セオデンたちが出発して十五日目。
起床をしたはすぐさま意識を鷲に飛ばした。
東を監視するために飛ばした鷲たちはアンドゥインに沿って配置している。
その数は五羽。
他にもエルケンブランドが向けた見張りがいた。
しかし夜の間に敵に近付かれてはこちらもすぐには気付けない。
高空に羽ばたき眼下を眺め、不穏な影は見つからなかったことに安堵して、ようやく一日が始まるのだった。









使者の到着











早朝の馬の世話をしに館を出ると、は外を見上げた。
東の方に厚い黒雲がかかり、この時刻にしてはずいぶんと薄暗い。
一体、東では何が起こっているのだろう。
もう決着がついたのだろうか。知りたいことは山ほどあった。
モルドールは遠すぎて、鷲の目であっても見通すことはできない。
いっそのこと一羽くらいセオデンたちの後を追わせようかと何度も考えたが、断腸の思いで諦めていた。
がやるべきことははマークの民を守る事。
暗黒の国とその主のことは、セオデンたちの領分だ。
たとえ鷲を飛ばしたとしても、には彼らを助けることはできない。
ならば自分の持ち場で最善を尽くすことに全力を傾けようと、不安で折れそうになる心を必死に支えるのだった。
厩に入るとすでに仕事を始めていた女たちがいた。
しかし馬たちの様子がおかしい。は近くにいる女に話しかけた。
「今日はずいぶんと落ち着きがないみたいね」
そうしている間にも、苛立ったようないななきをあげながら棹立ちになるものもいた。
離れたところにいるブレードが、主人の声を聞きつけてガタガタと柵を揺らす。
「ええ。怯えているようなのです。おそらく東の風のせいでしょうが」
肘まで袖を捲り上げていたその女は、水の入った桶を下ろしながら答えた。
ここ何日か、東の方から訳もなく不安な気持ちにさせる風が吹いてくるようになった。
敵の力が強まっているのだろうという憶測が流れているが、事実はにはわからない。
「今日は外で運動させるのはやめておいたほうがいいかもしれない。こんなに震えていては散り散りに逃げていきそうだもの」
「そうでございますね」
女は頷いての側を離れる。
も硬い表情でブレードの柵に駆け寄っていった。



この日のエドラスはいつにも増して活気がなかった。
家々から昇る煙も少なく、外で作業をしている者たちは不安げに東の方に目を向けている。
恐ろしくて何も手につかないと館を訪れる者も多かった。
大勢で寄り添っていれば少しは不安も和らぐだろうとは広間を解放する。
そしてそうすることしか出来ない自分を歯がゆく思いながら、自分も彼らと共にいることにした。
正午になろうとする頃、一際大きな風が館を揺さぶり、煙出しや高窓から吹き込んできた。
わずかだが、足元も揺れている。
それはがこの地へ来て始めて遭遇した地震だった。
赤ん坊は火がついたように泣き出し、子供たちは母親のスカートにしがみついた。
兄弟たちに母親を独占されてしまった年長の子供たちが、それでも一人では不安だというようにの周りに集まってくる。
「皆、落ち着いて。ただの風よ。それに地震だって揺れは小さいもの。館が壊れることはないわ。大丈夫。怖がらないで」
そう言うの声も震えていた。これがただの強風や地震ではないことには気付いている。
しかし異変は他にも起こったのだ。
鷲の目で東の空を眺めると、空を覆いつくしていた黒雲が徐々に薄らいでゆき、その隙間から太陽の光が零れ落ちていた。
力を増した陽光は大地を明るく照らしてゆく。
青みを増す空を渡る風は清清しく、先ほどまで感じた不安が嘘のよう消えていった。
(何が、起こったというのだろう…)
世界が突如として光を取り戻したようだった。
唐突な変化にはいぶかしみ、自分の目でも確かめようと館を出た。
「暖かい…」
