玉の緒の くくり寄せつつ 末つひに 行きは別れず 同じ緒にあらむ :和歌
「万葉集」巻十一より。訳は作中に書いたので省略します。「玉の緒」というのはいわゆるビーズとそれを通すテグスのこと。玉は魂とおなじ「タマ」という音なので「玉をつなぐ紐」と「魂をつなぐ」と言う意味が掛かっている…んだと思います。万葉の時代に玉と魂が掛詞として成立しているのかどうかよくわかんないんですけど。あ、内容としては恋歌なんですが、ヒロインはそこまでの意味は込めていません。
シンダールの歌 :種族的特性 (シルマリルの物語)
エルフの種族ってのが、またややこしいのですが、大きく分けて三種族あります。金髪のヴァンヤール、黒髪のノルドール、銀髪のテレリです。「エルフが西に渡る」と言う表現が指輪物語でも散見していますが、エルフというのは、中つ国の生まれなのですが、ヴァラールの恩寵によってアマンという至福の国に行けるんです。そこにはヴァラールやマイアールもいます。昔、ヴァラールがエルフたちにそのことを伝え、エルフは西に向かって大移動しましたが、見たこともない至福の国よりも広い中つ国と星明り(この頃はまだ太陽も月もなかった)を愛して西に行くのを拒んだものもいました。その分け方でいうと西に行ったのはエルダール、行かなかったものはアヴァリといいます。この「アヴァリ」は西にさえ行けばヴァンヤールやノルドール、テレリと呼ばれたんだろうと思いますが、西に行かなかったために一緒くたに「アヴァリ」と呼ばれているんだと思います。
ヴァンヤールとノルドールは無事西に渡ったのですが、テレリ族は人数が多かったり、王のシンゴルが行方不明になったりしたこともあって西に行くのが遅れました(シンゴルが行方不明中になにしてたかというと、マイアのメリアンに惚れて何十年だかずっと立ちっぱなしだったんです)。その間、わき道にそれたり、森や海辺に定住してしまった者がいたりとテレリはかなり分散しまいました。
シンゴルがテレリ族の王、と書きましたが、シンゴルが行方不明でなかなかみつからなかったので、弟のオルウェがテレリの王となって西に渡ったんだそうです。そういうわけで正式なテレリ族はオルウェら、西に渡ったものだけです。
シンダールというのは、このシンゴルの民のことをいいます。彼らは王妃メリアンの教えを受けて、中つ国に留まったエルフの中では最も優れたエルフになりました。レゴラスの父であるスランドゥイル、ロスロリアンのケレボルンなどがシンダールです。レゴラス自身もシンダールに数えられるのだとは思いますが、母親がシンダールなのかそれ以外なのかまるでわからないので純血シンダールかどうかは微妙。育ち方は思いっきりシルヴァンエルフのようですが。
さて、本題のシンダールの歌についてですが、各種族にはそれぞれ特性があるのですが、テレリ族の特性というのは「歌が上手い」ということです。彼らは自分たちのことをリンダール「歌い手」と呼んだりしていました。テレリから派生したシンダールも同じ特性を持っています。
トールキンの世界では、歌は物理的に力を持っています。世界を創造したのも音楽の力ですし、ガラドリエルの兄であるフィンロドやシンゴルの娘であるルシアンはメルコールと歌で戦ったりしています。古今和歌集の序にあるように「天地を動かし、鬼神を感ぜしめ、人倫を化し、夫婦を和らぐること、和歌より宜しきはなし」という感じでしょうか。ちょっと違うかな?
そんなシンダールですから「眠れ〜」という内容の歌を歌われたら、多分人間ならひとたまりもなく眠り込んでしまうのだろうなあというところから作中のような表現をとったのです。
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