5月の初めの日、アラゴルンは戴冠して王となった。
王として入城を果たした後は論功行賞の日々が続く。
味方には賞賛の言葉と褒美を与え、敵だった者たちとは和睦を結ぶ。
その間指輪の仲間たちには第七階層にある大きな家が用意され、思い思いに過ごしていた。
それらの一切に一段落がついた六日目に、レゴラスとは結婚式をあげた。
旅の仲間が解散する前にぜひ祝福を受けたいと二人が望んだからだ。
双方ともに承認者となるものがいないため、その場に集ったものが立会い人となるとした簡素なものだったが、列席者は旅の仲間の七人、裂け谷の双子たち、ゴンドールの執政、ローハン国王とその妹、ドル・アムロス大公といった錚錚たる顔ぶれになった。
美しい刺繍の施してある上着に銀の糸を編んだ繊細な冠をつけたレゴラスは森の公子にふさわしくしなやかな若木のようであり、花嫁となる少女は髪に花を飾り、薄紅色のドレスも愛らしい初々しい姿だった。
ガンダルフが代表となり式を執り行う。
エルフの青年と人間の少女は白の魔法使いの前で互いに目を見交わしあい、誓いの言葉を口にする。
少女を見下ろすレゴラスは愛しさを込めて微笑んでいる。
レゴラスを見あげるは眩しいものを見るように目を細め、その頬は幸福に酔いしれているように紅潮していた。
レゴラスが背をかがめてに口付けると周囲から一斉に祝福の言葉が飛び交った。
式の後は宴になった。内輪だけのくつろいだ宴会では、陽気なホビットがビールのジョッキを片手に歌い踊り、新郎新婦には次々と酒が注がれた。一足先に花嫁となった少女とエオウィンは小鳥のようにおしゃべりをし、一方レゴラスはエオメルから恨み半分こめられているような手荒い祝福を受けていた。
Doppel
それから二日後にはローハンの騎士たちは帰郷のために出発した。エルラダンとエルロヒアも彼らに同行して馬を進める。
しかし旅の仲間たちはアラゴルンのたっての願いでまだゴンドールに残っていた。
ホビットはあちこち好奇心のままに見物に繰り出し、ギムリは都の再建のために外へ出かけて行っては2、3日部屋にこもって図面を引いていた。働き者のドワーフは、壊れた建物を前にしてじっとしていられなかったのだ。アラゴルンはもちろん王の務めが忙しく、ガンダルフは家にいることが多かったが、時折ふらりと姿が見えなくなることがあった。
レゴラスとはあまり外に出ることはなかった。もっとも、が外出をしないのはレゴラスにせいであったりするのだが。しかしレゴラスが寝台から出してくれないという理由からではなかった。
結婚式が終わるとレゴラスは父スランドゥイル宛に手紙を書いた。指輪破棄のための旅の内容は長くなるので直接話せばいいや、という大雑把な理由により割愛された。彼が伝えたかったのは自分が結婚した、ということだったのだから。
磊落な性格の父親ならば、レゴラスがいきなり結婚したくらいでは動じたりしないだろうが、相手は異世界の人間の娘である。そして婚姻によって力を失ったとはいえ魔法の使い手であり、指輪破棄に一役買った実績の持ち主だ。(もっともが失ったのは巫女としての能力であって、持って生まれた素質―見えざるものを見る眼など―はそのままであり、また白鳥ローブは能力のあるなしに使えるものなので、サウロンが滅びた今、困るようなことはなにもないのだが)そのような少女に父親がどうでるか、レゴラスにははっきりいってよくわからなかった。
珍しくレゴラスが机に向かっている姿に新妻たるは興味をそそられ、彼の手元を覗き込んだ。羊皮紙には羽ペンで流麗な文字が綴られている。は物珍しそうにレゴラスが手紙を書き綴ってゆくのを眺めていた。
レゴラスは途中で手を止め、を引き寄せると頬にキスをした。それから微笑んで羊皮紙をひらひらと振る。
