「ねえ、でかけようよ!」
宣戦布告
はレゴラスにたたき起こされ、眠い目をこすりつつ大きくあくびをした。
決して彼女が寝坊をしたというわけではない。時刻はまだ日が昇り始めた直後であり、陣を張っていた兵たちもようやく起きだしてきた頃なのだ。一応中まで入ってきたわけではないのだが、テント越しに何度も何度も呼ばれてはたまったものではない。
身支度を済ませて外へ出ると、満面の笑顔を浮かべたレゴラスが、準備万端と用意を整えて「デートしよう」と誘ってきた。
「何もこんなに早くなくてもいいじゃない…」
まだ朝もやも消えないうちにはレゴラスに手を取られて歩いていた。
春とはいえ、朝方はずいぶん冷え込むのだ。ぶるっと身体を震わせて、少女は自分の肩を抱いた。
「だって、二人で行きたかったんだもの。皆が起きたあとだとホビットたちもついてきちゃうだろう?」
すかさずレゴラスは自分のマントで少女を包み、華奢な肩に腕を伸ばした。は文句を言いたそうにエルフの青年を見上げたが、目が合うと頬を染めてさりげなくそらした。
「イシリアンの野伏たちに、このあたりのことを詳しく聞いたんだ。急ぐ必要はもうないし、ゆっくり見てまわろう。ね?」
輝く笑みで顔を覗き込まれ、はつられて苦笑した。
しばらく歩いて、朝日がすっかり昇りきった頃に朝食をとることにした。
朝露でぬれている草地の上に、どこに入れていたのかレゴラスが取り出した皮の敷物を敷き、持ってきたパンにバター、塩漬け肉にチーズを広げた。飲み物も持ってきている。干した果物もあるのだが、途中で苺を見つけたので、摘み立てのそれをデザートにすることにした。
「この辺って、モルドールに近いわりにはあんまり荒れてないのね。まあ、ほかのところに比べれば、っていうくらいの差だけど」
はパンにチーズを挟みながらしみじみと感想を漏らした。
イシリアンに来るまでに地上の様子を俯瞰しながら来たのだが、モルドールに近づくにつれ、痛々しい傷跡が刻まれているのが空からだとよくわかるのだ。
オスギリアスなどの要所や主要街道などは特にひどく、木々に隠れがちではあったがエフェル・ドゥアスの裾野に広がる森も例外ではなかった。
ここにも例外なくオークが通ったと思しき跡が見受けられるが、往時の美しさをしっかりととどめているのだ。
「このあたりはイシリアンの野伏たちが守っていたところだからね。影が近くなりすぎて、住む人がいなくなったあとは手入れが行き届かなくなってはいたけれど。それにすぐ東はエフェル・ドゥアスだけど、その影には入っていないし、北にはエミン・ムイルがある。そこに南の暖かい風が流れてくるんだ。だから草も木もどんどん育つ」
レゴラスは杯を口に運びながら説明した。は興味深そうに相槌を打ちながらパンをほおばる。
レゴラスは少し笑うと考え深そうに表情を引きしめた。
「将来、父の許しを得て闇の森の一族の一部をこの地に引っ越させようと思ってる。森のエルフがいれば、この地は清められるだろうからね」
「じゃあ、レゴラスもここに住むの?」
驚いて目を丸くする少女に、レゴラスはしっかりと頷いた。
「そうなるね。結構住むにはいい場所だと思ってるよ。ミナス・ティリスは近いし、それにギムリも燦光洞に一族を率いてきたいって言っていたから、離れ山にいられるよりはずっと近いし」
そこでは楽しそうに笑った。エルフとドワーフの不仲っぷりの一部を知っている身としては、かれらの変化がたまらなく貴重で、いとおしいものに思えたのだ。しかし、少女の笑顔は次の一言で強張った。
「しばらくの間だけだけどね。それは人間の1ヶ月か、一生か、百年か、わからない。だけど、アンドゥインが近い。アンドゥインは流れ下って海に通じているんだ」
「…そう。そうだね」
「」
「そのほうがいいよ」