太陽が姿を現しただけとは思えないほどのぬくもりが身体を包み込む。
「姫さま、さっきのは何?これからどうなっちゃうの?」
にくっついてきた少女が見上げてくる。
「…わからないわ」
は小さく頭を振った。
終わったのだろうか。
勝ったのだろうか。
だがそう信じても良いのだろうか。
騎士たちは戻る事ができないことを覚悟して旅立ったのではないか。それほど勝利は薄かったはずだ。
ぬか喜びだったら立ち直れなくなるだろう。だが、この感じが悪しきことの前触れだとはとても思えなかった。
視線をふもとに転じると、さきほどまで狂ったように騒いでいた家畜たちは平静を取り戻している。
「姫様」
ユルゼに呼ばれては振り返った。
「ユルゼ、心配しなくてもいいわ。多分だけど、今日はもう、何も恐ろしいことは起きないと思うの」
ユルゼはゆっくりと青空を見上げて微笑んだ。
「わたくしもそう思います」





予期せぬ変化に戸惑いつつも、館に集った人々の多くは自分の家に戻っていった。
も放ってしまった仕事を片付けるために忙殺される。
しかし平常に戻ったのも束の間、日が落ちる頃になって東から近付いてくるものに気がついた。
急いで鷲に意識を傾けると、それは真っ直ぐマークに向かっていた。
初めは小さな点にしか見えなかったが、徐々にその姿を現してくる。
(あれは…もしかして)
はアンドゥイン上空を旋回させるだけだった鷲を急いで向かわせた。
(やっぱり鷲だ!でも、なんて大きい…)
こちらに向かっているのは鷲の群れだった。先頭を切る鷲は特に大きく、頭に金の冠を戴いていた。
(もしかしてあれが、レゴラスが言っていた鷲の王様?)
金の冠をつけた鷲もの動かす小さな鷲に気がついたようで、針路を修正しながら近付いてきた。
数分もすると鷲の群れとの紙人形は一定の距離を空けて対峙することになった。
しかしは鷲の操縦にいささか苦戦をする。大鷲が起こす風が強すぎて、飛ばされてしまいそうになるのだ。
それにしても大きかった。がアイゼンガルドで作りあげた鷲の倍以上ある。
大鷲はを視界に収めながら重々しく口を開いた。
「我らと同じ姿をしながらそのみっともないほどの小ささは何なのだ。我らの身内にお前のような者はおらぬ。お前は何者だ。我らを愚弄しているつもりか?」
鷲の機嫌はあまり良くないらしい。
「御前を遮る無礼をどうかお許しください。わたしは・レオフォスト。馬の司の国ローハンに住まう者です。失礼ながら、あなたは大鷲の王グワイヒアであらせられましょうか?」
「いかにも、私はグワイヒアだ。しかしローハンに鷲の一族がいるという話は聞いたこともない」
鷲の王はまだ険しい目でを観察していたが、声音はずいぶんと優しくなった。
「わたしは鷲の一族ではございません。人の子の魔女です。これはわたしの作った使いで、血肉を備えた生き物ではないのです」
「魔女だと?」
グワイヒアは疑い深く聞き返した。は慌てて言葉を続ける。
「はい。ですが、わたしは悪しき魔法を使う者ではありません。もしもあなたが魔法使いのガンダルフをご存知ならば、わたしが彼を味方と思っていると言えばご納得いただけましょうか?それからわたしにあなたのお名前を教えてくれたのは、闇の森のエルフ、レゴラスです」
「ガンダルフとな、レゴラスとな」
鷲が鼻を鳴らしたように見えた。
「その二人がお前を知っていると?」
「はい」
はどきどきしながら肯定した。もしこれでも信用してもらえなかったら、の鷲と同じくらいの大きさの嘴で突かれてしまうかもしれない。
無論、式神なので攻撃されても自身はなんともないが、もただ利便性だけで鷲の式神を使っているわけではないのだ。この姿には愛着があるので、心理的なダメージを受けてしまうだろう。
