緑の毒 : あとがき
遅々として話が進まない上に甘さの欠片もない展開で本当に申し訳ないです。
とりあえず、伏線は一つ消化できたかと。
長かったなー。ローハン物語は白鳥の半分で終わるだろうと踏んでましたが、全く無理っぽいですね。
さて、セオデンの不調の原因。
こうなったのは、そもそも終わらざりし物語にこんな記述があったところから生まれました。
「(セオデンの)病の原因は自然なものであったかもしれないが、ロヒアリムは八十年かそれ以上は生きるのが普通である。グリーマが遅効性の毒を与え、病を誘発するか悪化させたことは充分ありうる」(下巻123頁)
これを読んで、毒物の使用はありなのだと思いました。話的にもその方が盛り上がりそうだし、とか思って、今度は何を使おうかと考えました。
当初は指輪物語に出てくる有毒のものを、と思いました。
んなもんあるのかとお思いでしょうが、少なくとも3種類はあります。
ホビットの女性の名前には宝石の名前や植物の名前をつけるケースが多いのですが、その中でもベラドンナ(ビルボの母)とロベリア(ビルボと仲の悪いサックビル=バギンズ夫妻の奥さん)は有毒植物です。それからもう一つ。ホビットたちが嗜んでいるパイプ草。
これは原作の序章にしっかりと「ニコチアナの一種だと思われる」と書かれています。ニコチアナで調べてみたら「花タバコ」とか出てきまして、まあやっぱりニコチンが含まれていると考えていいでしょう。これはローハンでも生えていそうですし(なにしろ元はゴンドールに生えていたのがホビット庄まで北上したものですから)、薬効(があるかどうかは知りませんが)も有毒性も知られていなさそうなので、使うには非常によさそうだと思いました。
が、原作の第二部と第三部でのセオデンとメリーのやりとりを考えるに、パイプ草を使ってしまうと、のちのちメリーを出した時に泣かせてしまうだろうなーと。
いくらフィクションとはいえ、そんな心臓に悪いことをする度胸は私にはないです。
と、いうわけでパイプ草は却下。
しかしベラドンナもロベリアも慢性中毒にさせるには扱いが難しそう…。
じゃ、他にないかということで、探していたら、ローハン夢の資料にしようとかはまったく考えていなかった本にこんなことが書かれていました。
「(ナイチンゲールの『看護覚え書き』の要約として)換気と清潔を説く彼女は、さらに表面加工を施していない壁紙の塗料が分解し、空気中に有害物質を排出する危険についても警告している。とりわけ緑の色素には砒素が含まれていたので、きわめて有害であった。59パーセントもの砒酸を含む壁紙もあったという。」(岩田託子「英国レディになる方法」)
『緑』色。
ローハンの象徴の色です。
それに、ネットで調べただけですが、どうやら人工合成でない緑の顔料というものは、毒性のあるものがほとんどのようで、それならシェーレ・グリーンでなくても緑色の顔料使ってしまったら中毒を起こしてしまうだろうなと。
決定。
念のため、布地を染めるものは何を使っているのかと思い調べましたら(顔料で中毒起こすなら、染料でも同じこと起こるのかも、と思ったんです)、布を緑に染めるには、基本的には「青+黄色」の二度染めらしいです。
綺麗な緑色になる天然染料というのがほとんどないそうで。
とまあ、こんなふうに知ったかぶって書いてますが、作中のセオドレドの(というかロヒアリムたちの)失敗は全然笑えないです。
最近にも特に問題のないとされていた建築素材が実は有害だったというニュースがありましたし、シックハウス症候群は耳に珍しくもなくなった病名です。
決して人事ではないのです。
などと大げさに締めくくってみて、次回は少しヒロインと若様の間を進展させたいなあと思いつつ。
続く。
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