「早馬に頼んでもいいけど、多分南の人の子は闇の森には慣れていないだろうからね。明後日にはローハンの人々が帰るのに同行してエルラダンとエルロヒアも都を出るのだそうだよ。だから彼らに手紙を託そうと思ってる。ロリアンまで戻れば使いの鳥を出してもらえるから、そのほうが早く着くしね」
「ああ、手紙を書いていたのね」
そこではようやく納得したように頷いたので、レゴラスは首を傾げた。
「、もしかしてこれ、読めない?」
レゴラスが問うとはあっさり肯定した。
「話し言葉と読み書き能力は別だもの。今まで特に必要としていなかったしね。でも、そうね、こっちに残るなら覚えないといけないわね」
うっかりそう言ってしまったばかりにその日からはレゴラスを教師としてエルフの文字のみならず、歴史や文化、膨大な数の歌を教え込まれることになった。レゴラスはに教えられることがあるのが嬉しいらしく、嬉々として熱弁を振るった。少々性格に難があろうともそこはエルフ王の息子である。持っている知識は並みの量ではなかった。はもともと頭を使うことが苦にならない質であり、呑み込みも速かったが、そのために一層レゴラスの熱意を煽る結果になった。
夏至の前日、アモン・ディンからの使者が到着すると都は一気に活気を増した。
北から近づく美しい人の一団がおり、すでにペレンノールの外壁まで来ているとの報告だったのだ。それを受けたアラゴルンは大いに喜び、都を挙げて彼らを向かえる支度をするように命じた。
日が暮れかかるころ、大勢のエルフたちが城門までやってきた。
先頭には銀色の旗を掲げるエルラダンとエルロヒア、ついで裂け谷の家中の全員が続く。そのあとにはガラドリエルとケレボルンがロリアンの民を大勢引き連れて白馬に乗っていた。最後には裂け谷の領主エルロンドと彼の娘であるアルウェンが控えていた。
アラゴルンが城門まで彼らを迎えに出ると(当然その後ろには王国の重臣や旅の仲間たちもいた)エルロンドは前に進み出てアラゴルンの手に娘の手を置いた。
そして夏至の当日、アラゴルン・エレスサール王はアルウェン・ウンドミエルとの婚礼の式を挙げた。
都はこれまで集ったことのないほどのエルフたちを迎え、祝賀の日々が続いた。
ロリアンからはガラドリエルの侍女としてが彼の地で世話になった女性たちも来ており、またハルディアも警備隊長として付き従って来ていたのだ。
見知った顔を見つけたは彼らに駆け寄ると、すでに彼女がレゴラスと結婚したことを知っており、祝いの言葉をかけてきた。ハルディアは心中複雑ではあったが、少女が幸せそうな表情だったため、彼女の前で文句を言い立てるのは止めにしたほどだった。
そんな中、ガラドリエルが席を立ってに近づいてきた。
の周りの人垣がさっと割れ、丈高く美しいエルフの王妃は慈悲深い微笑みを浮かべて二人の結婚を祝った。この時ばかりはレゴラスも殊勝な態度になり、恭しく礼を返した。
ガラドリエルは二人を王たちの間に連れてゆくと席を勧めた。
そこではようやくアルウェンとエルロンド、及び裂け谷の家中のものと言葉を交わしたのだった。
エルロンドは宴の合間にそっとレゴラスを人気の少ない窓際に呼び寄せた。
「私が何を言いたいのか、わかっているとは思うが…」
歯切れ悪くエルロンドが口を開く。
「後悔はしませんよ」
レゴラスは心得ているとばかりに間髪いれずに返した。
「余計なことだとは思っているのだがね。君はスランドゥイル殿の子息であり、私は彼を、そう、友人だと思っている。彼はそう思っていないかもしれないが」
エルロンドの言葉にレゴラスはふふっと笑った。
「父の愛情表現は息子の私から見てもだいぶひねくれてますから、心配しなくても大丈夫です。父も卿を友人だと思っていますとも」
エルロンドは率直なレゴラスの答えに苦笑した。
「スランドゥイル殿へ手紙を書いたそうだが、返事はきたのかね?」
「届きました。私は今まであんなに短い手紙を受け取ったことはありませんよ!」
レゴラスはその時のことを思い出してクスクス笑った。
一月ほど経って、スランドゥイルからの返事が来た。
