ドレスの裾が翻り、足首もあらわになるのも構わず、少女は小高い丘を駆け下りた。
途中にある家々からはすでに魔法使いの到着を聞いた人々が表に出て、不安げな、あるいは不審そうな表情でひそひそ話を交わしている。
気持ちは急ぎながらも、噂に聞くもう一人の魔法使いとの対面を思い、我知らずは険しい顔つきになっていた。
門の近くまでたどり着くと、すでに顔なじみになっている門番が何も言わずに門を開けた。
軽く頭を下げて門をくぐる。
生唾を飲み込む音が、いつもより大きく聞こえる気がした。










取引










ぽかん、とは口を小さく開けた。
白の魔法使い、サルマンは底知れない力を感じられるものの、見た目は品の良い白髪の老人といった風であった。
そのことから対のように語られる灰色のガンダルフもなんとなくサルマンのような姿をしているのかという思い込みがあった。
しかし、目の前にいるのは彼とは似ても似つかないくたびれた姿の旅人だった。
青いとんがり帽子を目深に被っているので表情はわからないが、帽子の下から覗く灰色混じりの髪は絡まりあっており、長いあごひげもあまり手入れがされていないようだった。灰色のマントは旅塵で煤けている。
頑丈そうではあるが無骨な木の杖を握り、老魔法使いは辛抱強そうに夏の名残をとどめた夕日を浴びて立っていた。
「…ガンダルフ…殿?」
が声をかけると、老人はひょいと帽子のつばをあげた。
長い眉毛に隠れがちの双眸には疲れが見えたが、を認めると不思議そうに瞬きをした。
「エドラスの侍女殿のようだが、はて、わしになんの用かね?セオデン王の言伝を伝えにきたのかな?わしは王にお会いしたいと言ったんじゃが」
「それは近衛隊長のハマ殿が知らせてくださると思います。あの…あなたが灰色の魔法使い、ガンダルフなのですか?」
「いかにも」
老魔法使いは頷いた。
「わしに何か用かね?見たところお前さん、ロヒアリムではないようじゃが」
も頷いた。
「わたしはと申します。仰るとおり、わたしはロヒアリムではありません。ですが、王のご子息セオドレド様からの口利きで西の谷の領主エルケンブランド卿の養女となりました。今はエオウィン姫付きの侍女としてエドラスで働いております」
はガンダルフの顔をじっと見上げた。
敵か味方か。
見極めるためとはいえ不躾なほど魔法使いを見つめる。
ガンダルフはふうむ、と唸ると少女の頤に手を当てて、顔を覗き込んだ。
「お前さん、エルフのような目をしておるのう」
「エルフ…ですか?」
間近で眺める魔法使いの灰色の目には深い英知が宿り、その周りは長い年月を経た証である深いしわが刻まれている。
ガンダルフはいぶかしげな顔の少女に笑いかけた。
「そうじゃ、それも子供のエルフじゃな。親兄弟、仲間から不死たる彼らが持つ知恵を伝えられながらも、幼さゆえまだ身についておらん目じゃ。しかし人間であるお前さんがこのような目をしているのも不思議な話じゃのう」
「あなたはエルフを知っているのですか?」
目を覗き込まれたまま、は尋ねる。
「知っておるよ。わしは放浪を旨とする魔法使いじゃからな。北にも西にも南にも。エルフにドワーフ、また人間の知らない小さい人の間にもわしは行くのじゃ」
「小さい人…」
は聞き覚えのある言葉にぎくりと身をこわばらせた。
ボロミアの弟が告げられたという夢に出てきた言葉に、小さい人というのがあったはずだ。
この「小さい人」というのは、同じものを指しているのだろうか?