「そうか…。それで?なぜお前は我らがローハンに向かうのを邪魔立てするのかね?」
そっけなかったが鷲はの身元に関してそれ以上聞いてこなかった。それだけのことだったが、は嬉しくなった。力を得たは質問を続けた。
「邪魔立てしようなどとは思っておりません。ただ、わたしはあなた方が東から参られましたので、かの地で起こった出来事を何か知っているのではないかと思ったのです」
「いかにも知っている。我らはモルドールとの戦いに参じたのだ。そして戦いは終わり、我らは勝利を知らせに参った。ゴンドールへ、ローハンへ、エルフの住む国々へ。谷間と湖の町へとな」
「…勝った?」
が呆然と呟くと、鷲の王は大きく頷いた。
「西方世界とそこに住む善き生き物の勝利よ。指輪はオロドルインの火口に溶け、サウロンは滅びた。指輪所持者とその従者も無事である」
「オロドルインの火口?指輪…所持者?」
初めて聞いた単語に、は首を傾げる。
「そこまでは知らないのか。ならばしばし待つが良い。ローハンへも国人が戻り、詳しく教えてくれるだろう。九本指のフロドと滅びの指輪の物語を」
鷲の王があまりにも恭しく口にするので、は圧倒された。二羽はしばしの間、見つめあう。
「さて、・レオフォストよ。我らはこれよりローハンの空を飛び、彼らに勝利を告げに行く。お前も共にゆくか?」
「光栄です、大鷲の王よ。でもその前に、重ねて質問をする無礼をお許しください。ローハンの王は、騎士たちは無事なのでしょうか?」
「黒門の前に集まった騎士がすべてというのならば、ローハンの若き王ともども多くは無事である」
大鷲の王の答えに、は息を飲んだ。
「若き王ですって!?」
「そうだ。彼ならば無事だ」
「待ってください。ローハンの王はセオデンです。彼は若くなどありません!」
脳裏に浮かんだのは最悪の結果だ。何かの間違いではないかと、は言い募る。
「では別の者なのであろう。私は黒門前の戦い以外は知らぬ故」
「そんな…」
少女は言葉を失った。
(マークの騎士で若き王と呼ばれる者がいるとしたら、エオメル以外には考えられない。だけどそれならセオデン王は?あの方はどうなってしまったの…?)
「どうかしたのか?見目が揺れている」
グワイヒアが怪訝そうな声音で告げた。の視界も画像が途切れがちになっている。
動揺が大きく過ぎて術の維持ができなくなっているのだ。
「もうしわけありません。わたし、これ以上留まっていられないようです…」
「術が解けるか?」
「そのようです。せっかくのお誘いでしたが…」
こうしている間にも五羽の鷲のうち、通常の監視作業をさせていた鷲が次々と元の紙きれに戻ってゆく。
残ったのは、グワイヒアらと対峙している一羽だけになった。
「その様子では仕方がなかろう。だが別れの前に一つだけ」
「な、なんでしょうか」
「今後も我らの姿を使うのならば、もっと立派な姿にしてくれないか。みすぼらしい体格では我らが一族の沽券にも関わる」
「大きいと、操作が難しいんです…。ですが、善処します」
声を振り絞って答えると、グワイヒアは
「そうしてくれ」
と至極真面目な顔で返してきた。
ここでの視界は閉ざされ、術がすべて解けたことが感じられた。
鷲の王の前であの式神はもとの紙に戻り、風に乗りながら地へと落ちておったのだろう。
あるいは、アンドゥインの流れに飲み込まれたかもしれない。
(驚いただろうな、鷲の王様…)
はちらりと笑みを浮かべたが、すぐさまドレスの胸元を握りしめて身を折った。
恐ろしい考えが拭い去りがたく、心臓が激しく内側から叩いていた。身体の震えがとまらない。
(もしかしたら陛下も…お亡くなりに?)
セオデンも帰ってこないのだろうか。遠からず消えてしまう塚を作られて、その下に埋められたのだろうか。
セオドレドのように。
(そんなのってない!)
