重たげな足音が草を踏みしだいてゆく。ドワーフが去ってゆくのだ。
 スランドゥイルはその音をぼんやりと耳にしながら、立ち尽くす。あれほど怒りで張りつめていたのに、今はその気持ちはしぼんでしまった。
 耳元で小さく息が吐かれる。羽交い絞めにされていたので動けなかったが、シリンデが緊張を解いたのはなんとなく気配で伝わってきた。
 わずかに顔を傾け、副官を見やる。シリンデは表情を曇らせて自嘲するような笑みを唇の隅に浮かべていた。
「もう、放しても大丈夫ですね?」
 そっと、確認をしてくる。
 まだエレナの魔法にかかったままのスランドゥイルは口を利くことができなかったので、頷くことで返答した。
 シリンデが離れると、支えを失ったようにふらついてしまった。怒りと共に力まで抜けてしまったらしい。
 情けない。スランドゥイルは目を強く閉じる。
 宿敵の一員であるドワーフを目前にしてなにもできなかった。それにエレナの本気の声に一瞬とはいえ怖気づくとは。
 みっともない、無様すぎる。
 座り込んで頭を抱えたい衝動にかられたが、この場には大勢警備隊員たちがいるのだ。彼らの前でこれ以上見苦しい姿はさらしたくない。
 一人になりたい、とスランドゥイルがその場から逃げだそうとした時、人垣が割れた。固い表情のエレナが、割れた間を縫ってすたすたと歩き、こちらへ向かってくる。
 スランドゥイルは待った。エレナは目の前まで来ると立ち止まり、手の甲を向けるようにしながら右手をあげた。反射的にスランドゥイルはその手を避けるように身を反らす。
 その動きに、スランドゥイルはぎくりとした。エレナも驚いたように目を見張る。
「術を解くだけだ。触れはしない」
 エレナは甥を安心させるような笑みを浮かべた。だが目の色は悲しみに陰っている。
 手を振り払うも同然の振る舞いをしてしまったが、そんなつもりはなかったのだ。そう言おうにもまだ術は効いたままだ。口が聞けなければ弁解のしようもない。
 焦るあまりに冷や汗がでてきたが、エレナはじっとスランドゥイルを見つめている。長い時間、そうしていたように感じたが、実際にはものの数秒だったのだろう。エレナはふと表情を和らげた。苦笑に近いものが浮かんでいる。
「それほど慌てずとも、大丈夫だよ」
 よしよし、と頭をなでられた。
 大勢の前で子供扱いされたことで一瞬頭に血が上ったが、叫んだところで声は出ないのだ。
 とりあえず、『断りもなく心を読まないでください』と伝えると、彼女は『必死になって送ってきたくせに、何を言う』と心の声で返事された。
 そんなつもりはなかった、と言ってもどうせ通じないだろう。一気に疲れを感じたスランドゥイルは、『早く術を解いてください』と伝えた。
 エレナは頷くと再び目の前に手の甲を向けるようにあげ、手首を返すようにしならせて指を鳴らした。乾いた音が不自然なほど響きわたる。
「もう話せるぞ」
 こちらを軽くのぞき込みながら、エレナはスランドゥイルの様子を見守っていた。指が鳴らされると同時に、圧迫感は消える。彼は自分の喉に手をやり、エレナをまっすぐ見つめる。
 口が利けるようにはなったが、改めて何を言えばよいのかわからなかった。
 普通に話かけるのはさすがに間抜けだ。だが怒りの勢いで食ってかかるということもできない。怒りはすでに萎えてしまっているのだから。
 だがエレナのやり方に納得はしていない。自分に対するものもそうだがドワーフに対することもそうだ。
 スランドゥイルは喉から手を離すと、彼女から目を反らす。
「エレナ、あなたには言いたいことも聞きたいこともたくさんある。……だけど、今はそれを上手く言葉にできそうにない」
 そしてその話をするときには余人を交えたくなかった。反らした目の端で、エレナが腰に手を当てたのが見えた。
「そのようだね。ゆっくり気を休めて、落ち着いてからの方が良いよ」