はゴクリと唾を飲み込んだ。
「失礼を承知でお尋ねします。あなたはここに何しにいらっしゃったのです?」
「それは王にお話しするべきことじゃ、娘さん」
その場に同席して聞けばよいことだと暗に促す。
は精一杯厳しい顔になってガンダルフに対峙した。
だが幼げな顔立ちのせいで迫力はない。子猫が毛を逆立てているような可笑しさがあった。
「あなたがマークの敵であるのなら、陛下が何とおっしゃろうとわたしはあなたをここから先には通すわけにはいかないのです。マークの王はセオデンですが、わたしの主はセオドレドなのですから。彼はこれ以上マークの敵が陛下に近づくことは許さないと言っておいでです。質問を変えましょう。あなたはサルマンの敵なのですか、味方なのですか?」
ガンダルフはかっと目を見開いた。
「ローハンはサルマンが悪に堕ちたことを知っておったのか!?」
「あなたはご存じなかったの?」
ガンダルフの驚きように、は困惑した。
「わしは先日までオルサンクにおったのじゃ。いや、彼の味方としてではない。わしは長年追い求めていたある事柄についてサルマンの助言を仰ぎにオルサンクを訪ねたのじゃ。彼はわしら賢人団の主導者であり、わしらの敵の手管を研究していた。彼のおかげでわしらはたびたびわしらの敵を出し抜くことが出来たからじゃ。しかし、久方ぶりに会った彼はすっかり変わっておった。わしらの敵の召使、それも敵の首領に取って代わろうと目論んでおる召使になっておった!彼はわしに手を組むように言い、わしはそれを断ったのでオルサンクの塔の天辺に連れて行かれた。そこへの出入りは何千段もある階段一つのみ、下ははるか下方にあり飛び降りることはかなわぬ。わしは奴の囚人となっておったのじゃ。大鷲の王がわしを見つけ、運んでくれなければ今でも逃げ出すことはかなわなかったじゃろう」
「大鷲ですか?」
は怪訝そうな顔で首をかしげる。
「さよう。霧ふり山脈には大鷲の一族が住んでおる。彼らは翼を持つ生き物の中で最も高貴で賢い種族じゃ。彼らの翼の速きこと、また力の荒々しさは暗黒の勢力から恐れられておる。また彼らは非常に大きな翼を持っておる。このわしを乗せても悠然と飛べるほどにな」
ガンダルフの説明に、は納得したと頷いた。
(そんなに大きな鷲がいるんだ、この世界って。ちょっと乗ってみたいかも。気持ち良さそう)
が明後日なことを考えている間と、背後で門の開く低い音が鳴った。
ハマが大股で歩み寄り、ガンダルフに軽く一礼をした。
「ガンダルフ殿、陛下はあなたにお会いしたくないとの由、即刻国外に退去されよとのことです」
は大きく鼻を鳴らした。
ガンダルフも眉をぴくりと動かし、不快を露にする。
「なぜセオデンは会ってもくれないのかの?彼とわしの間にどんな確執があったというのじゃ?」
「マークは以前と違い、今は多くの敵を抱えております。マークの国人以外のものが国内を勝手に歩き回るのをご不快に思っておられる。取り締まりは一層厳しくなっております。セオデンは魔法使いを好まぬ、即効退去と命じたのは、王の御慈悲だと言い付かっております」
ハマは自分でもまったく信じていないというような口ぶりでガンダルフに告げた。
なにしろという例があるのだ。
ロヒアリムでもないのに貴族に列せられ、国の中枢に近いところにいる魔女の少女がいるというのに、何度もローハンを訪れたことのある魔法使いにはもう会わないなどというのがどれだけ説得力のない言い訳か、子供にでもわかるというものだろう。
「これではっきりしましたね。ガンダルフ殿、今までの失礼をお許しください。わたしはあなたがサルマンの手先かどうか、確かめないわけにはいかなかったのですから。マークはサルマンに外からも内からも攻められているんです」
「内からもとな?」
は頷いた。
「陛下の相談役であるグリマがサルマンに内通しているんです。だけど彼は陛下の心に毒を吹き込んで、陛下の威光を盾にマークから徐々に力を抜き取っているんです」
