衣通姫 :日本神話
「そとおりひめ」もしくは「そとおしひめ」と読みます。古事記では允恭天皇(いんぎょうてんのう)の皇女である軽大郎女(かるのおおいらつめ)の美称としての呼び名として、日本書紀では允恭皇后の妹である弟姫(おとひめ)の美称として使われています。正確には衣通王(そとおしのおおきみ)とか衣通郎女(そとおりのいらつめ)衣通郎姫(そとおしのいらつめ)とか言うみたいですけど、わたしがこの言葉を知ったのは氷室冴子原作マンガの「ざ・ちぇんじ」でして、このなかで「そとおりひめ」って言い方をしてたからこの呼び方が定着してしまいました。
名前の由来が、美しい肌の色つやが衣を通して輝いているから、だそうです。
この解説を書くために、念のためチェックした「口語訳 古事記 完全版」(三浦佑之 著)の脚注にこんなことが書いてあったので加えてご紹介します。
キナシノカルとカルノオホイラツメという名前は、地名として考えられるカル(軽)という言葉を共有しており、同母の兄妹らしい呼び名である。それに対して、ソトホシという名前は、キナシノカルとは対を構成せず、おそらく物語的な呼称とみるべきだろう。まさに、肉体の美しさが衣を通すほどの魅惑的な女性であったことを、この名前は示している。そして、そうした衣を通す美しさというのは、たとえば、白い衣を身につけた巫女が禊ぎをして水に濡れた、その衣を通して浮かび上がるエロチシズムがイメージとしてあるのではないか。
このような例を出すのは、古代にもいくつか伝えのある天女伝承(昔話「天人女房」の原型)において、水浴びしている天女の姿を盗み見した男が、そのあまりの美しさに心を奪われ、天女が脱いでおいた「天の羽衣(天空を飛ぶための衣)」を、連れていた犬に盗ませて隠し、天に帰れなくなった天女を妻にするといった伝承(丹後国風土記逸文・伊香小江)が語られているからである。「衣通」という名前は、そうしたエロチックなイメージを抱え込んだ名前なのである。(290頁 脚注(27)より)
ここまで考えてたわけじゃないけど、ヒロイン嬢の禊シーンはそのまんまって感じがしますなあ。もっとも、春日もヒロイン嬢に白鳥ローブを持たせた時点で上記の「天人女房」説話はかなり意識しましたので元から繋がるところはあったんでしょうが。あ、だから連載タイトルが、特殊な力を持っているけど人間だから「天女」ではないにもかかわらず「白鳥天女」って言うんですよ。彼女がとにかく帰りたがるのも、レゴラスになかなかなびかないのも、「和解と約束」においてのハルディアのせりふ「ならばその衣を奪うまでだ」ってのも全部そこからきているんです。天人女房説話はハッピーエンドで終わるバージョンもあるのだけど、ほとんどは天女が天の羽衣もしくは白鳥の衣を見つけて子どもがいてもおかまいなしに天に帰ってしまうという終わり方なので、この辺絡めれば悲壮感のひとつもでるかなーというアサハカナ目論見があってかなり意図的に使ってます。
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