 エレナの口調はあっけらかんとしていた。だが表情もそれに見合ったものだったのかは、見ないようにしていたのでわからなかった。 




 集落地に戻ると、一足先に何事もなかったという知らせを伝えに行かせていたため、出迎えてきた民たちの顔は一様に明るかった。中央広場で待機していたサンディオンも出かける前とは打って変わって安堵したような表情になっていた。いつ有事に変わるのかと気を張っていたのだろう。
 エレナは休暇に戻ってよいと待機組に告げ、マキリオンたちにもしばし休憩を取るように命じた。
「そなたはどうする?」
 館に向かいながら、エレナは問う。差しで話すかと表情が物語っていた。スランドゥイルはしばし迷ったが、結局断った。まだ心の整理がつかないのだ。
 ならば後でおいで、とエレナは手をひらめかせて去ってゆく。その背を見送ると、スランドゥイルは軽く頭を振って自分の部屋に戻った。
 部屋は己の心を反映したのか、妙に静かに感じた。わずらわしい視線がなくなったので思わず安堵の息を吐く。どかりと椅子に座ると、スランドゥイルはやや姿勢を崩して背もたれにもたれ掛かった。
 シリンデが喉を潤すための飲み物を近くのテーブルに置くのを見るともなしに見る。先ほどから彼はほとんど言葉を発しない。主の心情と状況を察しているのか、ただ傍に控えているだけだ。時折主人で遊んでいるとしか思えない言動をする彼でも、その気になれば主の陰として、存在を主張することなく行動することができるのである。いつもこうならいいのに、と思わなくもなかったが、静かなだけのシリンデというのもそれはそれでつまらなかろう、と口に出すのはやめた。
 代わりに出てきたのは、こんな言葉だ。
「さっきの私の行動は、きっと誉められたものではない、のだろうな」
 自嘲などはしない。事実だ。少し頭が冷えた今ならよくわかる。あの時の自分は、ただ私怨に支配されていたのだ。きりっとスランドゥイルは唇を噛む。
 シリンデは淡々と返答をした。
「はい。激情につき動かされているのだと、傍目にもよくわかりました。あの場で戦いが起きていたら、無謀な采配を振るいかねない、そのように感じました。幸いと言っては何ですが、戦端は開かれていなかったのでそのような心配は無用だったわけですが。しかし……」
「しかし、何だ?」
 途中で言葉を切ったシリンデに、スランドゥイルは視線をやる。彼は困ったように口を押さえた。
「いえ、なんでもありません」
「なくはないだろう。言え。お前の毒舌に今更怯むものか」
 シリンデは苦笑する。
「では失礼して。……あの場はわたくしたちが訪れるまで一触即発、という雰囲気はなくはなけれど、至って穏便に話を進めていたように見受けました。そこへ若君が乱入し、怒鳴り散らしたわけですから、まあ印象はよろしくないかと。喧嘩した相手と再び会って腹を立てている幼少の者、と受け取られても仕方がありません」
 言えと言ったのは自分だが、はっきり言われれればやはり耳に痛い。だが副官はスランドゥイルの事情をすべて知っているのだ。知っていてもそう見えた、ということなのだからその点については反省するべきだろう。やり方がまずかったのだ。しかし。
「我らはドワーフと喧嘩をしたわけではない。あれは戦いで、夥しいほどの血が流れた。だがエレナは……。その場にいなかった彼女には我らの嘆きが理解できず、実感できないということか?」
「いいえ、そのようなことはありません。経験がなければ理解も想像もできないようでは王など務まりますまい。たとえ本人が臨時だ暫定だとおっしゃっていようと、この森を統べているのはエレナカレン姫であることには違わない。民の気持ちもかの方に向けられ、万事滞りなく物事は行われている。つまりは器量もちゃんとあるということです。飾りでしかない王では民をまとめるなどできませんからね」
「それはわかっている!」