「それならば尚のこと、王に会わんわけにはいかぬのう」
「ぜひ会ってください。わたしは陛下からグリマを遠ざけるための方法を探るために侍女としてここにいますが、なにしろマークのことをほとんど知らないので、どうしたらよいのかわからないんです。見当違いばかりしているようで…。だけどあなたはマークのこともご存知ですね?それにマークの敵に敵と見られているのなら、少なくともわたしたちの敵ではないのでしょう?」
は熱のこもった様子でまくし立てた。小さな手を力いっぱい握り締めている。
「無論じゃとも。しかしお前さん、ずいぶんとご子息に買われておるようじゃが、いったい何者なのかね?ロヒアリムでもないのに筆頭豪族の養女となり、また侍女として王の側近くにいるなどとはのう。それにお前さんは…」
ガンダルフは途中で言葉を切った。
その先に言おうとしていたことが何かを察して、は小さく微笑んだ。
魔女だということはとっくにばれていたらしい。ハマが側にいるので言うのをやめたのだろう。
今更隠すことでもないが、はなんとなく目の前の人物に言うのにはためらいを感じた。
上手く説明できないのだが、彼は今まで会ったどの人物よりも「」に対して興味を持っているようなのだ。胡散臭いとも見える老魔法使い。しかしサルマンに感じたように彼にもまた底知れない力を感じた。
「…わたしは春にサルマンに会いました。セオドレド様とも一緒にアイゼンガルドを訪ねたのです。白の魔法使いはわたしのことを何も言わなかったのですか?」
「そうか、それでサルマンのことを知っておったか。いや、わしは聞いておらんかった。それにしてもよく逃げられたのう」
「知られてもなんてことなかったのではないかと思います。だからあえて逃がしたのではないかと。現に、エドラスではアイゼンガルドと戦うべきだという声が大きくなっているのに、具体的には何もできていないんです。それも陛下がグリマを通じて人質に取られているせいだと」
近くにいるハマを憚っては声を落とした。
「わたしはグリマは根っからの悪人ではないと思っています。見解の相違や誤解がつもりつもって彼をサルマンの元に走らせたのだと思っています。だけどそれを訴えたところで状況が好転するものでもありませんし、理由がなんであれ、彼はサルマンにマークを売り渡したのですから、処罰は免れない。わたしたちとグリマは互いに腹の探りあいの真っ最中なんですよ」
自嘲気味に少女は笑った。
「わたしはこの世界の人間ではありません。わたしはマークのこともゴンドールのことも何一つ知りませんでしたし、セオドレド様もサルマンさえ、わたしの故郷のことは知らなかった。アイゼンガルドに行ったのは、サルマンならばわたしの故郷を知っているのではないかという望みがあったからです。駄目だったわけですけど。それで…お気づきだと思いますけど、わたしは魔女なんです」
あっさりという少女に、魔法使いは破顔した。
「なんじゃ、隠してはおらなんだか。魔女嫌いのマークに魔女のお前さんがなぜ、と思うたわ」
「みんな知っていることですから。正確には巫女というんですけど。だけどここにはわたしに力を貸してくれる方がいないから、ほとんど力は使えないんです。だけど魔法が使われているかどうかくらいはわかります」
「それでご子息はあんたを…か」
「わたし自身も望んだことです。セオドレド様にはよくしていただきましたから、ご恩返しができるのならと」
「セオドレド殿はいらっしゃらないのかな?そこまでアイゼンガルドを警戒しておるのならば、わしの話を聞いてくれそうじゃが」
「セオドレド様は二月前から西の谷に行ってるんです。エオメル様も先日、アルドブルグに戻られてしまったからいらっしゃらなくて」
間が悪いと双方ともにため息をついた。
だが、ガンダルフにはぜひともセオデンに会って欲しかった。サルマンをよく知っているだろうこの魔法使いならば、グリマの小細工くらい簡単に見破るのではないかという希望がふいにわいてきたのだ。ここで彼が帰ってしまったらせっかくの機会も水泡に帰してしまう。