王の印章の押されている封を開け、中を一瞥するやレゴラスは思い切り噴出した。
そこには達筆な父親の字で大きく、「馬鹿者」と書いてあったのだ。
その次の行は普通の大きさで「とにかく、連れてきなさい」とあった。
たった二行の返事だったが、どうやら父は許してくれるつもりらしい、とレゴラスは思ったのだった。
レゴラスが話しおわるとエルロンドはあの男らしいな、と呟いた。そして一つ息をつくと厳めしい表情でレゴラスに向き合った。
「言うまでもないが、人の子と結婚するのは同族同士との場合とは決定的に違うことがある。終わりがあるかどうか、だ。回避不能の離別とそれゆえの悲しみを負うことになろう。それについて、覚悟はできているのか?」
「…は何度か私の目の前で倒れたことがあります。固く閉ざされた瞳と血の温かさを失いかけた身体に、私も死んでしまいそうになりました。だけど、私の知らないところで彼女が再び倒れるのは我慢なりません。私は腕の長さよりも遠くに彼女を行かせたりはしない。たとえ、異世界のヴァラを怒らせることになっても、です」
「それについては私には何も言えないな。だがこれだけは言える。アルフィエル殿もまた指輪所持者であった、ということだ。期間は短くとも指輪は確実にかの乙女に悪しき影響を与えているだろう。それがどんな形で現れるか、私にはわからないのだが」
「フロドやサム、それにビルボ殿はどうなるのです?」
レゴラスの疑問にエルロンドは難しい顔つきになった。
「このことはまだ他言無用だ」
「心得ております」
「指輪所持者は我らと共に海を渡ることになろう。サムワイズ殿はすぐではないにしても。
指輪を持ったものはその傷の大きさゆえに中つ国に留まり続けることが難しいのだ。だが、アルフィエル殿はイルーヴァタールの子ではないゆえ、西に渡ることはできないだろう。レゴラスよ、もし、かの乙女を救うことができる者がいるとしたら、それはそなたが敵視し、乙女が決別することを決意した異世界のヴァラをおいて他にはいないと私は思う」
南に位置するゴンドールはすでに夏の兆しが見えていた。さらにエルフであるレゴラスには寒暖というのはほとんど感じない。にもかかわらずレゴラスはひやりとしたものをその背に感じていた。
「まあ、姫さま、お一人でございますか?」
「おはようございます。お珍しいですこと。エルフの殿はご一緒ではないのですか?」
少女の姿を目に止めた都の婦人たちが次々に朝の挨拶を送ってきた。
旅の仲間唯一の女性であり、指輪戦争の折には華々しさはなくとも重要な役を務め、さらには王に先んじてエルフ王の息子との婚礼をあげた少女はいつのまにか都の住人たちから「姫さま」と呼ばれるようになっていた。
彼女が第六階層より下に下りてくることはめったになく、あったとしてもそのときは大抵レゴラスが一緒であるので、婦人たちの反応もごく当然のものといえる。
「おはよう。心配しなくても、けんかはしていないわよ」
ふふっと笑って手を振ると、婦人たちは微笑んで軽く頭を下げた。
アラゴルンことエレスサール王の婚礼の祝賀の日々もようやく終わり、都はさらなる客人、先王セオデンを引き取りにきたエオメルとエオウィン、マークの騎士たちを迎えていた。
明けて今日、彼らを見送るために都は朝早くからざわめいていた。
七月も半ばに入り、昼にはめっきり暑さを増している。日が昇って間もない今の時間は涼しさが勝っているが、あと二時間もすれば汗ばんでくるだろう。
少女はいつもの白いローブの裾を翻し、道行く人々が声かけてくるのに朗らかに答えながら上へ上へと歩いてゆく。
階層と階層の間には門があり、その門は門衛によって護られていたが、彼らは少女の姿を認めると敬礼してすぐに通した。
