++ 五番ボックス ++
ファントムが支配人に要求しているのは、年間24万フランの給料に加えて、二階の五番ボックス席をずっとファントムのものとするというもの。
二階の五番ボックスがどこか、皆様、おわかりでしょうか?(ガルニエ宮に行ったことあるもーんという方はしばらく唇に指を当てておいてくださいませ/笑)
・始めに
オペラ座の座席配置について説明しましょう。
オペラ座の席番号はある意味、とってもわかりやすい。
客席側にいるとき、一番舞台に近い左側が一番の席なのです。で、右側が二番。
三番席は一番の隣、四番は二番の隣。
つまり、左側は全部奇数番号の席なのです。右側は偶数席。
これは席の種類や階数は関係なく、全部そういう風につけられています。
これならガルニエ宮になにかを観に行った時、これで自分の席が大体どっち側にあるかわかりやすくなりますね。「○番ってどの辺?」ってなりませんもん。
そのためにこういう風に番号をつけたのかは知りませんけど(汗)
さあ、繰り返しましょう。左が奇数、右が偶数、です。
その席の名称は、位置によって名前が変わってきます。日本の劇場とかだと、せいぜい「アルファベット+数字」の組み合わせで、席のエリアによって名前が変わったりしませんよね?(そりゃ、S席とかA席とかはあるけど…)でも、オペラ座にはそれがある。てわけで、これが知らない人にとってはちょっとややこしい。
角川版の原作で席の名称がいくつか出てきましたので、それを使いながら解説してみます。画像を使えばわかりやすいのですが、勝手に引っ張ってくるわけにもいかないしな…。
ちなみに、引用ページ数はいちいち記しません。複数回でてくることもありますし、ぶっちゃけ面倒…(←殴)。
まずは一番目立つ席。「特別ボックス席(アヴァンセーヌ)」
05年映画版で言うと、支配人やラウルが座っていたところ。左に座っている支配人は一番ボックス、ラウルは右側なので二番ボックスです。
舞台に近く、席が前に張り出すようになっている上に、周囲の柱とかにいっぱい装飾がついている席です。
次はファントムの席。これはご存知二階ボックス席五番ですね。「ボックス席」というのはロージュ(loge)といいます。英語のlodgeに相当する語なのだそうな。
あとはこの前に階を示す語をつけるだけ。二階とか三階とか。
二階はプルミエ(premier)。英語で言えばこの語はfirstになるのだろうか(こっちは辞書には特に書いてなかったからなー)。「第一の」とかいう意味だそうだ。
なぜ「第一」ロージュが二階にあるのだろうかと思ったが、プルミエには「二階」という意味もあるのだそうだ。地上階の「一つ上にある階」が「二階」という考え方らしい。ちなみに、firstもイギリス語では「二階」の意味だと辞書にあった。米語では「一階」だけど。
管理人、ちょっと勉強になりました^^;
えーと、だからプルミエ・ロージュは角川版では「二階ボックス席」となっていますが、他の参考資料では「第一ロージュ」と訳していたものもありました。意味的にはどっちも間違っていないけど、日本人としては○階ボックス席と書いてあるほうがわかりやすいですよね。
さて、一方オペラ座の新支配人となったモンシャルマンとリシャールは、ファントムの存在を信じておらず、怪人の席を調べてみました。そこだけではなく、下の席も念のため、調べに行っています。「一階ボックス席」はベニョワールといいます。
しかし一階には、ボックス席以外に椅子席もあります。そっちはそっちで名称がついています。
ジリーおばさんの代わりに怪人の席の案内代わりになるはずだったが、シャンデリアが落下したために死亡した女性が座っていた席は「一階椅子席 オルケストラ」
生憎原作には出てこなかったのですが、オルケストラ席の後ろには、また別の名称の席が存在しています。現物を見たことがないので絵や写真からしか判断できないのですが、劇場や映画館のように傾斜しているように見えます。まあ、後ろの席なのだからそうでもしないと見づらいからだと思いますが。そこがアンフィテアトルといいます。現在ではバルコンと呼ばれている席です。