はいつものように微笑もうとした。だがどうしようもなく唇も瞳も震えてしまう。
レゴラスはそんな少女を見つめて静かに口を開いた。
「その時にはもここに住んでほしいんだ」
少女は黙ってうつむいた。しばらくの間沈黙が漂う。
は小刻みに震える両手で杯を持ち、中身を一気に飲み干した。
少女の顔には苦笑があった。柔らかく、優しく、しかしどこか拒絶の色がある。
はすっかりいつもの調子に戻っていたようだった。少なくともそう振舞うことにしたらしい。
「それはちょっと難しいかもね。引越しをするとなったら、色々準備も必要でしょう。間に合わないと思うわ。でも、もし迎えが来る前に…」
「はぐらかさないで、そんな答えが聞きたいんじゃない!」
レゴラスの鋭い叫び声に、はびくっと身体を固くした。
「私の気持ちは知っているでしょう!?あなたを愛しているんです。当たり障りのない適当な答えでごまかしたりしないで。その気がないのならはっきりそう言って。望みがないなら希望なんてもたせないで。あなたが優しくしてくれるたびに、私は莫迦な勘違いをしてしまう。に、君に愛されているのだと…」
「レゴラス…」
泣きそうな表情のレゴラスには肩を落とした。己の浅はかな思いやりが彼を傷つけたのだ。
「わたしに、何を望むの?」
「君のいる未来。それだけでいい」
「それ、多分一番難しいことだわ」
は悲しげに微笑む。
「、私が好き?」
レゴラスはぽつんと呟いた。
「好きよ」
ごまかすのを諦めて、はレゴラスに向き合う。
「ヴァロマ殿と私ではどっちが好き?」
「…比べるようなものじゃないわ」
「かもしれない。でも、私は知りたい」
レゴラスの真剣な眼差しに、はすうっと大きく息を吸った。
「多分ね、レゴラスがわたしを好きなのと同じように、わたしもレゴラスが好きなんだと思うの」
「え…!?」
思いがけなくストレートな告白に、レゴラスはわが耳を疑った。
嬉しいと思うよりも先に驚いてしまって、ぽかんと口が開いた。
「でもね、どれだけあなたを好きでも関係ないの。わたしにとって、ナセは特別だから」
はっと気付いた時にははクスクス笑っており、自分は千載一遇のチャンスを逃したのだと悟り、気が遠くなった。
「最後の戦いの前に、一緒に過ごしたでしょう。あの時にわたし、あなたがこの戦いから生きて帰ってきたら、そして人間でもいいからとわたしを望んでくれるのなら、その申し出を受けようと思ったの」
「…本当に?」
信じられないとレゴラスが問う。は小さく頷いた。
「でも無理だとわかったわ。日に日に指輪の力がどんどん強くなって…暗くて、冷たくて、苦しくて、何度も心の中で助けを呼んだの。『助けて、ナセ』って。…あなたのことを思い出したことは、なかったわ」
「……」
「答えは、最初から決まっていたみたい。わたし、きっと勘違いしていたのよ。危機的状況を共にした相手とは、恋が芽生えやすいって、いうじゃない。恐怖のドキドキを恋のドキドキだと勘違いするんですって。だから、家に帰って落ち着いたら、あなたのこともこの世界のこともいい思い出に変わると思うわ」
はそっけないほど淡々と話した。膝の上に乗せている両手は震えないようにしているかのようにきつく握り締められている。
「じゃあ、私も勘違いをしているって?」
レゴラスは怒ったように眉をつり上げた。
「それはあなたの問題だからわたしにはわからないわ。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でもどちらにせよ、わたしの答えはこれではっきりしたの。あなたは大事な仲間で、大好きだけど、恋してるわけじゃない」
はきっぱりと顔をあげた。
「…じゃあ、なんで泣いてるのさ」
レゴラスはふてくされたように呟いた。
「泣いてなんかいないわ」
「泣いてるよ。…ほら」