四層目の途中で少女は城壁のそばに歩み寄り、眼下を見下ろす。城門の前には出発の準備を整えている最中のローハンの騎士たちや、彼らと同行するドル・アムロスやイシリアン、その他多くの大将たちにつき従う多くの騎士たちがいた。少女は楽しげに眺めていたが、しばらくすると名残惜しそうにその場を後にした。
七層目の門をくぐると、花をいっぱいにつけた白の若木がさやさやと枝をそよがせていた。この木はガンダルフによって見出され、アラゴルンによって移植されたニムロスの子孫である。傍らにある噴水の飛沫を浴びる若木の横を通り過ぎ、少女は王たちの住まう館の入り口の前まで歩いていく。
当然の如くそこにも衛士が立っていた。少女はくりんと首を曲げ、どうしたものかと考えるように頬に手を添えて立ち止まる。しかしその表情はいたって楽しげだ。
そんな少女に衛士たちは困惑し、互いに目配せを送りあう。この少女は王によってすべての道という道、門という門を自由に通行してよいという保障がされたいた。当然この王の館であろうと同じである。それ以前にも少女は何度となくこの門を通っているのだ。
「えっと」
少女は手を下ろすと、
「あなたたちの誰でもいいのだけど、王を呼んできてくれないかしら」
にっこり笑ったのだった。
「は…!?あ、あの姫さま、どうされたのですか…?」
衛士の一人は面食らったように聞き返した。確かに館の中にはエレスサール王がいる。しかし衛士である彼らは緊急時でもない限り持ち場を離れることは出来ないのだ。よしんば少女の頼みという名目で王のいる部屋までいたとしても、すぐに中に入ることは出来ない。王の前までいくまでに何度も取り次ぎを待たねばならないのだ。その点、少女にはそういったわずらわしさは一切ない。その場にいる衛士は皆そう思っていたのだが、しかし少女は、
「時間がかかってもいいわ。だって、わたし、まだこの先には入れないのだもの」
とまたしても彼らを困惑させるようなことを言うのだった。
「入れない、でございますか?」
「ええ」
柔らかな笑みを浮かべてはいるものの、少女の有無を言わせぬ強情さに弱り果てた衛士は、どれほど時間がかかるかわからぬと何度も念を押して仲間の一人を使いに立てた。そうなると彼らは本来の務めに戻らなければならない。規律も守れないようでは守備隊の名折れである。その中には務めに関係のない話をすることを禁じるものもあるのだ。たとえそれが手持ち無沙汰な少女の無聊を慰めるためであってもだ。
少女もそこは心得ているようでこれ以上彼らを困らせるようなことはしなかった。
入り口から少しはなれ、中庭のほうを向き、そのまま彫像のように立つ。艶やかな茶色の髪を形良く結い上げ、清らかな白さのローブの裾が風で揺れる様は一幅の絵のようであった。
衛士たちが安堵したことに、少女はそれほど待たされることはなかった。
接客に忙しい王に代って緊急性はないが蔑ろには出来ない要件はファラミアに回されていたからだ。この時も人々の集う広間から席を外していたところを厳罰覚悟で声をかけた衛士から少女の様子がおかしいと注進されたのだった。
「殿、中に入られぬとか。いかがなされた?」
ファラミアが少女に近づくと、少女はあら、というように小さく口を開けた。
「ええ、入れないの。王を呼んできてくださいな、執政殿」
困ったように微笑む少女にファラミアは驚いたように眉を上げた。
少女が彼を「執政殿」などと呼ぶのは今までなかったことだ。それに、ファラミアが広間を退出する時には彼女は広間にいたのだ。あれからまだ一時間と経っていない。
エルフやドワーフ、ホビットたち異種族ほどではないが、遠い国からきただけあって、は彼からするとずいぶん風変わりな行動を取ることがあった。レゴラスをはじめとする旅の仲間たちからの話を総合すると、故郷の風習や文化的差異というよりも、彼女自身の性質によるものらしい。しかしこれは極め付けにわけのわからない行動である。
「…新しい遊びかなにかですか」
そうファラミアが聞いたのも無理のないことである。
「いいえ、わたしは大真面目よ」