 わかっていると思っているからこそ納得ができない。あの時彼女は自分に味方をしてくれると思っていた。シンダールの、スランドゥイルの悲しみや憤りを理解してくれていると信じていたからこそ、いきなり口を塞ぐというやり方に腹が立ったのだ、傷ついたのだ。
 シリンデは繰り返す。
「姫は我らの苦しみを理解されています。だから若君の言動は封じられましたが、若君がおっしゃったことについては何も責めてはおられないでしょう? いささか強引だったのは否めませんが。それにドワーフの前で仲間割れをしていると受け取られかねないことをいつまでも続けるわけには参りません」
 指摘されて気がついた。確かに、彼女はただスランドゥイルを黙らせただけだったのだ。
 シリンデは続ける。
「それは何も姫君に限ったことではないでしょう。程度の差はあれ、森エルフたちも理解していることです。ですからあそこでの醜態、とあえて言わせていただきますが、そのこともってあなたの評価を変えることはない、とわたくしは思っております」
 スランドゥイルは聞きながらだんだん頭を抱えてうずくまりたくなってきた。
「そんな風に生ぬるく見守られたら、迂闊なことなど何一つできないじゃないか」
 恥ずかしくてたまらない。ドワーフに敵意を剥き出しにしたことにではない、それをただまき散らしたことが恥ずかしいのだ。
 シリンデは声をあげて笑った。
「若いうちには誰にでもそういうことはあるものです。気にしないことですよ。最初から完璧である必要などないのですから」
 スランドゥイルは頬杖をついて頬が膨らみそうになるのを抑える。羞恥が高じてふて腐れてきているのが自分でもわかるのだ。
「慰めなどいらぬ。お前も私が喚いているのをさぞ面白く見物していたのだろうしな」
 嫌みが口をつくも、シリンデは笑みを引っ込めて頭を振った。
「とんでもありません。わたくしとてドワーフを憎むこと余りありません。ただ、自分より興奮している方がすぐ側におりましたので、自分までそうするわけにはいかないと自制が起きたまでのことです」
 それは自分を反面教師にした、ということだろうか。微妙に釈然としなかったが、シリンデは真面目な顔で続けた。
「結局わたくしも自分の激情に支配されていたのです。あの時のわたくしは全面的に若君に同意していました。ですが、副官としてわたくしは若君を止めねばならなかったのです。そうしなかったこと、今では悔やまれて仕方がありません。姫君に命じられるまで動かなかったことをふがいなく思います」
 副官は主をおちょくることはあるが、根は誠実なのだ。その彼を試すようなことをしてしまった。また子供っぽい振る舞いをしてしまったとスランドゥイルは内省した。
「もしも父上があの場におられたら、どうなさっていただろう」
 スランドゥイルはふと思いついたことを口にした。目は彼方にいるオロフェアを探すように遠くを見つめている。
 のんきとすら感じるほど穏やかな彼ならばもっと違うやり方をしたのではないだろうか。
 シリンデも遠くを見やる。
「わかりません。ですがやはり心穏やかではいられないでしょう」
「だろうな。こちらは森にいるので避けようと思えばドワーフに会うことを避けることもできるだろうが――私に限って言えば、エレナの魔法に引っかかった者を確かめに現地に行かないようにするとかすれば、な――旅の途中でかち合ったらそうそう避けられないこともあるだろう。父上の心の平穏のためにも、ドワーフに遭遇しないことを願おう」
「ノルドールにも、ですね」
 シリンデの皮肉げな物言いに頷く。そう、ノルドールだって嫌いなのだ。だが彼らはエルフだ。
「エレナはノルドらが森にきたらどうするだろうか」
 ドリアスを襲ったエルフとはフェアノールの息子たちとその配下だ。その当人たちもほとんどが死ぬか、あるいは行方がわからなくなっている。だからドリアスの敵そのものであるノルドールは、もういないのだが。
「それこそ伺って見ればすぐにわかることです。姫君の部屋までは遠くありません」