レゴラスはの頬に手を伸ばして拭った。目の前に差し出された彼の手は、確かに透明な液体で濡れている。
「…あれ?」
も自分の目元に手をやると、本当に自分が涙を流していたので不思議そうな声になった。まるで気付いていなかったのだ。
レゴラスは涙を拭ってる少女を長い腕を伸ばして抱き上げ、自分の膝の上にのせた。
「レゴ…」
「まったく、君ってば!頭はいいかもしれないけど、肝心なことは全然知らないんだから!恋なんてものには理屈なんか通用しないんだよ。いつの間にやら勝手に心の中にすみついて、引っ掻き回され振り回されて、いやだと思っても止められない。普通なら笑って受け流せるような些細なことに、嫉妬して、不安になって、そんな自分がいやになることもある。今だってみっともないくらい、余裕がなくなってる。今だって怖くて不安で…。私はこんなに情けない自分を今まで知らなかったよ」
レゴラスは抱きしめた少女の肩に額を預ける。
「あなた自身はこんなに素直なのに。なのに同じあなたの口から出る言葉は、理性の名の元に私を切り捨てるんだ」
「そんなつもりは…」
「」
少女の弁解を遮って、レゴラスはの目を覗き込む。
「ねえ、どんな気持ちがする?」
レゴラスは少女の頬に唇を寄せた。
「答えてよ」
身をすくめて真っ赤になる少女に、レゴラスは答えを促した。
「…わからない」
「そう?なら、これは?」
今度は唇に口付ける。啄ばむようなものではなく、吐息ごとからめとるような深いものだった。ようやくレゴラスが離れると、少女はぐったりと力が抜けていた。
「君がヴァロマ殿を特別に思う気持ちは、わからなくもないよ。私だって私が育った森は特別だもの。なのに鴎の声を聞いてからというもの、森は安らぎの場ではなくなってしまった。愛しいと思う気持ちは変わらないのに。
ねえ、。私ではヴァロマ殿の代わりは出来ない。でも、あなたはあの方の下でしか幸せになれないの?私では駄目なの?あなたは私を愛してくれていると思ってる。それは、それこそ、馬鹿なエルフが勘違いしているだけなの!?」
は酸欠でいまだに荒い息を繰り返しながらも、レゴラスの胸に寄り添うように身を預けた。
「勘違いなんかじゃ、ないわ」
「結婚しよう」
レゴラスが言うと、は顔を上げて「はい」と答えた。
泣いたために目のふちが赤くなっていたが、落ち着きを取り戻した彼女の眼差しは、ひたむきな愛情を讃えて輝いていた。
「でも、その前に約束してほしいことがあるの」
晴れ晴れとしてにこやかに、少女は人差し指を立てた。
「どんな?」
「エルロヒアがね、言っていたの。あなたはわたしが死んでしまったら、嘆きで死んでしまうって」
「…うん。多分そうなると思う」
レゴラスは真面目な表情で頷いた。
エルフにとって、人の子の寿命は短すぎる。古にはドワーフよりも長寿であったヌメノールの血を引くアラゴルンでさえ、今ではどこまで生きられるか。ガイアの生まれであるはその彼よりも短いのだろう。それでも、
「でも、それは私もわかっていたし、それくらいでへの思いを諦めたいとは思わなかったんだよ。が気に病むだろうとは思ったけど、どうか重荷だとは思わないでほしいんだ」
「わかってる。そういうことじゃなくて」
は少し言いづらそうにしていたが、すぐに気を持ち直した。
「わたしが死んだら、どうか海を渡ってください。わたしのわがままでしかないけど、あなたに死んでほしくはないんです。わたしと過ごす時間の他にはあなたから恩寵を奪いたくないの。悲しんでくれたら、それでいいんです」
「それは…できるかどうかはわからないけど、できるだけ頑張ってみる。だけどその言い方ではと過ごす時が悪いもののように聞こえるよ」
眉をひそめるレゴラスには小さく笑うと、それから、と続けた。
