婚約をしてから二ヶ月が経ったが、私たちは現在喧嘩をしている。

     いや、喧嘩というよりも、ジュディが一方的に怒っていて、口を聞いてくれないのだ。

     私が何をしたというんだ。私が言ったことなど、男として、婚約者として当然のことだろうに。

     だが実際あの子は腹を立てていて、ホテルを訪ねても中に入れてくれないし、電話も取らない。

     かろうじて手紙は受け取ってくれているようだが、返事はなしだ。

     あの子も頑固だからな、当分この状態が続くだろう。

     

     ……と。これでは後日読み返したときに何があったのかさっぱりわからないな。

     日記を読み返すことなどほとんどないが、本人が読んでもわからないものなど書く意味がない。

     わざわざ記録に残すのもしゃくだが、順を追って記してゆこう。

     

     先日、パーティに呼ばれたので、ジュディを同伴してでかけたのだ。

     このパーティは賑やかなことが好きなロジャーズ氏が主催したもので、若手の実業家から芸術家まで幅広く

    招待客を募っていた。生まれながらの貴族で、財産がある身内だけで集まるような、辛気臭いパーティとは

    違い、これならジュディでも気兼ねなく楽しむことができるだろうと思って。まあ、つまりはなんだ、私も、ペン

    デルトン家の家長として、未来の妻を親族の集いの全く出さないでいることはできないわけで、その集いが

    ここのところ連続してあったのだ。誘いを拒否できない理由でのパーティが頻繁にあったのが、ジュディに対する

    意地悪だということくらい、私も彼女もよくわかっている。

    まったく、うちの親族ときたら、なんて根の暗い連中ばかりなんだ!

     それで、ロジャーズ氏のパーティは申し分のないものだった。初めのうちは。

     私たちは当初一緒に行動をしていたのだが、そこで数年間会わなかった友人に再会し、お互い積もる話も

    あったので少し場所を移して話そうということになった。とはいえ私はジュディを連れていたので、一人にはで

    きない。彼女が一緒でも私は構わないのだけれど、彼女にとっては詰まらないだろうし、私は煙草も吸いたかっ

    たので彼の同伴者を紹介してもらって、女性同士でしばらく過ごしてもらおうと思った。
     話し込むこと、二時間くらい。

     戻ってみると、賑やかさが最高潮に達しており、テンポの速い音楽が流れ、大勢がダンスをしていた。

     この人いきれの中からジュディを探すのは大変だな、と思っていたところ、目の端に見慣れた色のドレス

    が見えた。

     見間違いなどではなく、それがジュディだった。

     私の知らない男と、楽しげに踊っていたのだ。

     これに無関心でいられる婚約者がいるのなら、お目にかかりたいものだ。

     私はすぐさまジュディに近付き、もう帰ることを告げた。私のいない間にジュディの相手をしてくれた男にも

    ちゃんと礼を言ってだ。私は礼儀知らずではないからな。

     ジュディも男も目を白黒させていたようだったが、とにかく彼女の手を引いて会場を後にした。

     そして帰りの車の中で、こんこんと彼女に言い聞かせた。

     婚約中の女性が軽々しい振る舞いをしてはいけないとかなんとか、まあそういうことだ。

     これに対してジュディは、しつこく誘われて断れなかったのだと言った。嫌々ながらにしては随分楽しそうだった

    じゃないかという言葉はあえて飲み込んだ。私は喧嘩がしたいわけじゃない。

     




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この時のジュディは、ヨコさん編その1で書いたときのように、NY滞在中は
ホテルで暮らしているということにしておいてください。