「一緒に外に出かけませんか?」
「何……?」
言ってからぱっと口をおさえた。
どうしてこんなことを言ってしまったんだろう。
エリックがこんなことを承知するはずがない。
「今度はご機嫌取りかな?口のうまい娘だな。子爵が与った栄誉を私にも与えてくれるというのかい?」
少し間が空いてから彼は感情を押し堪えるように震えがちな声で言った。
「そんなんじゃ……」
自分でも当惑して、頬に手を当てる。
だけど、そう、これは気になっていたことだ。
「エリックは、出かけたりはなさらないの?」
彼の部屋中に散乱していた楽譜やスケッチは高価な日本の紙に書かれていたし、身につけていたものは素材も仕立ても一流のものだった。
何でも作れるエリックだけど、材料を空中から出したりはできないだろう。
それに、食料などはどうなるのだ。あれは紙や布のようにいつまでも置いておけるものではないだろう。
用意してくれる人がいないのであれば、彼が自分で買いに行っているはず……。
エリックが壁の向こうのどのあたりにいるのかわからないので、いつものように姿見に向かって話しかけているのだが、彼が答えてくれるまでの間、わたしは自分の情けない表情を映し出す銀色の板からそっと視線を外した。
「あんな所に住んで世の中と隔絶したつもりになっていても、悲しいかな、完全に別れることはできないものでね。どこでも売っているようなものは代わりにの者が調達しているし、高価なものだって支払いさえ滞りなく済ませれば手に入らないものなんてない。商人というものは売り物が売れればそれでいいんだからな」
「代わりの方?」
マダムのことだろうか。
だけどやっぱり、彼はまったく外に出ないわけではなかったのだ。
エリックはしゃべりすぎたとでもいうように、咳払いをした。
「でも出かけることはあるんですね。だったら構いませんでしょう?」
言うと、エリックは困ったような声で答えた。
「強情な子だね。だが、私はこの顔をじろじろと覗き込まれるなど、我慢ならんのだよ。私とて不用意に人を驚かせたいわけではない。それに見られたくないから隠している。なのに悪気すら持たずに外そうとする輩がいるんだ。そう、お前のようにね」
エリックは嫌悪を込めて吐き捨てた。
説得を続ける 諦める 