「……行くか」
 スランドゥイルは立ち上がった。




 エレナの部屋を訪ねると、双子の侍女が取り次いでくれた。エレナはドレスに着替えており、淡い草色の柔らかな布地がその身を覆っていた。
「来たか」
 彼女は腕を組んでふんぞり返った。ズボン姿の時ならばともかく、ドレスを着ていてそういうことはするなと言いたかった。が、言ったが最後、話がそれることはこれまでの経験から学んでいたので何も言わないことにした。
「来たぞ」
 ただ一つ、必要な言葉を除いて。
 エレナは椅子を示したので遠慮なくそこへ近づき、座った。スランドゥイルの背後にはシリンデが、エレナの背後にはグラジエルが控えている。グラシエルの方は軽い飲み物でも用意するよう命じられたので席を外していた。
 間にはテーブルなどもないため、彼女が長いスカートの下で足を組んでいるのがわかった。
 端緒の言葉を探していたスランドゥイルだったが、彼女の様子に違和感を覚えて眉をひそめる。なんと説明したかわからないが、エレナらしくないのだ。彼女がふんぞり返るのも足や腕を組むのも珍しくはないのだからいつもなら気にならないというのに。あえて言葉にすれば、そう、威圧されているような感覚がある。
 エレナは肩にかかる髪を払い、ちょっと睨むようにスランドゥイルを見つめた。
「わたくしに言いたいことがあるのではないの?」
 言われてスランドゥイルは我に返る。
「ええ、そうです。幾つか伺いたいことがあります。先ほどのようなことを再び繰り返すわけにはいきますまい。緑森の威信に関わるのだから」
 暫定的にシルヴァンエルフの王はエレナカレンということになっている。そしてシンダールエルフの主は今はスランドゥイルだ。ドリアスはメリアンというエルフ以上の出自の女主人がいたとはいえ、あくまでも王はシンゴルだった。女王の国というのは有名無名はあれど数あるエルフの国の中でも例外に属する。例外というものは、よほど能力が突出していると認められない限り侮られやすいものだ。あのドワーフたちの反応が良い例だ。そこに加えてシンダールの若長は短慮にして道理もわからぬという風評が立てば森にとっては好ましからざることになること請け合いである。
「ドワーフが森に侵入してくるということは、それなりにあることなのですか?」
 エレナは眉をぴくりと動かす。
「いいや、過去、数度あっただけだよ。それもたいがいどこかへ移動する途中で森に踏む込んだという理由だ。森のどこかに腰を据えようだとかいう了見はあれらにはなかろう。岩の中にいるのが好きな連中だからな」
 スランドゥイルはわかったと頷く。ドリアスとは違って完全に周囲から孤立させているわけではないのだ、そういうこともあるのだということがはっきりわかっただけでも収穫だ。あとは頻度の問題だが、これはスランドゥイルには手の打ちようがないことである。ドワーフがやたらと森に入ろうなどという気を起こさないでくれと願うしかない。
「ドワーフが入り込んできたとわかった時の対応はいつもあのようなものなのですか? つまり、引き返せと勧告するだけ、と言いますか」
「他にどうしろというの? わたくしは特にドワーフを好いてはおらぬけれど、あれは闇の勢力ではないし、ドリアスを襲った以外にエルフと相争ったことはないのだぞ」
「では、エレナカレン、我が親族である姫君、もしも侵入してきたのがノグロドのドワーフであった時はどうなさいます?」
「そなたには悪いが、変わらぬよ。まあ、少々対応が荒くなるやもしれないがね」
 緑色の目をきらめかせ、エレナは断言した。
「わかりました」
 それが彼女の考えであるのならばそのこと自体は尊重しよう。森をドワーフの血で汚したくない、ということならば自分にも理解できないわけではない。奴らは憎いが、その憎むべき対象が近くに――たとえば牢屋とかにだ――いるというのも想像するだけでも虫酸が走る。
(ん? 牢……?)
