ピクニックから戻って三日が過ぎた。
 一部の客人たちは辞去をし、館は少し静けさを取り戻している。
 帰宅した者の中にはホビットの三人も混じっていたのだが、小さいながら賑やかな彼らがいなくなると一気に寂しくなった。
 だがハルディアはまだ滞在している。このような時、いつものならば何かと理由をつけて近くにいられるように努めていたのだが、今は気が引けて顔を合わせることすらできないほどだった。
 ピクニックで漏れ聞いた会話がの行動に待ったをかける。
 自分が近づけばハルディアは体のいい見せ物となってしまうのだ。気分の良いものではないだろう。ハルディア自身は気にかけている素振りは見せないものの、それを鵜呑みにするわけにはいかなかった。
 二人の立場は対等ではない。
 の気持ちや行動が重荷であっても、ハルディアには表に出せないのだ。
「姫様、本日もすべてのご予定を取り消されるのでしょうか」
 侍女が落ち着いた声音で尋ねてくる。淡々とした調子ではあるものの、急に様子の変わった主を案じているようだった。目の奥が心配げに揺れている。
 は頷くことで答えを返すと、ふいと窓に顔を向けた。 
 湖から戻って以来、彼女は自分の部屋に閉じこもって時が過ぎるままに任せている。改めて考える時間ができると、己がしてきたことがひどく滑稽に思えてたまらなかった。
 一人で浮かれて、周りを巻き込んで、好きな人には迷惑をかけた。恥ずかしくて消えてしまいたい。
 時を戻せるのならば戻したい。気持ちが知られる前に、ハルディアへの思いが恋になる前に。いや、いっそのこと、ハルディアと出会う前に戻れたら、こんな苦しく居たたまれない気持ちにはならなかっただろうか。
(出会う前に戻れたら……)
 だがそれを想像しただけでは悲しくて胸が潰れそうになった。自然と涙があふれてきて頬を伝っていく。
「姫様……?」
 侍女はそんなに気づいて一瞬目を見張った。どうかしたのかと聞いてくる彼女に、放っておいてくれと返す。物心ついた時からそばにいる侍女を煩わしく思ったのは、これが初めてのことだった。
 侍女はしばし逡巡していたものの、足音をしのばせて立ち去る。それからほどなくして戻ってくると、の近くに小さな銀のトレイに乗せたハンカチを置き、またそっと下がっていった。
 その後は時折部屋を訪れては両親の側仕えが持ってくる伝言をすべて断って引きこもり続けた。庭への誘いや客人の皆を交えての茶会へ出ないのかと言われても、気分が優れないという言い訳で流した。もともと一人前でないは、茶会でも宴でもおまけみたいな存在であって、いてもいなくても差し障りはないのだった。だから断っても再度要請されるようなこともない。そして食事も部屋に届けてもらうようにすれば、一日中、誰にも会わないで済む。――ハルディアにさえも。
 まとわりつかれていた相手から解放されて、ハルディアはきっと安心したことだろう。エルロヒアの娘だから邪険にできなくて、どれだけ困っていただろうか。
 彼に会えないのは辛かった。だがここは我慢して自分を抑えなければ、いつか必ずハルディアに嫌われてしまう日がきてしまう。そんな危機感がにはあった。迷惑がられてはいても、まだ嫌われてはいないと思いたかった。
 時が過ぎ、アノールが大きく傾く。眩しくなってきたので直接光が当たらないところへ席を移動させようと立ち上がった時、静かに部屋の扉が開いた。
 また誰かからの伝言を携えてきたのだろう、顔なじみの使用人が部屋の入り口付近で待機をしていた侍女にそっと耳打ちをする。
 侍女は了解したというように頷くと、音を立てずに立ち上がり、の側へ歩み寄ってきた。
「姫様、ハルディア殿から庭へいらっしゃらないかというお誘いをいただきましたが、いかがいたしましょうか」
「ハルディアが?」
 弾かれたようには顔をあげた。思わず頬が熱くなる。ハルディアからどこかへ誘われたのは初めてのことだった。自分が部屋に閉じこもったことを気にかけてくれたのだろうか。
(でも……)
 は迷った。それは本当にハルディアの意志なのかと。言葉も態度もすべて額面通りに受け取ってはならないということを、はあのピクニックの夜に学んだのだ。
 は承諾したくて暴れる己が心臓をなだめ、決然とまなじりを上げた。
「お誘い、ありがとう存じます。ですが気分が優れないので庭へ出ることはできそうにありませんと伝えてちょうだい」
「それで……よろしいのですか、姫様」
 喜び勇んで承諾すると思っていたのだろう、珍しく呆気にとられたような表情を浮かべて侍女は聞き返す。は決心が鈍らないようにと、力一杯頷いた。