ふらつく足をひきずって椅子までたどりつくと、倒れこむように腰掛けた。
しかしの中の冷静な部分がこの場に他の誰もいなくて良かったと安堵していた。
この知らせを皆に伝えれば自分は楽になれるが、確証のない情報で民を不安にさせるわけにはいかないのだ。
セオデンは負傷して戦場にでなかっただけかもしれないではないか。
しばらくそのままでいたのだが、館の外から沸き起こった歓声では立ち上がった。
鷲たちが上空まできているのだろう。
は気が進まないまま館を出ると、家を飛び出してきた住人たちに取り囲まれた。
口々に喜びの声をあげる人びとに、はたじろぐ。
今はまだ異変を悟らせてはいけないと無理やり笑顔を浮かべた。
そして一日も早く使者が訪れてくれることを祈りながら、は細い月の浮かんだ空を見上げた。










勝利の知らせを受けて二日後、エルケンブランドからの使者が到着し、もう数日は警戒を解かないでおくが、何も起こらなければエオレドだけは見張りとして残し、他の者は故地へ戻すと知らせてきた。
そして四月に入った頃、その言葉通り北の国境を守っていた男たちの一部が帰還してきた。
エドラスから国境警備に向かった者は少なかったのだが、それでも悲壮で湿っぽい雰囲気の漂っていた頃に比べればじゅうぶん活気が戻ってきていた。
そしてそれから十日以上が過ぎたある日。館の前で遊んでいた少年たちが息せき切ってを呼びに来た。
「姫さま、姫さま!使者が来たみたいですよ!」
「早馬が向かってきています。早く、早く!」
「ああ、そんなに引っ張らないで」
奥向きの仕事をしていたは、急かす少年たちに苦笑しながらついてゆく。
「あそこです、ほら!」
館の前には十数人もの子供たちが集まっており、きゃあきゃあと騒いでいた。
春の日差しは薄暗い室内にいた者にはいささかまぶしく、何度か瞬きをしてから子供らが指さす方向に目を向けた。
乾いた土が舞い上がり、視界は良好とは言い難いが、確かにあの鎧姿の男はローハンの騎士のようであった。
「本当だわ。ありがとう、知らせてくれて。出迎えの用意をしなくてはね」
微笑むと少年たちはえへへ、と照れ笑いをする。
「王さまからの使者さまかなぁ」
小さな女の子が大きく手を振りながらを見上げた。
「会ってみなければそれはわからないけれど、陛下からの知らせならいいわね」
王様、というのがセオデンなのかエオメルなのかもわからないが、とは心の中でつけたした。
「うん!王さまたち、早く帰ってきてくれないかなぁ。そしたら父ちゃんも戻ってくるんだもん」
女の子は顔一杯の笑顔を浮かべてはしゃぐ。
無心に喜びを示す子供たちを羨ましいと思いながらも、は侍女を呼んで使者のために飲み物と軽食を用意させた。



使者は馬の速度を落とすことなく黄金館まで来ると、ひらりと鞍から降りた。
埃にまみれてはいるが、その男がエオメルの配下であり、彼に付き従ってゴンドールへ向かった事をは覚えていた。
「お久しゅうございます。レオフォスト姫」
恭しく頭を下げる使者に、は近付いてゆく。
「あなたが来たということは、王からの知らせを携えてきたと思ってよいのでしょうね?」
「その通りでございます姫君。ですが、その前に一つ確認したいことがございます」
「なにかしら?」
は手振りで使者の馬を休めるように指示した。興奮の極まった子供の何人かが自分がやりたいと騒ぎ立てたが、戻ってきていた伯楽の一人にすげなく追い払われていた。騎士の馬は上等の軍馬でその分気位も高く、大人でも蹴られたらひとたまりもないのだ。
「わたくしはまずこの知らせをエドラスの統治者に伝えねばなりませぬ。エオウィン姫がおられない以上、その務めはレオフォスト姫が継がれたのではないかと陛下は考えておられるのですが、如何に?」
「……確かに、わたしが引き継ぎましたけれど。ということは、やはりエオウィンはゴンドールに行っていたのね」
「は…」
のため息に使者はばつが悪そうな表情になった。
「とにかく詳しい話は中でしましょう」
自ら扉を開け、は使者を誘った。そしてついてこようとする子供らを制して扉を閉ざす。