(迷ってる時間はないわ…)
はハマに向き直った。
「わたし、これからセオデン王に掛け合ってきます。その間、ガンダルフ殿に待っていていただいてもいいですか?」
「それは…しばらくの間でしたら構わないでしょうが…しかしあなたが?」
セオドレドの思惑が働いているとはいえ、一介の侍女が王に直談判するというのは前代未聞だった。侍女は王家に近侍していても、政治には一切関わらないものなのだ。背景に特殊な事情があるとはいえ、少女の行動はセオドレドの後見のもとで容認されているにすぎない。公には彼女に発言権はないのだ。セオドレドの留守中におおっぴらに動けば、王子の寵愛を笠に着ていると思われかねない。
少女は始めの頃に比べれば確かにエドラスの人々の好意を得てきてはいるのだが、まだ磐石ではないのだ。
「背に腹は代えられません。わたしが悪女と呼ばれればすむことです」
悪女というには大分無理のある可愛らしい容貌の少女は、魔法使いに礼をするとすたすたと門の中に戻っていった。













決意も固くセオデンの部屋に入ると、王はこれまで見たことないほどぐったりとしていた。
エオウィンと数人の侍女たちの手を借りてゆっくりと歩いている。
寝室に向かうようだ。
「エオウィン姫」
がそっと声をかけると、姫は目で少し待つように促した。
慎ましく礼を返して承知の意を表す。
すでに自室に戻ったのか、部屋にはグリマの姿はなかった。
(陛下のあのご様子じゃ、これから話をするのは無理かもしれないわ。明日にしたほうがいいかしら。でも、もう日が暮れるし…)
寝室は私室から続いている。間を仕切る彫り物が施された樫の木の扉は開け放たれ、薄暗い寝間が見通せた。
がはじめてここを見せてもらった時は他の部屋との違いに口を開けたものだった。
石造りの黄金館ははっきりいって風通しが悪い。平面ガラスを、作らないのか作れないのかの判断はできなかったが、窓があってもガラスはなく、木の覆いが付けられているだけ。こういう風なので、ローハンでは晴れた時にしか窓が開けられないのだ。
セオデンの寝室も例外ではなかった。空気の入れ替え用らしい小さ目の窓が一つだけ。
それに部屋には壁紙が張り巡らされていた。歳月を経たせいで少し古びているが鮮やかな緑色、その上に幾枚かの白い馬の刺繍がほどこされている壁掛けが吊るされている。
明るくて美しいが寝室というもっともくつろげる場所に張るにしては少し場違いではないかと密かに思ったのだ。だがローハンにとって、草原を表す緑と、彼らの友である馬たちの祖、メアラスを表す白は象徴的な意味を持っていることを知っていたので、あえて口にすることはなかった。
「それでは失礼いたします、陛下…。お休みなさいませ」
エオウィンは侍女を連れて戻ると、一礼をしてそっと扉を閉めた。
は内心天を仰いだが、態度に表さないようじっと我慢した。
エオウィンは歩きながら話そうと少女に耳打ちをする。王が寝室に行ってしまった以上、部屋に居続けるのは無作法を通り越して不敬になるのだ。
「陛下はどうなさったのですか?こんなに早く休まれるなんて」
エオウィンは小さくため息をついた。白い面に疲労の色が滲んでいる。
「ガンダルフが来たことは知っているかしら?始めは伯父上もお会いするおつもりだったようなのです。グリマにたぶらかされていても、古い馴染みのお客様がいらっしゃった時にはそうしていましたから。ですがグリマが魔法使いが来たことを聞きつけて、彼の悪口をさんざん並べ立てて会わないように進言したのです。グリマが興奮すればするほど、陛下も引きずられることはあなたも知っているでしょう。あまりにも興奮がひどくなって、呼吸困難になるほどで…、今は落ち着きは取り戻したけれどひどく体力を消耗されてしまったのです。夕餉もいらないとおっしゃって」
は唇を噛んだ。
「姫、ガンダルフは門の前で待ってくれています。わたしは陛下にガンダルフと会ってくれるようお願いに参ったのです。でも、このご様子では…」