「ええ、いいのよ」
「承知いたしました」
 どこか納得がいかない様子ではあったが、侍女は余計な追求はせずに立ち去った。それから使用人がいなくなると、はその場にしゃがみ込む。
 ハルディアに不本意なことをさせたくない。だけど彼の誘いに乗りたいと思う自分もいる。それに口には出せないが他にも引っかかることがあった。誤解であろうとなかろうと、これは言ってしまったら相手を失望させてしまうだろう。
(どうしてこんなことになったのかしら)
 はため息をついた。
(どうしたらいいのかしら……)


 一晩中悩んだは、フロドのところへ行きたいと父に談判した。部屋に閉じこもっていた娘が急にこんなことを言い出したのだ、エルロヒアもロスマリエンも驚き戸惑ったが、の熱心さに折れる形で承諾する。
 フロドたちホビットはエルロヒアたち裂け谷から移住してきたエルフが作った都の外れで静かに暮らしていた。館からの距離もさほどではないこともあって、許可がでたのだろうとは思ったが、しばしでも家から離れられるのであれば両親の思惑は今は考えないことにした。
 フロドたちの家に馬車で到着すると、は侍女も含めてすべて帰らせようとする。当然自分は残るものだと考えていたらしい侍女と口論になり、その話し声で何事かとフロドが家から出てきた。
「ごめんなさい」
 中へ通され、香りの良いお茶を出されたはしおらしく頭を下げる。
「気にしないで、。急だったからびっくりしたけど」
 フロドはにこりと笑う。事情がわからないなりに、侍女を帰した方がが落ち着くと踏んだらしく、彼は丁寧に侍女に言い含めて帰らせたのだ。侍女は夕方になったら迎えに来ると言って、渋々とだか戻っていった。
「それで、どうしたんだい?」
 すっかり話を聞く体勢になっているフロドに、は罪悪感を覚えた。
 こうしてもらえるのも、やはり自分がエルロヒアの娘だからではないだろうか。ただのだったら、彼はこうも親身になってくれただろうか。
 だがこんな風に自分に向けられる厚意をすべて疑っていたらきりがない。相手にだって失礼だろう。だがどれが礼儀的なものであり、どれが本心からなのか、には見分けられそうになかった。
 すっかり混乱した少女はとっさに俯く。涙が出そうになったのだが、ここで泣かれてもフロドが困るだけだろう。必死で耐え、どうにかして涙を引っ込めることに成功した。
「急に押し掛けてごめんなさい」
「それはもういいよ」
「話を聞いてほしかったの。でもわたしには父様や母様から紹介されたような相手しか知っている人はいなくて。フロドたちもそうだけど、でも他の人よりは身分によるしがらみが薄いでしょう。だから……」
「ああ、それで、侍女にも言えなかったんだね」
 納得顔でフロドは頷く。
「うん。きっと必要だと判断したら、わたしが内緒ねって言っても、父様や母様に話してしまうと思う。だって、それが彼女の仕事なんだもの」
 の世話をしているが、自分の侍女であれと命じたのはあくまでも両親だ。侍女の雇い主は父であって、ではない。
「ねえ、フロド。これから話すことは、父様にも母様にも言わないでくれる? 無理ならいいの。そう言って。それからしばらくの間、こちらに通わせてほしいの。その……父のお茶会が終わるまで」
 はお願いしますと、頭を下げた。フロドはふむと考え込むと、思慮深い目をあげてを見返した。
「口外してほしくないことなら話さないよ。約束する。だけどいいのかい?」
「え?」
「だって、ハルディアはまだそちらに滞在しているんだろう。彼を放っておいてこっちに来てもいいの?」
 はびくりと肩を強ばらせた。そう、フロドたちホビットには、の思いが公にされてしまったあの場面を見られていたのだ。
 思い出すとその時の感覚が蘇り、首筋が火照ってくる。
 は再びあふれそうになってきた涙をこらえて懇願した。
「そのことは言わないで。あれはわたしにとってはなかったことにしてしまいたいひどい出来事なのよ」
「そうなの?」
 フロドは不思議そうに聞き返した。
「ええ、そうよ。だってわたしはまだそのことを知られたくなかったんだもの。傍から見ていてわかりやすかったみたいだけど……。わたしとしてはそっとしておいてほしかったの」
「ということは、ロスマリエン殿は余計なことを言ってしまったと」
 は酸っぱいものを食べた時のように唇をすぼめた。
「母様のことを悪く言いたくはないけれど、その通りよ」
 それからは胸にわだかまっていたことをすべて打ち明けた。