これから告げられることは良い事ばかりではあるまい。
知らずに済めば良いことや、一人の内に秘めておかなければならないことがあるはずだ。
は広間を通り抜け、執務室として使っている部屋へ使者を先導した。
「どうせ聞くのなら悪い知らせからが良いわ。その後に良い知らせを聞けばそれほど落ち込まなくて済みそうだもの。あなたは王からの使者だと言ったけれど、その王というのはセオデン様のことなの?それとも…」
「ご存知でしたか…」
使者は悲しげに目を伏せた。
「大鷲の王が勝利を告げにマークを尋ねてくださったのです。わたしは一足先に、監視にとアンドゥイン沿いに魔法の鷲を差し向けていたので、直接話を聞くことができたのよ。ただ、鷲の王は黒門前の戦いしかご存知ないということだけれど」
「セオデン陛下は、ミナス・ティリスの前に広がるペレンノール野の合戦においてご落命あそばされました」
「………」
はやはり、と思いながら目を閉じた。
そうではないかとは思っていたが、事実であると確認することはまた別の衝撃だった。
「殿が父祖の地へと旅立つ前にエオメル様が間に合われ、新王への祝福を授けられたと…。そして殿の亡骸はゴンドールの王たちが眠る墓所にご安置されているとのことでございます」
「では、セオデン王はマークの地に帰ることはないというのですか?」
使者に当たっても仕方がないが、には納得でいなかった。
「わかりませぬ。それはエオメル王とエレスサール王、つまり我々がアラソルンの息子アラゴルンと呼んだ方々で決められることでしょう」
「ならばエオメル王が戻ってこれるのは、いつ頃になるのかしら?」
「当分先のことになると思われます。はっきりしたことはまだ…」
は小さくため息をついた。
「そう…。ああ、そういえば、アラゴルン殿も王位を継がれたのね。死者の道を行くといってきかなかったので心配していたのだけど、無事に抜けられたのね。レゴラスやギムリ殿も無事なのかしら。それに一足先にゴンドールへ向かったガンダルフ殿やピピンも」
「皆様ご無事でございます。ただ、メリアドク殿はペレンノール野の戦いで負傷されましたが」
はぎょっとして目を見開いた。
「メリーが!?まさかあなたたち、メリーを戦いに参加させたっていうの?」
「いえ、それが、セオデン王はメリアドク殿がついてこられたことをお知りではなかったのです」
「な…」
は絶句し、すぐにもう一つの可能性にも気がついた。
「それではまさか、エオウィンも?彼女も戦いに加わったというのではないでしょうね!?」
「加わっておられました。そして殿を守ってナズグルの首領の前に立ちはだかり負傷なされたのです。ですが、ご心配召されませぬよう。姫様は、ミナス・ティリスの療病院で手厚い看護を受けておられます。そしてメリアドク殿の方はすでにご退院なさっておられます」
は大きく息を吐いて倒れるように椅子に座り込んだ。
「そう…。他に、悪い知らせは?」
「幾人もの騎士が命を落としました。しかし一人一人の名をあげるのは大層時間がかかることでございます」
は組んだ両手に視線を落としながら頷いた。
たとえ戦いに勝利しようとも、失ったものは取り返せない。犠牲は大きなものだったのだろう。
(とはいえ、陛下のことは皆に告げなければならない。だけどエオウィンのことは伏せておこう。命に別状がないのなら、回復してから戻ってくるのだろうし。それなら心配させるだけだもの)
は方針をひとつ決めると、再び使者に向き直った。
「では、次は良い知らせを聞かせてください。この戦いで、何が起こったのか」
「ええ。わたくしの知る限りのことをお教えいたしましょう」
九本指のフロドと滅びの指輪の物語は、太陽が西に傾くまで続いたのだった。










それからさらに一月が過ぎ、新たな使者が到着した。
エオメルと騎士たちが戻ってくるという知らせが、緑の輝くマークに一層の喜びをもたらしたのだった。






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