6月某日。

 本日の先生からのご用件は買い物が数件でした。
 最近はこの、買い物の用を頼まれるのが一種の楽しみとなっております。
 それというのも、どう考えてもお嬢さま用のものと思われる品物が混ざるようになったため、あの奇怪な――私にはそうとしか思えません――地下の暮らしを垣間見ることができるからなのです。
 思い起こせば、私も先生に仕えて長くなりますが、今ほど安らぎを感じてたことはないように思います。
 やはり先生のような方を一人で支えねばならないというプレッシャーがあったのでしょう。
 お嬢さまの存在を確認していらい、本当に気持ちが楽になったのですから。
 さて、本日の用件は、と。

 1、蓋付きバスケット
 2、蓋なしのバスケット

 これには雑誌の切り抜きが添えられています。
 蓋付きの方は取っ手に可愛らしい飾りがついているものでした。
 お嬢さまがお求めになっているのでしょうか。
 多分そうでしょう。
 あの方は午後になるとよく気分転換の散歩に行かれるのです。
 たまには軽い食べ物や飲み物を持っていきたくなっても不思議ではないですからね。
 しかしなぜ二種類も……?
 蓋なしの方はかなり大きいので、あるいはこちらは先生がお使いになるのかもしれません。

 3、ウールのラグ

 ええと、明るい色合いで余計な模様の無いものが好ましい、と。
 これは私の裁量で選んで良いということですね。
 あまり例のない注文ですが、どうしたことでしょう。
 ……いやいや、余計な詮索はしないのがこの仕事を続ける鉄則です。

 4、ストローハット(紳士用)

 ……。
 ……………。
 ストローハット!?
 お嬢さまのでなく、先生のストローハット!?
 何に使うっていうんです! いや、被るに決まってますが。帽子なんですから。
 しかし、ストローハット……。
 あの先生が、昼日中にストローハットを被る事態なんて想像も……。
 あ!
 私は思わず声に出して叫んだ。
 バスケットにラグ、ストローハット。
 もしこれが一度に使われるのであれば、おそらく先生とお嬢さまは郊外にでもお出かけになられるのでしょう。
 ピクニックというやつです。
 最近は気候もいいですし、健康的でよろしいのではないでしょうか。
 ……先生のことですから、夜中にでかけるかもしれませんが。
 いや、しかし夜にストローハットを被るわけもありませんから、やっぱり昼間なのでしょうなあ。
 ……私が送り迎えをすることになるのでしょうな。
 どれだけ早起きになるか。
 はは……。

 いえ、これも仕事です。
 たまの早起きくらいで難渋していられません。
 これ以上のことだってずっとやってきた私なのですから。


 さて、遅くならないうちにすべて買い求められるようにしないと。
 始めにどこの店に回ろうか……。


☆  ☆  ★  ☆  ☆



 五日後のメモにて。


午前六時に待機

雨天時は延期

曇天時は待機

自分の昼食を用意しておくこと


 あ、やっぱり。





ということで、(一見ぜんぜん関係ないように見えますが)一応オペラ座的日常生活その17のテーマはピクニックです。
導入部が長いなあ…。





前へ   目次  次へ