 思いを知られてしまったことでハルディアに避けられるのではないかと思ってしまったこと。だがハルディアが予想外に優しい対応をしてくれたので、望みがあるのではないかと舞い上がってしまったこと。
 そして積極的な行動こそが望みを叶える最善の道だと信じて動いたが、それが他のエルフたちの好奇心を刺激してしまい、ハルディアは彼らの観察対象にされてしまったこと。
 そしてハルディアの優しさも、の両親の体面を慮ってのことではないかという疑い。
 それからもう一つ。
「もしかしたら、父様はハルディアを困らせて楽しんでいるんじゃないかと思っているの」
 父が自分の提案したピクニックにすぐに応じてくれたのも、ハルディアとに二人きりになる時間を作ってくれたのも、自分の恋を応援してくれているからだと思っていた。
 ハルディアは父の目に適っている。だからあとは自分がハルディアに気に入られればそれで済むのだと考えていた。
 しかしよく考えてみたら、父がハルディアに絡むのはそれが最初ではなかった。ほんの数回だが、茶会や宴でハルディアと席が隣同士になったり、ちょっとした事を二人でやるように頼まれたりしたことがある。それはすべてエルロヒアが言い出したことで実現したことなのだ。彼が館の主であることを考えればこれくらいのことは偶然かもしれないが、しかしハルディアとは幼少時からつき合いがあると言っていたわりには少し前に再会するまで――そしてそれはとハルディアが出会った日でもあったが――音信不通だったようだ。昔馴染みならば、遠くに離れていてもなんらかのやりとりくらいはしていそうなものだが。
 だから、もしかしたら、エルロヒアは昔馴染みが年端も行かない自分の娘に恋されてあたあふたしているのを楽しんでいるのではないかと思えてきたのだ。そうなると父のハルディアに対する評価がどうなっているかも考え直さなければなるまい。
 そして母がこの件にどう絡んでいるのかも再考しなければなるまいとは思っていた。なにしろの秘めた恋心を暴露したのはロスマリエンなのだから。
 だが両親と恋する相手の三人を疑うのはには気力のいることだった。本当のところはどうなのだと問いつめるなどできそうにない。肯定されたら自分はどうなってしまうのか、想像したくもなかった。
 信じていたものが信じられなくなりそうで、だけど信じたくて。それにこんな葛藤を続けていたら聡い周囲の者に気づかれそうで、こうしてフロドのところへ逃げてきた。情けないが平常心を保ったまま、両親や客人、それにハルディアの前に出ることはできそうにない。
 打ち明け話を聞き終わったフロドは複雑な表情を浮かべて苦笑する。
「エルロヒア殿は確かにひとを振り回すようなことをするところがあるけれど、相手が本当に嫌がることはしない方だと僕は思っているよ」
「そうだと思っているけれど……」
 はため息をつく。フロドの答えはがほしいものだった。だが彼は心からそう思って言っているのだろうか、を慰めるために、が答えてほしいことを言っただけなのではないだろうか。
「それに話を聞いていて思ったけれど、エルロヒア殿もロスマリエン殿も、によかれと思ってやったんじゃないかな。親というのはそういうことをしてしまうものだというよ。当人にとってはちょっと見当はずれだったりすることもあるけれど」
「そうだといいんだけど……」
 どうしたらそれを判断できるだろうか。それができないのは自分が世間知らずの故なのだろうか。は再びため息をつく。どう言葉をかけたものか迷っているらしく、フロドも沈黙した。
(わたし、嫌な子になってる……)
 言ってほしいことを言ってもらったのに、それを信じることができない。フロドもきっとそんなの本心に気付いているのだろうと思うと、恥ずかしくなった。
 そこへノックの音が響く。
「今日はずいぶんお客さんが来る日だな」
 ちょっと失礼するよと言って、フロドは立ち上がる。
 ホビットの家の特色だという丸いドアを開けると、フロドは上を見上げた。彼にとって訪れる客人は、全員彼よりも背が高いので、癖になっているのだ。
「やあ、あなたでしたか、ファラウレ」
 ドアの隙間から声が聞こえる。
「お久しぶりです、フロドさん。近くまで来たので、不躾ながら訪問させていただきました。よろしければ、この間の話の続きがしたいのですが」
 訪問客は丁寧な口調で挨拶をしてくる。フロドの身体に遮られて相手の様子は見えないが、名前と声で誰だかわかった。途端、の頭からさっと血の気が引く。
(なんでフロドのところに来るの……?)
