はさっき娘がきてね、明日みんなでピクニックに行きたいと頼まれたんだよ。馴染みの客人が来ているときには何かしら企画しているから、それもいいと思って承諾したんだけど。きっとあの子はハルディアと出かけたかったんだろうね。みんなって言うのはそう言っておけば勘ぐられないと思ったからだろうけど。まったく可愛いったらないよねぇ」
 でれっと頬を崩すエルロヒアはまさに親馬鹿という様子だった。何か言うべきかとハルディアが迷っているうちに、エルロヒアはさっさと話を進める。
「気をきかせてあげるから、を誘ってちょっと二人で散策くらいするんだよ。デートくらいは自由にさせてあげたいけど、あの子の年だと君の住んでいるところまで行かせるのは厳しいからね。いくら付き添いをつけるにしてもさ。だからハルディアがこっちに来ている時に時間を作ってあげないと」
 もっともらしく言うエルロヒアに、ハルディアは違和感を覚えた。前から何度か頭に浮かんだことはあるのだが、身分上の隔たりもあって、なかなか口にできないでいた。だがに告白されてしまった今はそのままにしているわけにはいかない。ハルディアは思い切って尋ねてみた。
「エルロヒア様。失礼なことを申し上げますが、姫君をだしに、わたくしで遊んでいらっしゃいませんか?」
「本当に失礼だな。僕は本気で娘の恋を応援しているんだよ。むしろ、娘を優先しているから君は今窮地に追い込まれているんだ」
 エルロヒアは威張って答えた。
 それを遊んでいるというのではないかと思ったが、それは言わないでおいた。親馬鹿を発揮しているのだと自覚しているならばそれはそれでいいと思ったからだ。長年貴人仕えをしていただけあって、その辺りの理不尽さには慣れている。
「それにしても、わたくしをあまり煽らないでいただきたいものです。取り返しのつかないことになったらどうなさるおつもりですか」
「ハルディアのことは信用しているし、第一君には危ない趣味はないだろう?」
「当たり前です!」
 ハルディアは力を込めて肯定した。そんな不名誉な噂が流れようものなら、マンドスの館に逃避したくなることだろう。
 ハルディアはため息をついた。名門中の名門の姫君に慕われ、その両親には反対されるどころか応援されている。普通ならば光栄に舞い上がりそうなものだが、ハルディアにはそんな気になれなかった。父親のことを幼少の頃から知っているせいかもしれないが、なにか作為が隠されているような気がしてならない。
「……せめて姫君があれほど彼女に似ていなければ」
 そうであれば、少なくとも迷いの一つは生じなかったはずだ。
 らちもない願いだと思いながらも口にすると、エルロヒアは眉をあげた。
「ハルディアの分別の高さは疑っていないけど、もしもをアルフィエルの代わりにしようなんてしたら、殴るからね」
 いつもにこやかなエルロヒアが真顔で言う。本気を悟り、ハルディアは頷いた。
「わかっております。わたくしも、そんなひどいことはしたくありません」
 エルロヒアは堅い口調で答えるハルディアを済まなそうに見やる。
「君の律儀さにつけ込んでいるのは、正直悪いと思ってる。でもこっちにも色々あってね……」
「どういうことです?」
 聞き返すハルディアに、エルロヒアは軽く頭を振った。
「そのうちわかると思う。君さえ覚悟をしてくれたなら僕もおおっぴらにハルディアを巻き込めるんだけど」
 これ以上何を、と思ったが、どうやら手加減してこれらしい。詳しいことを言う気はないようだが、もしかしてあれかとハルディアは思い返した。
 ハルディアとアマンで再会したときに、彼はこう言ったのだ。
は、エルフのすべての種族、マイア、エダイン、異世界の人間と、これ以上ないほどすべての血が入っているから……物珍しさだけでちょっかいをだしてくるような男にはやりたくない』と。
 あれは、将来のことを慮ってのことではなく、もしやすでに起きていることなのではないだろうか。
 だが確かめることはハルディアにはできなかった。知ったところでハルディアには何もできない。そう、それこそに関わるすべての事柄を受け入れる覚悟がない限りは。
 エルロヒアは普段と変わらぬ美しい微笑みを浮かべた。
「ピクニックのことは夕食の時にみんなに伝えるよ。参加は自由だけど、できればハルディアには参加してほしいな」
 しばし逡巡したあと、ハルディアは要請を受けた。エルロヒアは相変わらず美しい笑みを浮かべていたが、そこに安堵の色が混じっていたように見えたのは、自分の気のせいだろうかとハルディアは思った。




そういてば白鳥本編でハルディアの髪の色を金髪だと書いていましたが(どう考えても映画版の影響だ…)ハルディアはシルヴァンエルフなので銀髪の可能性の方が高いよな、と今更気付きました。
前後の文章の流れとかも考え直さないといけないのですぐには無理ですが、そのうち本編の方を書き換えますので、それまでスルーでお願いします(汗)



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