少女は思い切り噴出すと、肩をゆすって笑った。
「呼べばわかります。このままでは埒が明かないわ。さ、行って」
目尻に浮かんだ涙を拭きながら、少女はひらひらと手を振った。
ファラミアは首をかしげながらも、これは言われたとおりにするしかないと諦め、少し待つように言ってその場をあとにした。
「……殿」
広間に戻ったファラミアは、頭痛がしそうなこめかみを押さえた。
ここにはすべての用意が整うのを待っていた王と王妃、裂け谷とロスロリアンのエルフたち、ローハンの王族、ゴンドールの大将らが大勢集っていた。旅の仲間たちも例外ではなく、ファラミアに意味不明な用を言いつけた少女も夫たる金髪のエルフと共に歓談していたのだった。
「ファラミア、どうしたんですか?」
ずんずんと近づいてくるファラミアに、はきょとんとする。
「殿、これは一体どういうことなのでしょうか。何をなさりたいのです?」
「何がって、何が?」
わけがわからないという表情のファラミアに、もわけがわからないという顔になった。
「ファラミア、どうした?」
アラゴルンが異変に気付いて声をかける。
「は、その、館の入り口で殿から陛下を呼んでくるよう言い付かりまして」
「わたしが?」
ファラミアの返答にが驚いたように目を見開いた。
「何言ってるのさファラミア。はずっとここにいたんだよ」
少女の肩を抱いたレゴラスが代って答える。
「よく似た別人と間違えれられたのではありませんか?」
エオメルが言うと、
「月のない夜に頭巾を目深に被っているならばともかく、陽光のもとでこの方を見間違えるはずがありません。それに入り口前にいた殿は白鳥のローブを着ていらした。あの二つとない品を、他の誰が持っているというのです」
ファラミアは頑として否定する。
執政の強い口調に一堂の視線は自然とに集った。
はガラドリエルから贈られたエルフの旅装束姿だった。白鳥ローブは椅子の背もたれにかけてあるだけである。髪は結っていない。
「…その人、アラゴルンを呼んでくるようにとだけ言ったの?」
は考え込むようにあごに手を当てた。
「ええ、私が言い付かったのはそれだけです。よくわかりませんが陛下がいらっしゃらなければ中に入れないのだと…」
「入れない?」
何だそれは、と言いたげな一同とは逆に、の顔からはすっと血の気が引いていった。
「アラゴルン、わたしも行くわ。出迎えに、行きましょう」
は両手をきつく握り締めながら立ち上がった。
「、一体…」
「招かれもせずに押しかけるなんて失礼ですもの。主の了承を待っているんだわ。早く行きましょう。このままじゃ埒が明かないもの」
は白鳥のローブを羽織るとレゴラスを見あげた。
「ナセが、来たわ」
広間は水を打ったように静まり返った。
広間から入り口までの各所には衛士が何人も配置されている。
普段は静まり返ったそこを茶色の髪の少女と王を先頭に大勢の者がただならぬ雰囲気で通り過ぎていった。あまりのことに衛士たちはあっけにとられて彼らを見送った。
はアラゴルンだけでよいといったのだが、レゴラスは自分も行くと頑として言い張り、アルウェンは王妃として客人を出迎えるのは当然のことだと主張した。ガンダルフ、ガラドリエルが立ち上がると、そのあとは我も我もと後に続くものが続出したのだ。頭を抱えた少女は選別している暇はないとアラゴルンを急かして広間を出た。
ほとんど走るように入り口まで来ると、そこを護っていた衛士がぎょっとしたようにを見た。
その少し先には夏の日差しを受けて立つ小柄な少女の姿があった。
が来るのを待っていたように入り口の方を向き、穏やかな微笑みを浮かべている。
温かな茶色の髪、同じ色の大きな瞳、黄味がかった肌。
風になびく白いローブ。
顔立ちから背の高さまで、寸分と違わぬ少女がそこにいるのだった。
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