いつのまに、とエオウィンは呟いたが、責めるつもりはないようだ。
考え込むようにして頬に手を当てる。
「そうね。難しいわ。すでに陛下の名においてガンダルフ殿には退去命令が出されたのですもの。無理に留まれば命令無視で処罰されてしまうでしょう」
「グリマにはガンダルフをどうこうできるほどの力はないと思うけど…」
は納得できないように首をひねったが、
「ああ、でもとばっちりが他に行くんでしょうね」
この場合、狙われるのはハマあたりだろう。『王命を遂行させなかった』となるのだろうか。当番の近衛全員の連座という可能性も否定できない。
グリマに処罰の口実を与えるのは非常にまずいと、は思い直した。
「ええ、多分」
エオウィンも力なく同意した。
「となると…グリマに直接交渉するしかないですね」
「そんなこと…やるだけ無駄だわ。これ幸いとあなたを狙ってくるに決まってます。セオドレドがいないのですもの、強硬に出られたら、わたくしではあなたを助けられないわ」
「やるだけやってみます。…あんまり使いたくない手だけど、勝算は一応ありますし」
ぐっと拳を握りしめ、はグリマの部屋に向かった。


部屋に押しかけ、ガンダルフの即刻退去を撤回させるようまくし立てると、グリマは青白い顔に呆れたような表情を浮かべた。
「わざわざそんなことを言いに来たのか?くだらん、私が許すとでも思うのか」
「陛下がどっかの誰かさんのせいでお夕食も食べられないほど疲れてしまったから、あんたに言いに来たのよ」
は腰に手を当てて胸を反らせた。
公の場で言葉を交わすことはない両人だが、人目のない場所では遠慮はない。
「ガンダルフ殿だってとてもくたびれているようだし、もうじき日が暮れるわ。即刻退去だなんてあんまりよ。夜は危険なのよ。いくら魔法使いだって危ないわ」
「それで、一晩泊めたついでに陛下に会わせろと?そうはいくか」
グリマはにべもない。
はすうっと息を吸うと、
「セオドレド様がいらっしゃったら、賛成してくれるわ」
「…貴様も同じ穴の狢になるか」
蛇の舌はぞっとするような低い声で少女を睨みつける。
「残念ながら、そうせざるを得なくなったわ」
湖面のように静かな表情では受け止めた。
「でも、あなたもそう思うでしょう?灰色の魔法使いが白の魔法使いと袂をわかったのなら、殿下は喜んでガンダルフ殿を迎えると思うわ。味方が増えれば心強いし、アイゼンガルドの内部の情報を聞けるのですもの。そうそう、これはあなたも気になるんじゃない?」
挑発するような笑顔を浮かべる。
「あなた、お休みの日には遠乗りに出かけることもあるんですってね。ロヒアリムなら珍しいことではないことだけど。でも最近まったく行ってないっていうじゃない。セオドレド様があなたに見張りをつけてるって、気づいているからでしょう?遠乗りにかこつけてアイゼンガルドに行ってるんじゃないかって疑ってらっしゃるのよ」
自分たちもアイゼンガルドの情報がほしいが、お前も欲しいだろう、と遠まわしに告げているのだ。実際、グリマはセオドレドがアイゼンガルドから帰還してからというもの、遠くへの外出は一切行っていなかった。
グリマは悔しげに唇を歪める。
「貴様はガンダルフを知らんから奴を庇い立てするが、そのようなことをしたらきっと後悔するぞ。灰色の魔法使いは疫病神よ、いつもいつも厄介ごとが起こる前にやって来るのだからな」
少女は眉をひそめた。
「それでもというのなら、連れてくるがいい。貴様が自分から馬鹿な真似をしでかしてくれるのなら、こちらも貴様を処分する手間が省けるというものだ」
グリマは呪詛のようにはき捨てた。
「…では明日、ガンダルフ殿と面会ということで、いいですね?」
それはただの負け惜しみとも思えず、の胸中には不安の影がよぎった。







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