また、クリスティーヌが誘拐されることになった公演で、ラウルがいたのもアンフィテアトルなのですが、こっちは高いところにある席で、「天井桟敷」です。名前は同じですが、値段は違います(笑)
仮面舞踏会でファントムがあがったのは「盲人用ボックス席 アヴーグル」ですが、これは身障者用の席というわけではなくて、舞台がほとんど(とうか全然?)見えない席があるというので、そこのことだと思う。天井桟敷よりも見えないのだろう。…多分。(だって、行った事ないんだもん〜)
・ちなみに
映画ではアヴァンセーヌのアーチ上の装飾が二階にあるように見えますが、実際のオペラ座では三階部分にあります。そして二階の特別ボックス席一番というのは国家元首専用なのです。映画版だとその高さのところに支配人たちが座っているということに…(いくら支配人でも、それはダメなのでは^^;)
また、席番号は、例えばアヴァンセーヌの一番、二番、三番…とあって、それが終わったら第一ロージュの一番、二番、三番…となるわけではありません。席の番号自体は、左側なら一、三、五、七、九…と単純に奇数順に並んでいます。アヴァンセーヌは舞台の両側二列しかないので、四番まで。五番からは第一ロージュになります。
ということで、ファントムの席は、舞台側から三つ目の席だということがわかります。
…舞台、すっごく見えにくくないか、そこ。
・舞台版
そういえば、05年映画版とそのオリジナルである舞台版では、単に「五番ボックス」としか言っていないのです。
これ、原作も読んだことなくてガルニエ宮も見たことない人なら、五番ボックスは一つしかない、と思ったりしないだろうか。それで話の筋に影響があるわけではないから構わんといえば構わんでしょうけど。
そしてDVDをチェックしたところ、二万フランの給料とともに要求されている件の五番ボックス席、一度もアップで映されてたりしてないんですよね…。
たまーに、見えたかな?と思ったらなんだかお客が入っているみたいだし。ガラでも「イル・ムート」でも、「ドン・ファンの勝利」でも。
新支配人たちはファントムの脅迫を本気で取っていない(というか、要求を飲む気はない)のだから、当然といえば当然なのですが、実はこれ、舞台版とは少々状況が違っているのです。
舞台版では、このファントムの席である五番ボックス席を廻るやりとりがあります。
「プリマ・ドンナ」と「イル・ムート」の間に、ラウルと支配人のこんなやりとりが入っているのです。
簡単にまとめると、
ラ「五番ボックスしか席が空いてないや、だから僕はそこに入るね」
支「そこはファントムに空けておくように言われてるんだけど…」
てなことがあってラウルはファントムの席に座る、という流れがある。つまり、それ以前には怪人の席にはお客は入れていなかったんですね。
この場面が映画でカットされたり、五番ボックス席があんまり重要視されていなかったのは、春日の想像でしかないのですが、「プリマ・ドンナ」の盛り上がりを維持したまますぐ「イル・ムート」へ移ることと、五番ボックス席は(値段の上では)良い席ではあるものの、舞台から微妙に離れた横の席だということが原因としてあるように思う。舞台―ボックス間の視線のやりとりを画面を動かさずに見せるには難しそうな位置だから。
それと、これも本筋には関係ないので構わんといえば構わないのでしょうが、当時のオペラ座というのは、席を年間予約することができたのです。
原作では、シャニー伯爵(ラウルの兄)が二階ボックス席を所有しています。そこならラウルはいつでも自由に観られるはず。
舞台&映画のラウルは兄がいるかどうかわからないけれど、彼自身がオペラ座のパトロンになれるほどの財産家なので、やっぱり年間予約くらいできると思うのですが…なぜ君はそこにいかなかったんだろうね。
尚、ファントムの要求どおり、五番ボックスに一度もお客を入れなかった場合、どれほどの経済的損失があったかについては、「オペラ座、あれこれ」に書きましたので、そちらを参照してください(これもまた結構な額になってるんですわ)。
終わり
参考文献:「パリ・オペラ座 夢の聖堂の秘密」
「パリ・オペラ座 フランス音楽史を飾る栄光と変遷」
「オペラ その華麗なる美の饗宴」