 フロドは本人が望んでいるかどうかは別として、指輪戦争の功労者としてアマンでは広く知られている。しかし自分は隠居者だからと派手な交流はせず、中つ国での知り合いを中心にのんびりとした付き合いをしているようだった。
 だから彼がドアのすぐ外にいる人物と顔見知りであること自体、には驚きだった。男の口振りからはかなり親しそうであると窺えることも。
 とはいえフロドの交友関係にが口を出す筋合いはないことはわかっている。しかしはこの男――ファラウレ――が苦手なのだ。
 どうしよう、と心の中で焦っていると、フロドは困ったように言う。
「そうでしたか。連絡をいただいていたら時間を開けていたのですが、生憎先客がいるんです」
「先客? どなたでしょう。僕も知っている相手でしょうか」
 フロドは小首を傾げる。
「どうでしょう。お知り合いだとしても不思議はないですけど」
 フロドはちらりとに視線を向ける。その目は入れてもいいのだろうかと問うようであった。
 はとっさに首を振ろうとした。だがそれより先に「失礼」と声をかけて、ファラウレがドアの隙間から中をのぞき込む。ホビットサイズのドアはエルフには小さく、かなり背中を曲げなければならないため、から見えたその顔はほとんど横になっていた。金色の髪がふわりと頬にかかる。
!」
 横向きの――そして目から鼻の辺りまでしか見えない――顔は一気に喜びに輝いた。
、君に会えるなんて思っていなかったよ。こっちへ来たらなんだかいいことがありそうだと感じていたんだけど、このことだったんだね。嬉しいよ」
 ファラウレの喜びようにフロドはやはり知り合い同士だったのだと納得したらしい。それなら通しても問題ないと判断したようで、フロドはファラウレを中へ招いた。
「こ、こんにちは、ファラウレ。知らなかったわ。あなたがフロドと親交があったなんて」
 各所につながりのある家の娘であれば、愛想笑いは処世術の一つであると知らず知らずに叩き込まれているため、は半ば意識的に頬を笑みの形に持ち上げる。ファラウレも目を細めて優雅に微笑んだ。
「うん。だけど最近のことなんだよ。フロドさんの書いた本を読んでとても興味を持ったので何度か手紙のやりとりをしたんだ。それから訪問の許可をいただいてね。こちらに窺ったのは今回で二度目だよ」
「本にはあまり細かく書きすぎると冗長になってしまうから端折ってしまったところがたくさんあるのだけど、彼はそういうところが知りたいようなんだ。思いも寄らないことを聞かれて、いい刺激をもらっているよ。別冊でまとめてみようかと検討もしているくらいにね」
 フロドが付け加える。ファラウレはフロドに視線を向けて楽しげに笑った。
「だって、気になるじゃないですか。どうも僕の質問は見当外れの的外れのようなのだけど、僕はかの国を知らないのでそれは仕方がないことだと思う。けれどそれがフロドさんに良い影響を与えているなら、的外れも悪くないかなと思うよ」
 も中つ国は知らないが、両親が共に中つ国の出まれなので、疑問には答えてもらえる。ファラウレは逆に両親も近しい親族にも中つ国のことを知る者がいないのだった。
 それからファラウレはに色味の薄い灰色の目を向けた。
「だから今日も色々聞かせていただこうと思ってこちらに伺ったんだ。それにしてもついているな。ね、。帰る時には僕が送るから、そのまま君の屋敷に寄っても構わないかな。エルロヒア殿のご予定はどうなっているんだろう」
「父は恒例の内輪のお茶会を開催なさっているの。まだ滞在しているお客様もいらっしゃるわ。だから訪問は遠慮してくださらないかしら。まさかあなたも招かれていない会合に闖入するようなことはなさらないでしょう?」
 は張り付けた笑顔で答えた。頭の中で危険だと信号が鳴る。まだハルディアがいる自宅にファラウレが訪れたらどんなことになってしまうのだろう。湖で聞いた話がすぐに思い出され、はなにがあってもそれだけは回避しなければと決意した。
 ファラウレは不服そうに表情を歪ませる。
、そのお茶会、僕は一度も招待されたことはないんだけど、どうして? 僕には資格があると思うんだけど」
「父様のお茶会に参加できるのは大人だけなのよ。わたしは娘だから混ぜてもらっているけれど」
「僕だって大人だよ」
 むっとしたようにファラウレは言い返す。
「まだ子供でしょう。成人の儀を済ませていないもの」
「でも、もうすぐだ」
「だから、まだ一人前ではないってことでしょう」
