信じられないほど淡々と日々は過ぎていった。
音楽の天使もオペラ座の怪人も、すべては夢だったのではないかと思うほどに何も起こらない。
静かだった。
最初の一週間はどこからかエリックが姿を現すのではないかと絶えずびくびくし、それが過ぎると、今度は何か別のことを計画しているのではないかという疑念に苛まれた。
だけど二ヶ月が過ぎると、今度は別の恐れがわたしを支配したのだ。
エリックは、人知れずあの地下で死んでしまったのではないか、と。
もしもそうなら、あの人を埋葬するのは、弟子であったわたしの務めだろう。
恐ろしい殺人鬼でも、わたしに歌を教えてくれた人だ。
見捨てられたように、ただ朽ちるに任せるなんてできない。
だけど、確かめに行く勇気はなかった。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
公演も練習もない日。
なにをする気も起こらなくて、散歩に行こうというメグの誘いも断って部屋に閉じこもっていた。
……地下に行ってみようか。
エリックと最後に会ってからもう三ヶ月近くなる。
きっと、彼は亡くなったのだ。
きっと……。
コンコン。
地下へ行く決意が固まらないまま寝台の上で膝を抱えていると、部屋のドアがノックされた。
ラウルかもしれない。
気持ちの上では婚約をしたわたしをあの日以来彼はよく外に連れ出すようになったのだ。
わたしもあまり室内にいたくなかったので喜んで出かけていたのだが、今日は誰とも会いたくない気分だった。
足音を忍ばせて扉に近寄り、鍵穴から覗いてみた。
やっぱりラウルだ。
どうしようかしら……。
扉を開ける 居留守しちゃおう 