「もし生きている間に鴎の呼び声に堪えきれなくなったなら、その時もわたしに気兼ねはしないでほしいの。西へ行きたいと思うのがエルフの本能なら、わたしにはどうしたって鎮めることはできないのだもの。ペラルギアでのあなたは、本当につらそうだった。わたしはあなたの枷になりたくないわ」
「私はガイアに行くつもりになってるんだけど。君がいるなら場所なんて、本当にどこでもいいんだから」
ミドルアースに留まる気でいるらしい少女に、レゴラスは言い諭そうとした。
ガイアにはヴァロマがいるのだし、少女の両親もエルフの自分を受け入れてくれるかどうかわからない。しかしフロドとともに指輪を請け負い、傷ついた彼女からこれ以上何を奪うというのか。
自分が行こう。
レゴラスはそう決意していた。彼の地にはマンドスの館などあるはずもなかろうから、死んだあとの自分はそのまま消滅するかもしれない。それは絶対に気が合うことなどないだろうが、少なくとも少女を愛するという一点では意見が一致したヴァロマに対する略奪の償いにもなるだろうとも思った。
しかし、少女はあっさり首を振った。
「あなたはガイアには行けないわよ。賭けてもいいけど即座に却下されると思うわ」
「…ずいぶん自信があるんだね」
「だてに十九年も一緒にいたわけじゃないもの。ナセがどういう風に考えるか、ちょっとはわかってるつもり」
「ということは、はヴァロマ殿は相当私のことを気に入らないと思うんだ。まあ、私でもそう思うから、仕方ないね」
そんなものだろうと思っていたので、レゴラスは特に気にはしていなかった。しかしのほうでは気になったらしく、眉間にしわを寄せてレゴラスをにらんだ。
「そんなことはないわ。そりゃ、少しはレゴラスのこといじめるかもしれないけどで、もそれって娘を手放したがらない父親と同じようなものだもの。わたし、レゴラスとナセって時間はかかるかもしれないけど仲良くなれると思ってるわ」
「〜。それはさすがに無理だよ。私は恋敵なんだよ?仲良くだなんて、父がグローイン殿となるよりもありえないよ」
「大丈夫だってば。だってレゴラス、わたしが好きなんでしょう?わたしはね、こういっちゃなんだけど、両親よりもナセに育てられたといっても過言じゃないんだから。それに父だって生まれた時からナセと一緒にいるのよ。そのわたしがナセに似なくて誰に似るっていうのよ!」
「…つまり、君が好きなら、ヴァロマ殿も好きになるはずだと?」
「ええ」
は躊躇なくうなずいた。
「…そうかなあ。そううまくいくかなあ〜」
レゴラスは頭を抱えたが、そうなるはずだと信じ込んでいる少女に対してこれ以上のコメントは控えることにした。とりあえず、まだ起こっていない事柄なのだから。
「でも、それなら尚更私がガイアに行くことに問題はないんじゃ…」
「レゴラスはエルフだから」
はひっそりと微笑んだ。
「ガイアに居場所がないの。住むところがとか、そういうことではなくて、もっと根本的な意味で。でもここにも人間がいるから、生まれは違ってもわたしが存在するのは許されるはずよ。あなたはナセのことを良く思っていないから信じられないかもしれないけど、ナセはわたしがここに残ることを許してくれるはずだわ。色々文句いうかもしれないし、ぜんぜん祝福してくれないかもしれないし、わかるような言い方で結婚の許可をくれるかどうかもわからないけど、でもそれがナセのやり方なの。逆に、ナセがあなたをガイアに連れて行ってもいいと言ったら、その時はナセがあなたをどうしようもなく憎んでいて、殺すためにそうするのだとわたしなら思うわ」
「…ずいぶん、肩を持つんだね」
レゴラスはいじけたようにそっぽを向いた。ヴァロマに対する信頼が満ち満ちた少女の言葉が面白くなかったのだ。