 が事実を指摘すると、さすがに言い返すことができなくなったようで、ファラウレは口をつぐんだ。それから恨めしげにフロドを見やる。
「フロドさんもお茶会に行ったんですか?」
 フロドは穏やかに答える。
「ええ。つい先日、帰宅したばかりです。私はエルフたちより体力がないので、最後まで参加することはあまりないんですよ」
 ファラウレは間髪を入れずに問う。
「フロドさん、あなたととでエルロヒア殿にお願いしたら、参加の許可を頂けると思いますか? これまで機会があるごとに何度か頼んではいるんですが、笑って流されるばかりなんです。あの方は将来の息子を一体どうするおつもりなんでしょう。まったくつかめない方で、困っています」
 フロドは目を丸くした。
「将来の息子?」
 ファラウレは至極真面目な顔で頷く。
「ええ。僕はと結婚するんですから」
 フロドは先ほどの表情のまま、に顔を向ける。どういうことだと思っていることは心話ができない相手であってもちゃんと伝わってきた。
 は膝の上に載せた手をぎゅっと握った。一緒にスカートの布地も掴んでしまったので、皺が寄ってしまう。
「ファラウレ、わたしは承知していないと言っているでしょう」
「うん。だけど君はまだ小さい女の子だから、恋や愛というものがわからないんだよ。でも僕の予感は君が僕の相手だと告げている。だからそのうち君は僕を好きになるんだよ」
 身分も釣り合っているし、何も問題はないと彼は続けた。
 はかちんとして言い返す。恋も愛もわからないなどと、好き勝手に言われるのは我慢ならなかった。
「そんなことにはならないわ。だってわたしの予感はあなたはわたしの相手ではないと告げているもの」
 だがファラウレは物わかりが悪い相手を哀れむような目でを見る。そしてそういうことにしてあげようと言いながらの頭をなでた。
 フロドは額に汗を浮かべて、二人を見つめる。
 きっとファラウレのこういう性格を知らなかったのだろう。なにしろ会ったのは二度目だというのだから、無理もない。ファラウレは基本的に目上と判断した相手には愛想良く従順に振る舞うのだ。そして目下と判断した相手には逆の対応をとる。悪意や計算があってのことではなく、彼にとってはそれが自然なのだ。自分が価値を認めたものだけが素晴らしいものだと思っている。
(要するに、世間知らずなのよ。ご両親がヴァンヤールとテレリの有力な家系の出だから、自分も自動的に素晴らしい人物になれるのだと思っているのよね。生まれが良いのと人柄が立派なのは別の問題なのに)
 自分は生まれに見合うだけの女性になれるように努力しているのに、成果がでているのかどうか自信が持てないでいる。滑稽な振る舞いをしてしまったと後になって気づくなどざらだ。ファラウレにはきっとそんなことはないのだろう。いつだって自信満々なのだから。
 そんなはファラウレに会う度にこうはならないようにしようといつも思う。
 それからできるだけ早くファラウレと別れたいと思ったが、侍女を帰してしまったので、彼が立ち去る気にならなければそれは無理なのだということに気づいて愕然とした。
 こんなことならば勢いで侍女を帰すのではなかったと後悔する。しかし今更どうしようもなかった。きっとこのまま日暮れまで彼の話につきあわされることになるのだろう――フロドがファラウレを追い返すとはとても思えないからだ。
 ハルディアに会える時間を減らした先に待っていたのが苦手とする相手と過ごすことだなんて。
 踏んだり蹴ったりとはこのことだ、とは内心でため息をついたのだった。





オリキャラ登場…。
いや、リク内容にハルディアと白鳥ヒロインのやり取りの再現ということが書いてあったんですが(久しぶりにリク内容読みかえしてみたら、相当違った流れになっていた……。リク主さんスミマセン……/汗)どうせならレゴラス役にはレゴっぽい(けれどハルディアが好きな今回のヒロインにとっては、付きまとわれてもあまり嬉しくない感じの性格の)金髪のエルフの方がいいかなと思ったもので。

……色々捏造しまくってるなー、私。

ちなみにファラウレの名前は falma + laurë でfalaurë ということにしましたけど、こういう語の混ぜ方はアリなのかどうかはよくわかりません……。



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