 スランドゥイルははっと目を見開いた。そういえばここには牢などというものはないではないか。であれば先ほどの騒ぎの時に、もしもエレナが自分の意見を汲んでくれたとしても、ではどこへ連れて行けたというのか。家の一軒や二軒はすぐに建てられるということはスランドゥイルもすでに知っていることだが、木で出来た牢というのはどうにも不安でならない。さすがのドワーフでも素手で分厚い板や太い柱をどうこうできるとは思えないが、とにかく一抹の不安が残るのは事実だ。ならばドワーフを捕らえなかったのは、あの時の自分の意志とは別の意味で良かったということになるのか……。
 エレナは困惑したように眉を寄せて、心持ち前のめりになった。
「のう、スランドゥイル、そなた一体どうしたいの?」
「どう、とは?」
 質問の意味がわからなかったので、スランドゥイルは聞き返した。エレナは落ち着かなげになる。
「不服があるのだろう? あのように場から閉め出したのだもの。構わず言うてよいのだよ」
 スランドゥイルは虚をつかれたため、思わずぽかんとなった。このひとは自分が彼女に八つ当たりをしに来るのだと思っていたらしい。
「いえ。あ、いや、たしかに当初はそのつもりも少しはありましたが、エレナがなぜあのようなことをしたのかは、理解しているつもりです」
 それを気づかせてくれたシリンデをちらりと振り返る。彼は澄ました表情でただ前を見ていた。
「もうあのことで殊更何かを言う気はありません。ただ、私にはドワーフもそうですが心の底から嫌っているものが他にもあるものですから、それらがもし、森に侵入した場合にエレナがどんな対応をとるつもりなのか、確認しようと思ったまで。今回はたまたま迷い込んだドワーフだったから良かったようなものの、最初から我らに敵意を持っているものが来ないとも限らない。今の私はシンダールの長で、万が一の場合には配下に戦えと命じなければならない身です。足並みが揃わねばまずい事態が起きないとは言い切れないでしょう。その時にあなたと言い争って無駄に時間を浪費していてはいけないと思ったので……。エレナ? どうかしたのですか、エレナ」
 エレナは自分の膝に頭を埋めるように腰を折った。真っ直ぐな銀の髪が滑り落ち、銀の幕のように彼女を覆う。何か自分は相当彼女を怒らせるか悲しませるか落胆させるか、はたまた笑わせるようなことを言ったようなのだが、何をしてしまったのかまるで見当もつかない。
「まったく!」
 しばらくそうやったまま肩を小刻みに振るわせていたものの、エレナはがばりと起き上がり、スランドゥイルを睨みつけた。その頬は妙に赤く、睨む目線も迫力がない。
「そなたはきっと怒っているか悲しんでいるかと思うていたのに。他のことならばともかく、ドリアスに関することならわたくしも余計なことを言わずに聞き役に徹した方が良かろうと腹を括っておったのに、そなたは勝手に一人で立ち直っていたのだね。まったく……っ」
 スランドゥイルはあっけに取られた。つまり彼女はスランドゥイルの八つ当たりにただつき合うつもりでいたということだ。聞き役に回るというのであればそれが彼女にとって納得がいかない、子供じみた理屈であっても、忠言、説教の類はしないつもりで。――もっともその場では、ということかもしれないが。
 だが勝手に立ち直られたと責められるのは筋違いだろうし、そこまで聞き分けがないと思われているのも心外だ。
 そう、言おうと思ったのだが。
「見くびりすぎておったな。すまなんだ」
 眉間に手を当ててエレナは大きく息をついた。
 手で顔が半分ほど隠れてしまっているが、真っ白な頬が赤らんでいることは窺えた。
 それが妙になまめかしく、また彼女の中で自分の評価があがったことを感じ取り、スランドゥイルは胸中がざわついて仕方がなかった。







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