「レ―ゴラス、すねないでよ、もう!しょうがないじゃない、わたしにとってナセは特別なんだって言ったでしょ!それにナセに対する傾向と対策の一つも知らないで会うつもりなの?だいたい、」
はいったん言葉を切った。わずかだが肩が落ちて寂しげな表情になる。
「あなたと一緒にいるためには、あちらのことをすべて忘れないといけないの?」
「そんなこと…!」
レゴラスは何度も首を振り、その後、無神経なことを言ってしまったのだと落胆した。いくら気に入らなくても少女思いを踏みにじるような真似は大人気なさすぎる。
(しょうがないなあ…)
レゴラスは大きく息を吐いた。
敵は十九年間彼女を独占していたのだから。大切に、大切にしていたのだから。
でも、いつか…
「ごめん、大人気なかった。もちろん忘れなくてもいいよ。の大切な記憶なんだから。でも、いつか、あなたが辛い時には私の名を真っ先に呼んでくれたら、私としてはとても嬉しいのだけど」
恥ずかしそうに語尾を濁らすエルフの青年に、少女の胸にはいとおしさが込み上げてきた。
初めて自分から青年の首に腕を回し、唇を寄せた。まだ照れがあったので、彼の唇から少しはなれたところになってしまったが。
「頑張ってみるわ。二十年も立つころにはきっとあなたが一番で、特別になっているはずよ!」
「二十年…」
少女の胸の内にある敵の力は大きい。改めて思い知ったレゴラスは喜べばいいのやら悲しめばいいのやらわからなくなり、思わず遠い目になった。
「あの…」
はレゴラスを見上げて恐る恐る尋ねた。
「なに?」
上機嫌なエルフの青年はうっとりとした眼差しで少女を見下ろして答える。
「今日、なの?いま、これから?」
少女は背中に冷や汗が流れるのを感じた。逃げ出したいのだが地面に仰向けになっているため、逃げられない。
「結婚してくれるんでしょう?」
当然のようにレゴラスは聞き返してきた。彼は少女の上に覆いかぶさるように両手を地面につけている。
なんとか話し合い(?)の決着もついたので朝食の続きをとろうと考えていたであったが―あまりにも幸せで特に食欲は感じていないくらいではあったが―レゴラスは一向に彼女を離そうとはせず、勢いに任せて押し倒してきた。
「わ、わたしはミナス・ティリスに戻ってからだと…!それに、今はまだお昼前でっ!ここ外だしっ!」
結婚するといった以上、いずれはそういうこともあるのだろうとは思っていたが、まさかこんなにすぐとは思わなかった。心の準備もまだなのに、いきなりこれはないだろう。
「…暗くて屋根のあるところならいいの?」
「そういう問題じゃなーい!」
不思議そうに聞き返すレゴラスに、もしかしたらエルフは外でやるのが普通なのかもしれない、などと思うであった。
「とにかく、ここはいや!今すぐなのもいや!やめてくれないなら離婚するからね!」
結婚もまだなのに離婚するもないだろうが、混乱したはそのことには気付かない。
「わかったよ…」
不承不承ではあるが、レゴラスが彼女の上からどくと、はほっと息をついた。
レゴラスは荷物を背負いなおし、少女を起き上がらせると、手をつないで歩き出した。
「じゃあ、ヘンネス・アンヌーンに行こうか。私は洞窟ってあまり好きじゃないんだけど、他にちゃんとした場所はないからね」
「はい?」
のんきそうに言うレゴラスに、は思わず聞き返した。声が裏返ってしまっていたが、それも致し方がないだろう。
「ちょうどいいや、にも見せてあげたいと思っていたから。このあたりでは一番綺麗なところなんだよ」
にっこりと幸せそうにレゴラスは笑った。
は、やっぱり今日なんですか?とは怖くて聞けなかった。
エルフの青年と人間の少女の恋人たちがやきもきする王の待つ陣営に戻ったのは、それから五日後のことだという。
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